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大人とは、己を知ること。ポップ・マエストロ 沖井礼二(TWEEDEES)が選ぶ「自分を形成するアルバム」とは?【第2回】

 

 

前作『The Second Time Around』から、およそ2 年ぶりとなるサード・アルバム『DELICIOUS.』をリリースしたTWEEDEES。MOC では、メイン・コンポーザー沖井礼二さんに新作を紐解きながら、「今、大人が聞くべきアルバム3枚』を紹介してもらっています。第二回となる今回は、アルバムの中でも聴きどころの1つであるPIZZICATO FIVE『東京は夜の七時』のカヴァー制作秘話を伺いつつ、90 年代のムードについて振り返ってもらいました。

 

 

──「Medley:東京は夜の七時~21 世紀の子供達」は、どのように作ったのですか?

 

まず、昨夏くらいにPIZZICATO FIVE の「東京は夜の七時」をTIWEEDEESでカヴァーしたいなと思ったんです。何故かはよく自分でも分からなくて、「突然ひらめいた」としか言いようがないのだけど。それを清浦に話したら、案の定「ええ? マジでやるんですか……?」って反応でしたね(笑)。

清浦は1990年生まれだから、1994年にリリースされたこの曲のことを、リアルタイムでは知らなくて、とてもバブリーな曲だと思っていたんですね。

実はそれって清浦だけじゃなく、彼女と同世代の多くが勘違いしていることじゃないのかなと。

例えば「渋谷系」にしても、90 年代の他のサブカルチャーにしても、何かすごく勘違いされたまま定着しつつあることに、ちょっとした居心地悪さを感じているんですよ。

 

 

 

 

──というのは?

 

僕らの世代は概ね20 代の頃に90 年代を迎えるわけですが、あの時代が楽しかったのは、それまでの価値観が89 年を境にガラッと変わったからなんですよね。

その2 年前に冷戦が終わっていたり、90 年代半ばからインターネットも徐々に普及し始めたり、これまでになかった価値観がどんどん入ってきて。

で、日本のポップカルチャーも、世界に引けを取らないものになっていく。

ロンドンもニューヨークもパリもベルリンもすごいけど、トーキョーの方がすごくない? みたいな。

なんなら、キョートはもっとすごいみたいな風潮があったじゃないですか。

そういう時代に生きている実感がありましたよね。新しい情報、新しい価値観を、僕らが「作っている」というよりは「見つけてる」という感じ。実際、リサイクルの時代だったし、リサイクルであっても、クリエーションが出来ることを発見した時代。

それを存分に楽しんでいたのが90 年代だった。で、それが特別なことだと今の若者は知らないわけですよね。何しろ、そこからずっと「リサイクルの時代」は続いているから。

 

 

 

 

──新しい価値観として登場した時の衝撃を知らずに享受しているということですよね。

 

だから、90 年代は今よりもたくさんCD も売れてたし、人々はお金もたくさん持っててバブリーな時代だったんだろうと思っちゃっているのだろうけど、違うんですよ。

すでにバブルも弾けて経済も萎んでいく中で、新しい文化が新しいテクノロジーで生み出されていったというか。

もちろん、インターネットが普及するのは90 年代後半だから、情報収集は今よりも手軽ではなかったじゃないですか。

まだまだ足で探さなければならない、オリエンテーリング的な楽しさもありましたね。

 

──「東京は夜の七時」は、“あなたに逢いに行くのに朝からドレスアップした”という高揚感を描きつつも、“待ち合わせたレストランもうつぶれてなかった”という、移ろいゆく東京の虚しさも表現していて。

あの時代のリアリティが詰まっていたと思うんですけど、そこに今回、「Medley: 東京は夜の七時~21世紀の子供達」では沖井さんの新たな歌詞が加わったことで、21 世紀の東京はさらに虚無が加速しているというのを見事に表現しているんですよね。

実際、どういうプロセスを経てあの形になったのですか?

