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服部文祥氏インタビュー第2回 生きることは食べること。だからこそ自分の力で。

 

都会の喧騒から離れ、山登る。サバイバル登山家・服部文祥は、「自分の力」で山を登ることを突き詰める。最小限の装備のみを携えて、自分が食べるものは自分の手で殺す。ストイックに思えるそのスタイルで彼が辿った山道は、生き物の命の足跡がしかと残されている

当日は服部さんのご自宅での取材。黒の薪ストーブで部屋を暖めつつインタビューがスタート

 

――生きることは食べること、そして食べることは生きること。食べることは、狩猟の結果というわけでもない?

 

単なる結果ではないですね。そうそう、食べるとどうしても付随してくるのが「味」ですよ(笑)!

自分で獲って解体して料理して、「そんなのおいしいに決まってるでしょ~」と言われますけど、味ってそんなに生易しくない!不味いものは不味い。すごくシビア。自分で獲ったんだからおいしいと信じたい、自分のせいで死んでいった連中に少しでも感謝したい、そういう気持ちはあるけど……、不味いものは不味い。

その獲物が持っている本来の味よりプラスにすることはできないけど、そいつが持っている旨味であったり、自分の好みに合わせて旨味を引き出したりすることに関しては、最大限努力するようにしてますね。

 

――サバイバル登山ならではの味の違いにはどんなものがありました?

 

双子の鹿がいたとしましょう。仕留め方はそれぞれ違う。一頭は、犬に追いかけさせて半日かけて獲れた鹿。もう一頭は、こっちがソ~っと近づいていって撃った鹿。この二頭では味がまるっきり違うんです。

科学的な分析でもその違いは検証されているんですが、犬に追いかけられた鹿はストレスを感じています。また、走ったことにより筋肉に血液が流れこんでいる。乳酸とストレス物質のコルチゾールですね。10分くらいの追っかけっこならそんなに影響はないんだけど、1時間とか半日追っかけちゃうと……、もうモノが違う。

肉は熱を持ってしまうと悪くなるんです。解体して肉をバラしていくときの触り心地が全っ然違います。簡単に言うと血が入っている。バラした筋肉のブロックをバットかなんかに置いてみるとそのことがよくわかります。追われた鹿は血がブワーッと滲んでくる。追われていない鹿はペトっとして血が滲んでこない。味も全然違います。

俺、最初はチームで狩猟してたんです。チームでの狩猟は犬を仕掛けます。だからその頃に食べていた鹿は、鹿臭かった。 鹿の味ってこんなもんなんだろうと思っていたんです。一人で狩猟するときは犬を仕掛けず銃で撃ちます。初めて単独で仕留めた鹿を食ってみたら……、うまかった~!自分で獲った獲物だからうまく感じるんだろうと思っていたけれど、チームで獲った鹿をまた食べてみると、やはり味が違う。

犬を仕掛けて走らせない方がうまい。獲り方を選べるなら、獲物は極力走らせないほうがうまい。

もうひとつ、撃つ部位を選べるなら、選んだほうがいい。下半身の胃袋や腸は破かないで。心臓も破かないこと。心臓は血液を排出するポンプの役割をするから、残しておいた方がいい。肺は破いてもOK。肺を破ったとしても、そこから血が出ていって血抜きになるんです。

胃袋と腸を撃った場合は要注意。機能障害が出にくいので鹿は撃たれた後も逃げようとします。1kmくらい逃げることもあるから、そうこうしているうちに筋肉にストレスがかかる。心臓を撃ったときは5歩から10歩くらいでガクンと落ちるんだけどね。

 

 

――どのようにして仕留めるかで味がそこまで変わるとは!

 

猪は鹿ともちょっと違います。猪って皮の裏側の脂がすごいあるでしょ(服部さん自宅に干してあった猪の皮は、裏側が脂で覆われていた)。脂があるせいで、弾そのものには強いけど、弾が体内に届くとあっという間。反対に、ネズミと鹿は肺が敗れても結構走るんですよ。強い!

