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鴻上尚史氏が思う、日本における同調圧力と自尊意識の低さ。死を命じる組織にいて人生をまっとうできるか【第2回】

 

 

劇作家、演出家として数多の人生を創りあげてきた鴻上尚史氏。話題の著書『不死身の特攻兵ー軍神はなぜ上官に反抗したかー』では実在する元・特攻兵への綿密な取材を行い、事実を読者に提示しています。戦中の日本を考察し現代と比較した結果、日本の組織に見られる体質や日本人の精神性が見えてきたそう。腰を据え、時を越え「特攻の実像」に手を伸ばした鴻上氏が思う日本についてお話を伺ってきました。

 

 

同調圧力と自尊意識の低さ

 

──特攻から帰ってきたというのは、その時代の空気の中で、名誉でもないし、死んで当たり前という同調圧力があったのかなと感じました。

 

日本及び日本人の同調圧力の強さと自尊意識の低さはずっと連綿と続いているんだと思うんですよ。それがブラック企業にもなるし、特攻を生んだ。ただ、特攻の方は生き死にがブラック企業以上に関わってくるので、余計悲惨なことになるんだけど、その根本は何かということになった時に、どの国よりも強い同調圧力と、自尊意識の低さということになると思います。

 

 

 

 

──自尊意識の低さですか。

 

自尊意識は結局、ポジティブに出れば団結力を強める。「みんな自分の個別の事情はさておいて、納期が近いんだからみんなやろうよ!」みたいな。もしくは「団結して、部活を頑張ろうぜ!」みたいな。「それぞれの事情はあるけど、乗り越えて一つになろうよ」となる。ポジティブに言えば、自尊意識が低いからできるというのもあるわけです。 ただ、それがマイナスに出ると、「どうせ私なんか、どうせ俺なんかダメだし」とか、「俺の存在なんてちっぽけだし」となっていく。近代戦争で世界で唯一組織的に死ねという命令が出せたのも自尊意識が低いから出せた。いわゆる西洋型の自我の軍隊に命令しようとしたら、「なぜ命令として私を殺すんだ」という激しい反発は生まれていただろうと思います。

 

 

 

 

──命令する側とされる側にプラスして傍観者という立場が物事を複雑にしていると指摘されています。

 

まだ特攻の命令を受けていない人たちですね。傍観者がでもなんでも饒舌というのはだいたいそういうものですよ。どんな社会運動でも、かつての学生運動だろうが、当事者は沈黙する。それで傍観者だからこそ、というか多分当事者になれないからこそだと思うけど、饒舌になって自分のイメージを押し付けようとするというのが、すごいですね。 それはどういう立場で傍観しているか。この本もね、5万部超したぐらいから読まないで批判する書き込みがツイッターなどで出てくるんですよ。「特攻を無駄死だというのか!」とか「アジア解放戦争であったあの戦いをお前は理解していない」とか。 本当に傍観していてどうでもいい人は黙っている。自分のあるヴィジョンがあって、そのヴィジョンを語りたい時には、真実というか現実を無視して自分のビジョンを語り始める。俺のツイッターでも明らかに俺の本を読んでいないのに批判を書いてくる方が増えてきましたよ。多分俺のパブリックイメージも含めて批判的に書いているんじゃないかということで、書き込むんだけど、そういう人たちはある方向を主張したいからみんな饒舌になっていくんです。 要は、人の立場を借りて、自分の論理を語っている。それが傍観者が饒舌になる理由ですよね。でも当事者になるとそんなに簡単なことじゃないというのがすごくわかるから。どんどん言葉は沈黙しがちになっていく。だから佐々木さんは言葉が少なかったと思うんだけど。だからそれを5回会って、引き出さなきゃいけないなぁとすごく思ったわけだけど。

 

 

 

 

安易に分析・断定はしたくない

 

 

──第4章で様々な資料から「特攻の実像」に迫っています。どういう思いで執筆されていたのですか?

