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神社は誰のものか? 創建1300年の大御和神社で起こった土地売却問題。揺れる徳島県国府町に迫った。

 

 

今、徳島県徳島市国府町では、ある問題が起こっています。

1300年以上続く大御和神社。

地域のシンボル的存在である神社の土地が売られてしまうという

宮司側の一方的な決定に、地域住民は反発。

有志が集い「守る会」を結成し大御和神社の危機を訴えました。

全国からは5000もの土地売却に反対する署名が集まり、地域を二分する対立に発展しています。

なぜ、神社をめぐり、このような話題が起こったのか?

各関係者への取材をする中で見えてきた、神社の危機。

地域社会における結びつきが弱まり、神社を支える基盤そのものが危うくなっています。

今回は、大御和神社をめぐる問題を通じて、神社の根源的な価値について、もう一度見つめ直します。

 

 

 

まずは、大御和神社とは、そもそもどんな神社なのか?

徳島県の郷土史家である林博章氏に話を伺いました。

 

大御和神社とはどんな神社なのか?

──大御和神社の歴史について伺いたいと思います。

どのような歴史を持つ神社なのでしょうか?

 

大御和神社が建てられたのは1300年前だと思われます。

律令国家が誕生した時、古代日本に設置された各国に国府が置かれました。

大御和神社は、その古代阿波国(徳島県)の国府の総鎮守として創建されたと考えられています。

 

 

 

──なぜ国府町に建てられたと考察されるのでしょうか?

国府町は、その名の通り古代阿波国(徳島県)の国府(府中)があった政務の中心地です。

国府には、国司(今の県知事)が在任していました。国府は別名「府中」(こう)と呼ばれました。よって地元では、別名「府中の宮」さんとして親しまれてきました。

 

──その鍵というのは、具体的にどんな役割を持ったのでしょうか?

大御和神社の社伝によれば、701年に大宝律令ができ、その翌年の702年に文武天皇に国璽と鍵を献上したことが伝えられています。

ここからも、朝廷にとっても当社は大事な神社であったことが分かります。

 

 

 

──大御和神社には鍵のマークがありますが、それはこのことを示しているのでしょうか?

えぇ、そうです。大御和神社は大事な古代阿波国の鍵や印を預かった故に、印鑰大明神と呼ばれるようになりました。

鍵とは、阿波国にとって大事なもの(宝物・書類などか?)を管理する倉庫の鍵のことです。

その誇りある歴史を後世に伝え、守り続けていくことが地元の誇りであったのでしょう。

故に、幟(のぼり)や瓦にも鍵のマークをつけたのです。

 

 

──大御和神社には拝殿の屋根に天皇家の菊花紋章がありました。

その意味を教えてもらえますか?

平安中期、927年の「延喜式」神名帳には阿波国50座が定められていますが、その名方郡条に「大御和神社」が載せられ、当時、朝廷からも認められていました。

江戸時代に入っても、その誇りある歴史が語り継がれ、菊花紋章がつけられたのだと思います。

 

 

 

大御和神社が歴史ある重要な神社であることは、林博章氏が解説した通り。

では、なぜ地域にとって重要な神社の土地が売却されるのか?

土地売却を阻止すべく、全国に署名活動を展開している「守る会」のメンバーに話を伺いました。

 

 

「守る会」森本会長が語る守る会結成のきっかけ

──守る会を作ることになったきっかけを教えていただけますか?

 

「守る会」森本会長

 

5月1日に、突然神社側から通告があり、「神社の土地を売却する」ということを一方的に知らされました。

神社を支える氏子に対しては、正式な形では何の報告もなかったのです。

 

──お知らせを受けて、神社側に土地売却についての質問をする機会はあったのでしょうか?

みんなで集まって神社側と話をするという機会はありませんでした。

ただ氏子たちは、何か大変なことになっていると個々で感じているだけです。

 

──今に至るまでは、神社と氏子の関係はどのようなものだったのでしょうか?