それから、同じ種でも個体によって味が全然違いますね。若い個体のほうがうまい。若いメスであるほど臭みが少ない。ただし旨味と臭みは紙一重。ちょっと臭いくらいがうまい。多くの人が言うのが1歳のオス、もしくは0歳のオス、3,4歳のメス。これらがうまい!0歳のメスは、うまくてスッキリしているんだけど、「コクが足りないかな?」と感じることがある。うん、子供の方がうまいです。

そしてね。子供と親、両方狙える場合ってあるんです。どちらを撃つか。全く同じ確率で選べるんなら、鹿には悪いけど子供を撃つ。

 

――それはもう、味で? 量をとりたいなら親でしょうか。

 

量をとるなら親です。

狩猟に入ってからまだ獲物をとっていない状況なら親ですね。親の方が的がでかいですし、肉の味が外れというわけではない。十分肉を獲っている状況で、プラスアルファを得られるならば子供狙い。マトンとラムも同じようなものですよね。

鹿は5月の終わりから6月に生まれるんです。猟期は11月15日に始まります。11月というと、生まれてから半年くらいですね。そのくらいの鹿って体重が20kgもない。内臓を取っちゃうと本当に軽い。鹿は内臓が重いんからね。草食動物はは胃袋が重い。

状況によりますが、同じ条件で選べるなら味で選びます。どちらかが木に隠れていることが多いので、実際の狩りでは悩むことはないんですけどね。撃ちやすいほうを撃ちますから。

連れと一緒に狩りに入っているときは、親を先に撃ちます。親を撃つと子供は立ち止まっちゃうんですよね。そこを撃つ。

人間と一緒ですね。鹿にも情動がある。歩き方を見ると一目瞭然です。親の鹿は足取りがまっすぐというかシンプル。その後ろを歩く子供の鹿はあっち行ったりこっち行ったり。足取りですぐわかる。雪の上に、まっすぐ歩くおおきな足跡と、ぴょこぴょこしている小さな足跡。

「あ、親子が近くにいるな。ヤバいな。これ、追いつかれちゃうぞ。俺に」

そして実際、俺に追いつかれて撃たれる。

この前犬といっしょに、山に入って狩りをしていました。すると、こいつ(服部さんの愛犬・ナツ)が耳をピクピクさせ始めた。ナツの向く方向をパッと見たら、メスの鹿が歩いている。そしてその後ろには子供の鹿。もはや、俺は待っているだけでいい。2頭の鹿は気づかない。銃を構える。木と木の間に子供の鹿が入った。バーン。

母親は逃げて行きました。そしてね、逃げていった母親は子供を呼んで鳴くんです。

 

 

――マイナスの感情がよぎる瞬間ですね……

 

反対に、母親を撃たれた子供はどうなるか。

群れで歩いていた鹿を撃ったときのこと。二組の親子の群れを見つけたんです。3頭で一組の親子と、母一頭子一頭の親子。かなり距離がありましたけど、撃った。当たった感じはしたんだけど、倒れている鹿の姿は見えない。群れの残りの鹿のうち数頭は走って逃げていったらしい。

まだほかの奴は残っているだろうか。弾を入れなおして待っていたら、5秒くらい間をおいて、小さな鹿が飛び出ていった。もしかしてあれが撃った鹿か? 弾はあいつのどこかをかすめたのか?

まず足跡を見に行った。弾が当たったならば、血が落ちているはず。でも血痕がない。倒木か何かを撃っちゃったのか。そう思いながらケモノが立っていたであろう場所に近づいて行ったら、メスの鹿が倒れていた。

俺は母親を撃っていたわけです。母一頭子一頭の親子のほうの。子供は撃たれて倒れた母親を前にして、足を止めたんでしょうね。もう一組の親子はすでに逃げてしまった。母親の様子がおかしい。どうすべきか――。その子供は母親を諦め、走り出した。やはり判断しているんです。偉い奴ですよね。そうじゃなかったら、立ち止まっていたら、俺がお前を撃っていた。一瞬の判断です。

あいつはきっと、手強い鹿になる。

 

――撃ったあと、解体は下山する前に?

 

俺は山で解体します。獲物は撃ってから15分以内に腹を開いた方がいい。内臓は早めに出した方がいいんです。死んでも細胞ってずっと動いていますから。体内にはバクテリアが生きていて、自分とは別の生態系が成り立っている。死ぬと個体の代謝が止まるので、発酵が変な方向に進むんです。するとガスが溜まってしまい、胃袋を抜けて肉にガスの臭いが移ってしまう。だから腸と胃袋だけでも早めに出しておく。