 

とても大きなこと、つまりとても複雑で重大なことなので、安易にそのジャッジはしないようにしようとずっと思っていました。それは今も思っていますね。特攻とはこうだったんだと、簡単に分析・断定できるものではないだろうと思っているし、裏からいうと、簡単に分析・断定してはいけないと思っているんです。 今、ネットはすごくわかりやすい。それこそツイッターは140字で理解できる言説が受け入れられるようになっていて、ポータルサイトのヘッダーだけみて、みんな会話をしていく時代になっている。だからこそ、とても簡単には理解できないんだよということを伝えたかったというのはすごくある。 僕からすると、「特攻は無駄死にである」と言い放つのも、「特攻は崇高な英霊の行いである」というのもどっちもやっぱり現実から遠いだろうと思っていて…。 現実になるべく踏み入って、リアルを分析したい。そうしないと特攻が見えてこないだろうと今も思っている。特攻に関しては今もリアルタイムで続いているというか、これを出して、おかげさまで10万部を超えて、いろんな人がいろんなことを言うのが聞こえてくるんだけど、その中で僕は特攻とはなんだったのかというのをさらに調べていく、考えていこうと思っています。

 

 

 

 

──簡単に結論を出そうとしていないスタンスに共感しました。そのスタンス自体が現代で大事なことじゃないかなと思います。わかりやすいものだけを伝えていくこと世の中は危険だなと。

 

そうですね。特にネットが発達したことで、人は読みたいものだけを読んで一生を終われることになった。まだネットがない時はね、新聞は読みたくない記事も目に入ってしまうので、まぁこれも読もうか、もしくは読みたくないけどこんなのがあるやと気づくんだけど、今の時代は本当に自分がそれを読みたいものの文章だけで1日まるまる潰せる。 ネットの初期はね、自分の読みたい記事を読み終えてしまって、しょうがないからあいつらは何を書いているんだろうという風にできたけど、今はこっち側、自分の読みたい側の記事で時間が潰せるので。余計わかりやすい言葉というのは気をつけなきゃいけないと思いますね。

 

 

 

 

──発行部数が10万部を超えました。それだけ鴻上さんの言葉が響いているのかなと思います。

 

それはね、俺の力じゃなくて佐々木友次さんという存在ですよ。佐々木友次さんというすごい人がいて、それを僕が紹介したというだけのこと。だって2017年8月に出した『青空に飛ぶ』(講談社)という小説があって。それは、フィクションとノンフィクションの合体で、佐々木友次さんに、いじめられている中学2年の男子生徒が出会う話なんですよ。重版はかかったけれど、桁違いの部数で。それは小説家としての僕の存在の低さだと思います(笑)。この『不死身の特攻兵』は佐々木さんそのものだから。佐々木さんの凄さですよ。

 

 

鴻上氏は著作の中で特攻の実像に可能な限り迫ろうとした。その中で日本人の同調圧力と自尊意識の低さについての考察は避けて通れない問題となった。その考察は現在でも続いており、鴻上氏の「特攻とはこうだったんだと、簡単に分析・断定できるものではないだろうと思っているし、裏からいうと、簡単に分析・断定してはいけないと思っているんです」という言葉にも、安易に物事を判断しない真摯な姿勢を伺い知ることができた。次回は、不死身の特攻兵である佐々木氏の内側に迫ったエピソードを中心にお送りします。

 

写真:田形千紘     文:五月女菜穂

 

 

 

 

鴻上尚史氏が特攻隊員の人生を辿る。『不死身の特攻兵ー軍神はなぜ上官に反抗したかー』を書いた理由とは?【第1回】

鴻上尚史氏インタビュー「忖度が、組織の暴走を加速させる。好きだ、という感情が個人を強くする【第3回】

 

 

編集・構成 MOC(モック)編集部
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PROFILE

鴻上 尚史

作家・演出家。早稲田大学法学部出身。
1981 年に劇団「第三舞台」を結成し、以降、作・演出を手がける。現在はプロデュースユニット「KOKAMI@network」 と若手俳優を集め旗揚げした「虚構の劇団」での作・演出が活動の中心。これまで紀伊國屋演劇賞、岸田國士戯曲賞、読売文学賞など受賞。舞台公演の他には、エッセイスト、小説家、テレビ番組司会、ラジオ・パーソナリティ、映画監督など幅広く活動。また、俳優育成のためのワークショップや講義も精力的に行うほか、表現、演技、演出などに関する書籍を多数発表している。最新作は「不死身の特攻兵  軍神はなぜ上官に反抗したか」 (講談社現代新書)。

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