各地域で氏子の代表として総代が選ばれ、総代が神社側と直接話をするということをしていました。

ただ総代は選ばれるというよりは、順番制や、なり手がいないからなるというようなものです。

総代が神社売却の話を承認するとは思ってもいませんでした。

 

 

 

【守る会のメンバーそれぞれの想い】

ここからは、守る会のメンバーの人たちに実際に話を聞いてきました。皆さんそれぞれの思いを語ってくださいました。

 

──今回、神社の売却の話を聞いてどう思いましたか?

 

黒崎あかね さん(仮名)

 

私は妹と一緒に「守る会」で活動しています。

今回の土地売却に関しては、突然知りました。

神社を見た時に足場が組まれていたので、耐震工事でもするのかなと思って過ごしていたぐらいです。

ですが、足場関係者から府中の宮が取り壊されると聞いてビックリしました。

このことを近所の人に伝えても、みんな何も知らないという感じで……。

 

 

そんな時に森本会長や他の方と出会って、守る会を結成しました。

ただ結成当時は、今回のことを知らない人が多かったので、守る会は孤立感があったんです。

それでも、徐々に地域の人やSNSを通して全国の人から「それはおかしいよ」という話を聞いて、自分たちの違和感は正しいんだと思うようになりました。

府中の宮さんは、私の年代を含めて昔はお祭りがあって賑わっていましたが、年々縮小化していって寂れていっているということは感じていました。

私たちは大御和神社という正式名も知らないぐらい関心がなかったというのは正直なところです。

ただそれでも、神社がなくなるなんて思っていませんでした。

この状況になって初めて由緒ある神社だと知りましたし、若い人の関心が持てるような神社になっていけたらと、今は思っています。

 

 

黒崎優子 さん(仮名)

 

今、姉が言ったことと似ているんですが、子供の頃から神社の境内で遊んでました。

毎年あったお祭りも楽しみにしていて、思い出がたくさんあります。

身近すぎて、神社というのは、あって当たり前だと思っていました。

でも神社側の事情を知ると、金の面で苦労されているとのことでした。

その辺りの事情を知ろうとしなかった私たちも反省すべき点はあると思いました。

この地域の人たちだけじゃなくて、全国から意見を頂けるので、色々な意見を取り入れていきたいと思います。

もしかしたら時間がかかるかもしれませんし、難しいかもしれませんが、色々な年代の方と一緒に守っていけたらなと、今は思っています。

 

──神社の経営は、現代では難しいのでしょうか?

 

川野弘之 さん

 

お金はかかりませんよ。あの神社は町の公園のような感じなのですから。

大御和神社は1200年から1300年も続いているお宮さんです。

その間に天災・飢饉・疫病なんかもありました。

様々な苦難を祖先は神社を守ってきたのです。

それが、今になって急に売るなんて言い出したのです。

少し売るのではなくて、8割がた売ってしまうというのです。

これでは府中の宮がなくなるというのと同じです。

10年以上前にも、「神社を建て替えるから、1億5000万円ぐらい用意しないといけない」と神社側から言われたのですが、その時はちょうどリーマンショックがあった時期でもあって「そんなことをする必要はない」と断ったことがありました。

寄付が来ないのであれば、土地を売って建て替えをしようと言うのが今回の話です。

 

 

 

──もし、神社の土地が売却された場合、地域においてどんな影響が出るでしょうか?

 

大御和神社には樹齢数百年の楠の巨樹が何本もあります。

鬱蒼と茂っている森が現代では少ないのです。

私たちの心のオアシスにもなっていますし、子どもにとっては遊び場、災害があれば避難所になります。

微高地に神社が建っているので水害の時の逃げ場にもなっています。

非常に価値のある場所なのです。

この森を守りたい。地区の財産を守りたいというのが、私たちの願いです。

私はよく言うのですが、百年の木を10本集めても、千年の木にはなりません。

そうですよね?

