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小池一夫氏、映画を語る 【第2回】「謎と美女と悪魔と私」

 

 

小池一夫氏の大ヒット作『子連れ狼』は、『Lone Wolf and Cub』として海外にも熱狂的ファンをもつ。現在ハリウッドでリメイクの製作が進められており、日本に逆輸入される日も近いだろう。今回は、海外にも影響を与えてきた小池一夫氏がオススメする必見の映像作品を紹介してもらった。

 

 

他人の「弱み」は見る者の興味をかきたてる

悪魔の書をめぐるミステリー『ナインスゲート』

 

 

悪魔の書に隠された謎解き

 

ジョニー・デップという俳優は、自分に合わない役を選んじゃうことがありますね。『パイレーツ・オブ・カリビアン』。あれはどうかな。何やってるんだかわからないでしょ。ヘラヘラ笑ってるだけで。

初めは結構イイ線いってたのに、途中から悪ふざけの遊びばかりになって。ジョニー・デップが演じる海賊船の船長が、主人公なのか脇役なのか、善人なのか悪人なのか、欠点ばかりの人間なのかそうでないのか、全然わからない。飛んだり跳ねたりして笑ってるだけ。だから爆発的に売れる要素がそろっていながら、そこそこの興行収入で終わっちゃった。

 

 

 

 

『ナインスゲート』のジョニー・デップは、よかったですよ。

 

ジョニー・デップ演じる主人公は、稀少本専門の本の探偵。悪魔の書を集める富豪に呼び出され、調査を依頼される。そこで見せられたのは、「悪魔を呼び出す手引き書」とされる古書『9つの門』。現存する3冊のうち、どれが本物なのかを見極め本物を手に入れてほしいという。

その本には9枚の挿絵が入っていて、本物の挿絵には悪魔のサインが入ってるんですね。本物の9枚を集めると、悪魔を呼び出すことができる。

他の2冊の持ち主2人は何者かに殺されたが、主人公は謎を解いて本物の9枚を集める。でも、実はそのうちの1枚が偽物だった。依頼主の古書コレクターは、悪魔の呼び出しに成功したと信じ、己の身に石油をかぶって火をつけ、焼け死んでしまう……。

 

 

 

 

謎を追いかけていくと物語になる

 

この映画には、もう1人、キーパーソンとなる女性が登場します。その女性がまた美しいんだ、これが。この女性に惹かれて観ているところがありますね。

 

最初は図書館で、本棚のこちら側と向こう側に2人がいて、本と本の隙間からお互いの顔が見える。ジョニー・デップが反対側に回ると、もうそこに女性はいない。その不思議な出会いから、彼の行く先々にその女性が現れて、何かと助けてくれる。この女性が、最後の1枚のありかも教えてくれて……。

 

クライマックスには、この美人とジョニー・デップの情熱的なセックスシーンがあるんです。コレクターが焼け死んだ古城の門前で、2人がセックスを始める。城からは炎が上がり、悪魔の城を思わせる不気味な光景の中で。そして、ついに9枚目を手に入れたジョニー・デップは、古城の門を入っていく……どうです、ラストがいいでしょう?

 

物語を創るときに大切なことは、筋立てを考えることじゃない。ストーリーをどうしようかと考えあぐねても、いい案は出てきません。大事なのは「キャラクター」、そして「謎」です。

たとえば、そこに死体がある。刑事が死体を見つける。凶器は45口径の拳銃。犯人は誰だ——とね。その謎を解いていくわけです。謎を追いかけていくと、それがいつの間にかストーリーになる。そういう作り方をした作品には、次に何が起こるかわからないという緊張感が生まれるわけです。

 

主人公の弱さが魔性を引き寄せる

 

『ナインスゲート』のジョニー・デップはなぜいいかというと、主人公として、ちゃんとした「弱み」をもってるから。物語の主人公は、何かしら弱点があるほうが人に好かれる。味のあるキャラクターになるんです。

 

『子連れ狼』で言えば、主人公は剣の達人。だけど3歳の幼児を連れてる。それが弱みになる。子どもがいないほうが、いつでもどこでも大活躍できますよね。完璧な主人公。でもそれ、興味をそそりますか? 面白くないですよね。腕が立つのに、それが十分に発揮できないという苦悩がある。そこがいい。

 

 

 

 

『ナインスゲート』の主人公は、善人じゃないんです。人を傷つけるような狡猾さではないけど、善人面をしながら平気で人を騙せるような、ちょっとした小狡さがある。そういったずる賢さって、誰もがちょっとずつもっているでしょう? それが人間の弱さなんです。

だから見る者は、この人物に好感はもたない。だけど、この人物がどうなっていくんだろうという顛末に、ぐっと興味をそそられるわけです。

 

そのキャラクター設定は、初めのほうのシーンで表現されています。

古書の鑑定を頼まれた主人公は、その蔵書のコレクションを見ながら「これはすごいな。相当な高値がつくものばかりですよ。他の専門家にも聞いてみてくださいね」と感心してみせる。その後で、帰り支度をしながら言うんですよ。「そうそう、これはあまり高く売れませんよ。よければ、いま現金で買い取らせてもらいますけど?」。

それで、一番いい本を安値で手に入れちゃう。それくらいの騙しは平気でやるんですね、この主人公は。

 

それから、けんかに弱くて殴られてぶっ飛んじゃうし。殺し屋に見張られると、喫茶店から一歩も外に出なくなっちゃうし。弱くて小狡いんです。

結局、その小狡さが弱点になって、自分を死に追い込むような恐ろしい仕事に引きずり込まれてしまった。自分でも気がつかないうちに、悪魔に好かれ、その悪魔に魅せられてしまったんですね。

 

こういう平凡な主人公が事件に巻き込まれていくというストーリーは、映画で昔はよく使われたんです。今の映画にはそれが少なくなった。強いスーパーヒーローばかりではつまらないですね。

 

 

『ナインスゲート』(1999年)

監督 ロマン・ポランスキー

主演 ジョニー・デップ

 

 

ミステリーには謎が散りばめられている。それを拾っていくのが「平凡」な主人公であることが、私たちの心を刺激するらしい。弱さや狡さを持つ人間でしか、開けることのできない鍵があって、そうしてやがて謎は解けていくのかもしれない。

 

写真:田形千紘  文:SAWA

 

 

 

 

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編集・構成 MOC(モック)編集部
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PROFILE

小池 一夫

作家・漫画原作者。1936年秋田県生まれ。
70年「子連れ狼」(画/小島剛夕)の執筆以来、小説、漫画原作、映画・テレビ・舞台等の脚本など幅広い創作活動を行う。
代表作に「首斬り朝」、「修羅雪姫」、「御用牙」、「クライング・フリーマン」など多数。77年より漫画作家育成のため『小池一夫劇画村塾』を開塾。独自の創作理論「キャラクター原論」を教え、高橋留美子、原哲夫、板垣恵介、堀井雄二、椎橋寛ら、多くのクリエイターをデビューさせ、現在も後進の指導にあたっている。
2004年には米国漫画界のアカデミー賞と呼ばれる「ウィル・アイズナー賞」殿堂入り。

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