 

さっきも言ったように、今の自分の居心地の悪さを解消するためにカヴァーを始めたのですが、なかなか上手くいかず挫けそうになった1 年でしたね(笑)。

何しろ原曲の完成度がとても高いので、単純にアレンジしたところで「2018 年の東京」で鳴らす意味のあるカヴァーになりにくいなと。

それで色んなパターンを考えているうちに、新たなセクションが出来てきてしまって。

で、おそらく“ぼんやりTV を観ていたら”とか“留守番電話が”とか、今の若者にはピンと来ないだろうな、と。下手したら「昔は良かった」という意味でカヴァーしたと思われかねない。

 

 

 

 

──今の若者はテレビをほとんど観ないし、留守番電話も知りませんからね。

 

その部分の歌詞は、オミットせざるを得ないなと。あとはもう腹を括って、原曲の一番大事な“早くあなたに逢いたい”というところへ到着するためのストーリーを、今の沖井礼二として作るのが、あの曲に対する2018 年からの一番のリスペクトなのだろうなと思ったんです。

 

──さっき沖井さんは「TWEEDEES ってなんだ?」に向き合わなければならなかったとおっしゃっていましたが、このメドレーは小西康陽さんと沖井さんの曲が入り混じることで、より「TWEEDEES らしさ」が際立ったのではないでしょうか。

 

そうですね。結局僕はバンドのスタイルに向かっていっちゃうし。90 年代の感覚からすると、ちょっとアウトな方というか、若干マッチョなタイプのコンポーザーだと思いますね。

 

──いわゆる「DJ 的な発想」ではなく「バンドマン的な発想」でのコンポーズということですね。

 

ええ。それが浮き彫りになったというのは、おっしゃる通りだと思う。だって僕はそういう風にしか作れないから。実際、アレンジしながら楽しくなりましたね。「ああ、本当に違うんだな」って分かるから。

思うにあらゆるカヴァーは、オリジナルを作るよりもアーティストの個性や特性を、むき出しにしてしまう行為だと僕は思うんですよ。

Cymbals でもキンクスやストーンズ、フーなどいろんなカヴァーをやってきたけど、そこを意図的に見せようとしていたところはあって。

「この曲を、こういう風にカヴァーすることで、自分たちの音楽性を紹介しやすくなる」と思ってた。TWEEDEES のファーストでもジミ・ヘンドリクスの「Crosstown Traffic」と、ジュディ・ガーランドの「OverThe Rainbow」をカヴァーしたけど、あの2 曲をああいう形でファーストに入れたことにより、TWEEDEES の紹介がすごく楽になるなと思ったんですよね。

 

 

 

 

──ああ、なるほど。

 

でも、今回の「東京は夜の七時」のカヴァーには、最初からその作為がなかったんですよね。「ピチカートのこの曲をカヴァーしたら、TWEEDEES をどう見せられるか?」みたいなことを、最初は全く考えなかった。

それは何故だったんだろう。そんなことを考える余裕もなかったからかも知れないですね(笑)。

やり始めてからは、色んなことに気づき始めましたけど。

 

 

PIZZICATO FIVE の「東京は夜の七時」をカヴァーすることによって、90年代が内包していた特殊なムードと現在のTOKYO を、鮮やかに映し出してみせた沖井さん。

今回の話を踏まえて『DELICIOUS.』を聴きなおしてみたら、また新たな発見があるかも知れないですね。さて、いよいよ次回は、沖井さんオススメのアルバムを紹介していきます!

 

 

写真:杉江拓哉( TRON)   取材・文:黒田隆憲

 

 

 

 

 

 

 

大人とは、己を知ること。ポップ・マエストロ 沖井礼二(TWEEDEES)が選ぶ「自分を形成するアルバム」とは?【第1回】

 

 

編集・構成 MOC(モック)編集部
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PROFILE

沖井 礼二

作曲家/音楽プロデューサー/アレンジャー/ベーシスト。

1997年、土岐麻子、矢野博康を誘い”Cymbals”を結成。同グループを率い8枚のシングル、5枚のフルアルバム、3枚のミニアルバムのプロデュース、作詞・作曲・編曲、アート・ディレクションを担当。

2003年9月のCymbals解散以降は作・編曲家として多くのCM、ゲーム、アニメーション、テレビ番組等の音楽制作に携わる。イザベル・アンテナ、RYUTist、さくら学院、星野みちる、竹達彩奈、花澤香菜、尾崎由香、シティボーイズ公演、NHK「大!天才てれびくん」、バンドじゃないもん!(以上楽曲提供)、清 竜人25(編曲)、いきものがかり、ムッシュかまやつ、伊藤美来(以上ベース演奏)など多岐にわたる分野で活躍中。

2015年1月、清浦夏実(Vo.)との新バンド”TWEEDEES” を発表。

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