内臓は、心臓だけ取っておいて、あとは全部山に返します。簡単に言えば捨てちゃう。驚くほど早くなくなります。鳥がさらっていく。カラスとトンビ。解体して内臓をその辺に置いておき、ちょっと周辺を歩いて帰ってくると……、ない。鳥は目がいいからすぐに見つけ出すんです。『やった!やった!また服部がやってくれたー!』って思ってるんじゃないかな。

内臓は本当はおいしいです。おいしいですけど、おいしくするための処理が難しい。解体場みたいにすぐお湯がでて洗濯機のような腸を洗う設備があればいいんですが。鹿の内臓を食べたくても、鹿の脂って融解温度が高いので、腹を開けるとすぐにラードみたいにギトギトになっちゃう。なかなか処理が難しい。かなり上級者向けですね。

 

 

――著書によると自宅で「鹿の脳カレー」を作っていらっしゃいましたね。

 

脳みそはね、うまい(笑)。なんでもそうなんすけど、最初のひと口ふた口はうまいですよ。今、うちにある鹿の頭、持って帰っていいですよ!

 

一同笑。ど、どうしよう。

 

ただ、脳は傷むのが早いという人もいますね。

 

――これは特にうまかったという獲物は?

 

自然界から獲ってくるもののなかで一番うまいのは、ミドリガメです! 鶴見川(東京都と神奈川県を流れる川)の支流で獲れますよ。旨味が圧倒的に多い。すっぽんと大体一緒ですが、すっぽんよりうまいんじゃないかな……。こんなこと言ったらすっぽん業界から怒られそう。

ミドリガメの内臓は食べないですね。手足とか背筋とか、首から上。『アーバンサバイバル入門(服部文祥著、デコ、2017年発行)』でも捌き方などを紹介しています。おススメの味わい方は、鍋! シンプルにバラバラにして、水から煮る。そこに日本酒をいれて、塩で味付け。ちょっと物足りなかったら醤油をいれる。アクをとりながらね。

旨味でいえばマムシやシマヘビもいい。マムシの毒は牙の上にある毒腺によるもの。食って胃袋に入れるぶんには問題なし。胃袋の胃壁って、人間からすると外側なんです。我々はチクワみたいなものだから、本当の内側って筋肉とか体腔だと思うんです。血液に毒が入らない限りはOKです。

毒蛇の処理をするときに頭を落とすこと。噛まれないようにね。『アーバンサバイバル入門』でも書いてある……、アレ?「頭を落とす」ってずい分簡単に書いているな……(笑)。

俺はまず、蛇の頭の方を押さえて胴体を切る。胴を押さえてしまうと、振り向かれて噛まれることがあります。そうすると面倒。頭を落としたら誰も踏んでしまわないように、遠くに投げておきましょう。

それから靴下を脱がすみたいに皮を脱がす。んで、内臓を取ってから食べる。マムシは「山鰻」と言われるくらい旨味が豊富。調理方法は揚げるのがおススメですね。木の棒にクルクル巻いて、焚火の炎でゆっくり炙る。すると骨せんべいみたいにパリパリになる。蛇は骨をどう処理するかが大事。

う~ん。鹿もやっぱりうまいんですよねぇ。鹿の子供はうまい!猪と鹿。俺の猟場は山梨ですが、100対1くらいの比で猪の獲れる量が少ない。犬かけや罠だと猪は獲れますね。ただし、猪はうまいけど、飽きる!

この間、100kgくらいの猪を獲ったんですが、もう……、猪地獄でした(笑)。しばらくしてから久しぶりに鹿を獲ったんです。(しみじみと)うまいっすね~!!まぁ、猟期中は鹿地獄です。

猪は肝炎の危険性があるから生では食べません。鹿は刺身から焼肉までイケるし、餃子、汁物、味噌味、洋風いろいろな味のバリエーションを楽しめます。鹿のほうが滋味という意味では猪よりうまいかも。

 

 

――登山中の調理方法はもっとシンプルになりますか?

 

『はじめ人間ギャートルズ』みたいだったら、シンプルだし道具もいらないんですけどね。でも食べたものが不味かったら意味がない。できるだけおいしく!かといってフレンチコースのように手を欠けたものを作るわけじゃない。だから調味料は大事。ワサビはいつも持っていきますよ。

山椒?前は持って行ってましたねぇ。最近は持って行かないな~。好みが変わったのかな。ワサビとか醤油はケチらない。おいしくいただきましょう。

 

――獲物は残さず食べましょう?

