人生100年時代を楽しむ、大人の生き方 Magazine

大人とは、己を知ること。ポップ・マエストロ 沖井礼二(TWEEDEES)が選ぶ「自分を形成するアルバム」とは?【第3回】

 

 

今年10月に待望のサード・アルバム『DELICIOUS.』をリリースしたTWEEDEES。そのコンポーザーであり、ベーシストである沖井礼二さんに「大人が聴くべき3枚」をセレクトしてもらいました。Cymbalsのリーダーとして、90年代の日本ポップミュージック・シーンを牽引し、今なお精力的に曲を作り続ける沖井さん。彼のモチヴェーションの源となるアルバムとは……?

 

 

──ではここで、沖井さんが選ぶ「大人が聴くべき3枚」を紹介して頂きたいと思います。今回、どんなテーマで選んでくださいましたか?

 

この間の(横山)剣さんの、自身の音楽体験からくるセレクトも楽しかったし、菊地(成孔)さんによる音楽史的な切り口も圧巻でしたが、僕の場合は剣さんよりもさらにパーソナルな視点から選んだ、もっと言えば「僕自身を“形成”した音楽」という話になると思います。そういう意味では、前半でお話ししたアルバム作りの話ともリンクしますね。

 

 

 

 

──なるほど。楽しみです。

 

まずは、スタイル・カウンシルのセカンド『Our Favorite Shop』(1985)。これは僕がリアルタイムでスタカンを聴いた最初のアルバムですね。おそらく最初、先行シングル「Shout to the Top!」(1984年リリース。のちにアルバムにボーナス・トラックとして収録)がラジオでかかって。「変な曲だな」と思いつつ気になり、それでアルバムを購入したのですが、実はそのグループがあのザ・ジャムのポール・ウェラーが新しく始めたバンドだということを、あとで気がつくんです。で、正直「ジャムよりもいい!」と思った。

 

 

 

 

──それは意外ですね。もともと沖井さんは、ジャムの『This Is The Modern World』の裏ジャケで、高くジャンプするブルース・フォクストンに憧れてリッケンバッカー・ベースを購入したんですよね?

 

そう。自分はパンクロッカーだと自負してたから、最初は一所懸命スタカンを否定しようとしてたんですよ(笑)。「これは俺の好きなウェラーじゃない」って。でも、どうしても否定しきれない。「なんで俺は、このアルバムがこんなに好きなんだろう」って不思議だった。おそらく、その否定しきれないところこそが、僕の本質と近いものなんじゃないかと思うんですよね。「パンクは、音楽はこうあるべき」という美学に自分を寄せようと頑張ってきたけど、そことは違う場所にこそ、自分の本質があるんじゃないかと。

 

 

 

 

──それって何だったんでしょう?

 

ブルーアイド・ソウルの要素であり、当時の最先端の音楽ですよね。ポールはスタカンで、60年代に回帰するのではなく「85年型のブルーアイド・ソウル」を作ろうとしていた。要は、前に進もうとしていたわけですよね。まだ彼も27歳と若かったし、必要以上に政治的なことを歌詞に盛り込んでいるところとか、今聴くと非常に青臭くてみっともないのだけど(笑)、当時の僕には分かりやすかったし、カッコ良くも思えたんですよね。

 

──我々もまだ16歳ですからね。

 

それと、ファッションやデザインもスタカンは完璧でした。しかも、カッコつけるのではなくユーモアの上に成り立っているところが最高。PVはモンティ・パイソンみたいだったしね(笑)。とにかく、良くも悪くもインテリな要素がてんこ盛り。つまるところ、僕の好きなものが揃っていたんです。途中からはもう「分かったよ、俺はスタカンが好きだ」と認めざるを得なくて(笑)、全作品をコンプリートするスタンスになるのだけど。

 

──(笑)。

 

 

 

 

物事の面白がり方は、そこで刷り込まれてしまった感はある。もし僕があそこでスタカンに出会ってなかったら、僕が今作っている音楽も全然違ったものになっていたでしょうね。むしろ、音楽を作っていたかどうかすら分からない。

 

──90年代にもスタカンの再評価ブームがありましたよね。あれは、ポール・ウェラーがソロを始めたということも大きかったんでしょうかね。

 

