粋な佇まいで私たちを魅了する夏木マリさん。普段はどんな日常を送っているのか気になって仕方ありません。素顔の夏木さんに迫りつつ、京都・清水寺での文化奉納に抱く想いやこれからの人生の展望を語っていただくインタビューとなりました。
──夏木マリさんといえば「アソビの達人」というイメージがあります。音楽や芸術に親しみ、パーティなど華やかな場所にもハマる。今、どんな風に人生を楽しんでいますか?
このごろ遊ばなくなりまして・・・。も~、夜十時には寝たい派。ごはんを食べたら眠くなっちゃう。夜はダメ、その分、朝は早いの! 起きたらSNSを投稿したり、原稿を書いたり、台本を覚えたり。すっかり朝型です、ホント。
息抜きというと、美味しいレストランを見つけて友達と一緒に食事するのが楽しい~(うっとり)。うん、私は食いしん坊だから食べることが好きなの。『美味しいものを食べたらのけぞる会』? 昔、そういう会もやってたわね。
だけど、どんなにいい食事処で食べても、「うちのごはんが一番!!」って思う(笑)。
──お料理の話をされていると瞳がいっそう輝きますね、キラッキラ(笑)。体調管理のためにストイックに自炊をしていると思いきや、かなりの食いしん坊だったとは。
料理を作っている時間も楽しいんです。自分が作る料理がね、メッチャ美味しい!料理番組を見たら、うちの冷蔵庫と相談して、「今日は何を作ろうかな」と考えてみるの。
昨日は五島列島で買ってきたおうどんに、お豆腐、トマト、大根おろしを炒めたあんかけ。そこに七味をパラパラっとまぶす。季節の夏野菜をお酢で和えたサラダも添えて。テレビで紹介されてたレシピなんだけど、その食材がたまたまうちの冷蔵庫の中身とばっちり合っていたから、『これは作ってみなきゃ』と思ったんです。味付けの細かい分量とかは適当! 舐めながら調節しちゃう。男の料理ね。
──夏木さんの手料理、食べてのけぞってみたい・・・!
以前は時々、振る舞っていたのよ。花火大会があると、うちに人を呼んだりしてた。私は食器も好きだから、それをセットしたいでしょ。家族との食事だとつい同じお皿ばかり使っちゃって、せっかくのお皿たちが日の目をみないものだから。
お友達を呼んで、いつもは奥に仕舞ってあるお皿を綺麗にして、お披露目する。そういうの、楽しいですよね。
今年はインプットの年なので家で過ごす時間が多いんです(インタビュー第一回目参照)。だから料理の腕、かなり上がってますよ~! お昼ご飯はほとんど自分で作ってますね。
──夏木さんといえば、ファッションセンスが素晴らしいですよね。今日の着こなしもセクシーでカッコいいです。著書『で、どうする?』では「私も含めて昭和の芸能人ってセンスがよくないのよね」と、ご自身の世代を分析されていますが、夏木さんが思う素敵なファッションというと?
基本的には、私たちの時代の人ってみんなセンスがないんですよ。私は洋服が好きだから、今は日々(感覚を)更新をしているんだけど、「アタシって、センスが良くないな」と思うことはしょっちゅうありますし、以前はよく失敗していました。旅先で、似合いもしないのにたくさん買っちゃったり。今は買い物で興奮することがなくなってきましたね。
その人らしさを持っていて輝いている人は、素敵なファッションしています。「らしさ」ってどういうことかというと・・・。日本って、年齢で区切ることが多いじゃない。メディアは特にその風潮が強いですね。だけど本当にそうかしら。雑誌を眺めていると『25歳になったらこれを着ないといけないの?』とか疑問に思うことはない?
着たい気分だから、その服を着る。自分が一番気持ちよくなれる服。そういうのがいいですね。だけどそこに自分らしさがなければ、素敵なファッションからは遠くなってしまう。
──人からどう見られるかが気になって、自分が気持ちよくなるファッションを後回しにしがちです。
他人のことを意識してたら生きていけない。人は色々言います! 自分の着たいものを気持ちよく着るのが一番! そのためにはやっぱり、失敗や勉強が必要です。シンプルに決めるか、どこかを外すかとかね。あとはやっぱり“自分は何が好きなのか”、まずはこれを知らなきゃ。
私にはシャネルは似合わない。なぜかというと、シャネルスーツはほとんど襟がないからです。長年の失敗により、襟のないスーツは似合わないということがわかったの。もちろんシャネルは素敵よ! だ・け・ど、私には似合わない。それが発見ですよね。
ブランドも、デザイナーによってどんどんテイストが変わっているから、「このブランドが好き」とは言えないかな。ジョン・ガリアーノのドレスは綺麗ですね。胸がないと着こなせないフォルムなんです。私、胸があってそこがコンプレックスだったんですけど、ジョン・ガリアーノのドレスはそこがハマる。だから着ると嬉しくなるのよ。うん、好き。似合うものと好きなもの、このふたつが合致したとき、自分らしくなるんでしょうね。
──貿易商のお父様と、洋食のみを作るお母様。夏木さんは、子供の頃から西洋文化に親しんでこられたようですね。日本に生まれながら西洋文化の食文化で育ったことで、文化のギャップを感じたことは?