千年の木を切ってしまうのは大きな社会にしても損失ですよ。

お金が足りていないというなら、どうやって集めるのかを考えるのが先です。例えば今の時代だったらクラウドファンディングとかもあります。

ですが、今の宮司さんは聞く耳を持ってくれないのが問題です。

 

 

 

福田好子さん

私は歴史研究家でも郷土研究家でもありません。

今回のことがあるまで、大御和神社のことを何も知りませんでした。

ですが、知れば知るほど宮司さんの行動には疑問点を感じますし、この由緒正しい神社を一センチでも売ってほしくないというのが、今の気持ちです。

宮司さんには、収支報告や売った後のお金を何に使うのかをきちんと説明してほしいと思っています。

 

 

三好小百合 さん(仮名)

 

私は地元の府中の地区で生まれ育ったので、小さい時から府中の宮さんは、心のよりどころでした。

それなのに5月1日に神社を売却するという話を聞いて驚き、守る会を作りました。

私は今の宮司さんのお母さんとは幼馴染で、仲のいいグループだったんです。

2、3年前にそのグループで集まった時に、「お金が集まらなくて困っているの」という話を聞き、その時はみんなで考えなきゃいけないねと話をしたのですが、それで終わってしまっていました。

その時に、もっと詳しく話を聞いて、氏子全体に広げてみんなで考えることができたら、今回のようなことにはならなかったのかもしれないと思っています。

 

 

高野薫 さん(仮名)

私も実家がこの近くです。

幼い時から、大御和神社のお祭りを楽しみにしていました。

小さい時は、こんな風な着物を着つけてもらって、髪飾りをして、お化粧もして……。

家でもお祭りの日は、五目ずしと決まっていて華やかなハレの日でした。

七五三もこの神社でしたし、人生において一番身近な場所で、年代に応じた思い出があります。

 

 

それに、大御和神社は、地域にとっても公共的な面もあります。

神社の広い敷地が仮になかったとしたら、火事が起こった時に避難する場所がなくなってしまいます。

森は硝煙を抑える役割があります。

阪神淡路大震災の時も、この地域が全て宅地だったら恐らく全部燃えてしまったのではないでしょうか。

さらに神社の周りには用水が流れている堀があるため、守ってもらっています。

私たちは神社から様々な恩恵を受けているので、私たちも神社を守っていかなくてはいけないと思っています。

 

 

 

君島宏行さん

 

もし、今までのやり方で神社が成り立たなくなってきているのであれば、時代に応じたやり方に変えることが必要だと思います。

宮司さんが、もっとみんなの声に耳を傾けたら、ここまで大事にはならなかったと思います。

売却あるのみという風に、一方的に物事を進めるので、地域で対立が起こってしまいました。

お宮にどういう価値があるのかというのは、みんなの使い方や考え方で変わってくると思います。

だから町おこしの一つとして、国府町を皆さんが見直してくれたら、次の代次の代へと伝わっていくのではないでしょうか。

シンボルは大御和神社。

千年以上続いてきているということは、歴史的な建造物なのです。

部分的にでも直していけば何とかなります。

建て替えるのではなく、修繕しながら進めていけば経費も掛からないと思います。

今回の騒動が、古いものを見直すきっかけになればと私は感じています。

 

 

 

「大御和神社を守る会」の活動は、刊行物・チラシ・D V Dの制作に及び、土地売却の撤回を求めS N Sを中心に署名活動を行っています。

署名総数は5000を超え、全国から様々な激励が届いているという。

さて、今回大御和神社の売却を決めた宮司側は、一連の騒動に関してどのように考えているのか?

次回は宮司側から見た神社の現状について語っていただきます。

 

 

神社は誰のものか? 創建1300年の大御和神社で起こった土地売却問題について、宮司に直撃インタビュー

 

 

編集・構成 MOC(モック)編集部
人生100年時代を楽しむ、
大人の生き方マガジンMOC(モック)
Moment Of Choice-MOC.STYLE

 

 

PROFILE

大御和神社を守る会

徳島県国府町の住人を中心に、有志で結成された会。
TwitterなどSNSを中心とした発信により、5000もの署名を集める。

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