解散してまだ間もなかった頃でしたけどね。当時は『Our Favorite Shop』よりも『Café Bleu』の方が評価が高かったかな。僕としては『Café Bleu』まだ「未完成のアルバム」というイメージが強かった。そこまでユーモアの取り込みにも挑戦していなかったですし。まだ固い。そこから進化し、うまくバランスを取れるようになった『Our Favorite Shop』が、とても好きですね。楽曲のクオリティも高いですし。とにかく、否定しがたい魅力があった。

 

 

 

 

──「自分を“形成”したアルバム」って、きっと誰しもあると思うんですよね。それを大人になった再び聴くことは、決して懐古主義ではなくて自分と向き合う作業なのかなと。

 

そう思います。もちろん、単なる懐古主義で音楽を聴くことも、決して否定するべきことではないですね。さらに言えば、自分を形成したものって音楽だけとは限らない。「あの時に買ったあの靴」でも、「あのときに観たあの映画」とか、そこで運命って結構変わったりするものじゃないですか。

 

 

 

 

──では、次に紹介してくれるのは?

 

そこから2年遡って、イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)の最後のアルバム『SERVICE』(1983)。YMOというと、今なら『TECHNODELIC』や『BGM』あたりとか、ファーストやセカンド『Solid State Servivor』など初期のアルバムを挙げる人は多いと思うし、シーンに果たした役割も大きかった。もちろん僕も大好きでしたね。子供の頃ってバカだから(笑)、ああいうゲームミュージックはたまらないわけじゃないですか。まさに、細野(晴臣)さんの思う壺な小学生だったわけです。

 

──僕ら世代はみんな虜でした。

 

ただ、子供だから子供なりの受け止め方しか、当時は出来ていなかったんでしょうね。『TECHNODELIC』とか最初は正直よく分からなかったし。ただ『SERVICE』が出たのは、僕が中1か中2の頃かな。自分から洋楽も聴くようになっていたからこそ、あのアルバムは「音楽を聴く耳」で対峙することのできた、最初のYMO作品なのかもしれない。

 

 

 

 

──音楽的役割は置いておいて、「世代的に思い入れのあるYMO作品」ということになるんでしょうかね。僕も大好きなんですよ、『SERVICE』(笑)。

 

やっぱり(笑)。

 

 

「自分を“形成”したアルバム」を再び紐解いてみること。それは決して懐古主義ではなく、自分自身と向き合う大切な作業だと話してくれた沖井さん。インタビューの後半にチラッと出てきたYMOについて、次回はもっと深く語ってもらいました。そして、気になる3枚目のアルバムは……? お楽しみに!

 

 

写真:杉江拓哉( TRON)   取材・文:黒田隆憲

 

 

スタイル・カウンシル「Shout to the Top!」

 

YMO 「SERVICE」

 

 

 

 

 

 

 

大人とは、己を知ること。ポップ・マエストロ 沖井礼二(TWEEDEES)が選ぶ「自分を形成するアルバム」とは?【第1回】

大人とは、己を知ること。ポップ・マエストロ 沖井礼二(TWEEDEES)が選ぶ「自分を形成するアルバム」とは?【第2回】

大人とは、己を知ること。ポップ・マエストロ 沖井礼二(TWEEDEES)が選ぶ「自分を形成するアルバム」とは?【第4回】

 

 

編集・構成 MOC(モック)編集部
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PROFILE

沖井 礼二

作曲家/音楽プロデューサー/アレンジャー/ベーシスト。

1997年、土岐麻子、矢野博康を誘い”Cymbals”を結成。同グループを率い8枚のシングル、5枚のフルアルバム、3枚のミニアルバムのプロデュース、作詞・作曲・編曲、アート・ディレクションを担当。

2003年9月のCymbals解散以降は作・編曲家として多くのCM、ゲーム、アニメーション、テレビ番組等の音楽制作に携わる。イザベル・アンテナ、RYUTist、さくら学院、星野みちる、竹達彩奈、花澤香菜、尾崎由香、シティボーイズ公演、NHK「大!天才てれびくん」、バンドじゃないもん!(以上楽曲提供)、清 竜人25(編曲)、いきものがかり、ムッシュかまやつ、伊藤美来(以上ベース演奏)など多岐にわたる分野で活躍中。

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