 

そこにこだわりはないですね。人間が食べ残しても、鳥や小動物が食べるんです。獲物を余すことなく食べるというのは、人間が自分でそうしたいからやっているだけ。自然からしてみると、それがプラスになるかはわからない。

獲物を余すところなく食べましょう、というのはですね、かつての人間がタンパク質をなかなか得ることができなかったからですね。現代は次から次へと肉を得られる。「残さず食べるのが獲物に対する礼儀だ」というのは人間の思い込みや幻想じゃないかな。カラスやトンビが持っていきますから。食べ物をみんなで楽しめばいいんじゃない?

かといって燃やしちゃうのは馬鹿らしいですね。化石燃料を使って食べられるものを燃やす。山で獲ったあとに食べない部分を投げておけば虫が食べるし、小動物や鳥だって食べにくる。それはそれでいいと思いますが・・・・・、こんなこと言うと叩かれそうですね。

東北のマタギは獲った熊を余すことなく使っていますが、関東の猟師は全てを食べることにこだわっていないですね。地域によって獲物をどう扱うかには違いがでる。

俺は撃つだけの有害駆除はあまり好きじゃないです。鹿なんかのもそうです。撃たれたケモノはただ埋められちゃうこともある。駆除された鹿は市場には出ません。

 

 

――流通にはのらないんですか。

 

厚生労働省のルールが厳しいんです。体腔を破いてはいけない。首から上を撃たないとダメ。さらに30分以内に解体場に運んで処理をしないとアウト、という規定が設けられています。処理場も大変!検査をパスするのが大変で、流通には乗りませんよ。肉の質そのものはいいと思いますが、流通と解体に関するルールが厳しい。もったいないですね~。食えばいいのに。

俺の撃った鹿も受け取りに来てくれるなら、あげますよ。2月中旬から3月上旬までの間って、獲物を撃ちやすくなる期間なんです。山に取りに来てくれるなら1頭あげます。持ち帰ってください(笑)。山から下ろすのが面倒なんですよ。

撃つのと追いかけるのは楽しい。現場に来てくれればいくらでもお渡ししますが、どこが現場になるかが問題ですね! ソ~っと俺の後ろをついてきてください(笑)。ただ、連れも物体だから。不確定要素が倍になる。向こう(獲物)に気づかれる可能性も倍以上ですね。

あ、こうしましょう。無線を持って、俺が撃ったら連絡します。「内臓取り出したから回収して」って。

 

――著書『狩猟サバイバル(服部文祥著、みすず書房、2009年発行)』で、「獲物を綺麗に解体するというのは、人間が他の生き物に誇っていい行為だと思う」と書いていらっしゃいますね。

 

解体もだし、料理とかね。犬って平気で土をつけて食べるでしょ。うまいのかな?より良い状態で食べようと考えるのって、今のところ人間だけ。最近の猿は海水で芋を洗ったりしますけど、ああいうことをするのは人間ぐらいかな。人間だけしかしない行為ってけっこうありますけど、料理もそれ。おいしいし楽しいから、ほかの種もそうした方がいいと思う。

 

 

  生きるため、獲って食べる。その過程を繰り返すうちに、人生の味わいも増えていく。現代人の多くが選び取らない「マイナスの感情」をあえて獲得していく服部さんは、2017年に創作にチャレンジをしました。

 

 

 

 

 

 

 

服部文祥氏インタビュー第1回 生きることは食べること。だからこそ自分の力で。

服部文祥氏インタビュー第3回 生きることは食べること。だからこそ自分の力で。

 

 

写真:杉江拓哉 TRON     文:鈴木舞

 

編集・構成 MOC(モック)編集部
人生100年時代を生きる、
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PROFILE

服部 文祥

1969(昭和44)年神奈川県生れ。東京都立大学フランス文学科卒。大学時代からオールラウンドに登山を実践し、1996年にカラコルム・K2登頂、1997年の冬から黒部横断を行い、黒部別山や剱岳東面、薬師岳東面の初登攀など、国内外に複数の登山記録がある。その後、装備を切りつめ食糧を現地調達する「サバイバル登山」と自ら名付けた登山をはじめる。それらの山行記に、『サバイバル登山家』『狩猟サバイバル』『アーバンサバイバル入門』などがある。

服部文祥氏インタビュー第3回 生きることは食べること。だからこそ自分の力で。

都会の喧騒から離れ、山に登る。サバイバル登山家・服部文祥は、「自分の力」で山を登ることを突き詰める。最小限の装備のみを…

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