家では日本食を食べたことなかったんです。『60blues(スワサントンブルース/ 歌・作詞・作曲:夏木マリ』という曲でも歌っているんだけど、(日本食を食べていなかったので)カルシウムが足りなくて、よく転ぶんです。
小さい頃はNYから来たバイヤーに誘ってもらって一緒にお食事、ということはよくありました。すっかり西洋文化、食事と言えばナイフ&フォークでした。
文化面では『印象派』の海外公演で、世界中のパフォーマーと話しをしていると、みんなの方がよっぽど歌舞伎等の伝統芸能に詳しかったりしたんです。「歌舞伎の“外連味”ってどういうこと?」と尋ねられても、全然答えることができなかった。歌舞伎や能、日本文化を好む人たちって、びっくりしちゃうくらい詳しく知っていて、さらにそこから造詣を深めようとする。
そんなことがあって反省したんです。日本に帰って来てから『自分の国の伝統文化には何があるんだろう』と学び始めました。そんな中、声明(仏教音楽。仏典に節をつけた声楽)と出会ったんです。ご縁が出来て、高野山の声明で『印象派』をやろうというプロジェクトへ広がっていったの。
──夏木さん率いるパフォーマンス集団『マリナツキテロワール』は、2014年から京都・清水寺で文化奉納をされています。清水寺で踊るとは・・・なかなかない機会と巡り合われましたね。
そうですね。2018年は11月18日にさせていただく予定です。ちょうど紅葉のライトアップの素敵な時期で、それはそれは美しいの。
清水寺で奉納をさせていただくようになったのは、感謝の気持ちを抱いたことから。長いこと仕事をしていると、一人では出来ないことがたくさんありました。そういうことに気がついていくうちに、感謝の気持ちがたくさん湧いてきたの。ちょうどその頃、清水寺ともご縁が出来ていたので、感謝の舞をさせていただくことになったんです。そうして、今年は五年目を迎えます。
事務所のスタッフ、One of Love プロジェクトに取り組んでくれる友人たち、パートナーへの感謝の気持ち。もちろん、みなさんにも感謝を感じているんです。
──感謝の気持ちを表現する。生きていくうえで、忘れてはいけない大切なことですね。そんな夏木さんが「生きていて幸せだなぁ」と思うのはどんな時ですか?
ベッドに入ってお布団被る時ね~。私が幼い頃、父が言っていたのよ。『寝るより楽はなかりけり。浮世の馬鹿起きて働け』。当時は何を言っているんだろうと訝しく思ったけど、今はホント同じ心境。父は高度経済成長期のサラリーマンだったから、会社に一途に奉仕するような働き方をしていたんです。眠る時はとても嬉しそうでね・・・。今は私がそんな感じ(笑)。
──風流なお父様に、年々似てきているのでしょうか(笑)。素敵です。
この間、NHKの『ファミリーヒストリー(著名人を取り上げ、本人やその家族に徹底取材するドキュメンタリー)』に出演させていただいたんです。NHKのスタッフさんが父の日記を見つけてくれたんです。そんなものがあっただなんて、私は知らなかった。読んでみたら・・・、すごく素敵でした。
──自身の深いルーツに触れ、心に響くものがあったのですね。「これからの夏木マリ」についてもお伺いしたいのですが、インプット・イヤーである2018年の向こうには、どのような展望を抱いているのでしょうか。
この先、One of Loveプロジェクトはずっと続けていこうと思っています。「人生100年構想」と、安倍首相が言いましたね。
もともと80歳までは続けたいなと思っていましたが、20年延びますね。今までやってきた時間と同じ時間をもう一度、よ。
──人生100年時代では、50歳で人生半ば、60歳でようやく世の中をわかってきたか、というような奥深い人生が待っていそうです。
大変な世の中になりました、ホント。京都だったら「100年? 老舗? まだまだですなぁ!」なんてあしらわれちゃうけど。楽しんで続けていきますね。
継続は、簡単なことじゃない。むしろ、人がつまずくのはいつもそこだ。しかし夏木マリさんは言う。「楽しんで続けていく」と。人との縁を大切にし、感謝の気持ちを表現していると、人間まだまだ成長することができるらしい。
世の中は知らないことで溢れているのだから、きっと私たちは常に成長の途上にいるはずです。輝きを増す夏木マリさんのように、カッコよく、自分らしく、“今”を生きてみませんか。
写真:田形千紘 文:鈴木舞
編集・構成 MOC(モック)編集部
人生100年時代を楽しむ、
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