人生100年時代を楽しむ、大人の生き方 Magazine

西村京太郎氏  人生の転機と、87歳からの挑戦を語る 第3回

 
読書になじみが薄い人も含めて誰もが知る、トラベルミステリの第一人者・西村京太郎先生。
これまでの発行部数は累計2億冊以上、著書は約600冊を誇り、87歳の現在も現役で、年間12冊の新作を書き続けています。
そのエネルギーの源泉は? 人生のターニングポイントは? 今後書きたい新境地は?
西村京太郎先生の人間性に迫ったロングインタビューをお届けします。

――西村先生は湯河原に居を移してからご結婚もされて、熟年婚の走りですよね。湯河原に来られて作風は変わりましたか?

 

病気で倒れて温泉治療をしなきゃって、伊豆と湯河原が候補だった。奥さんとは湯河原で知り合ったんです。結婚したのは、僕が70歳、奥さんが還暦でした。

作風は全然変わりましたね。明るくなった。人が死なないのは、湯河原に来てから初めて書いたかな。京都にいる時は、京都をずっと書きたかった。でも山村さんに止められて書けない(笑)。鬱屈したものが作風に出ていたんじゃないかな。書きたかった舞台は京都と北海道です。京都は長年住んでたから特にね。

 

 

――アイデアが出ない、筆が進まないといった生みの苦しみを味わったことはありますか

 

それはないですね。締め切りがあるから。昔は映画を一日に三本見ていて、ストーリーもタイトルも忘れちゃうけれど、出だしと終わりのシーンは今でも覚えているんですよ。そういうのを引き出しにしてるから、雑誌連載でストーリーの始めと終わりは決まっている。連載頼まれても楽なんですよね。一回目は書けるし、最後は決まってるから。後はエピソードで埋めて、真ん中を作ればいいだけ。だから「タバコ作家」って言われてたんです。真ん中がキセルになってるから。まあ、そう簡単にはいかないんだけどね(笑)。

 

――以前書かれていたハードボイルドはもう書かないのですか?

 

そういうのも書いていたけれど、探偵やったことあるからね。今でもあると思うんだけど、日本で一番大きな探偵社。そこにいたんですよ。一番多いのが身上調査。要するに大学の卒業生が会社に入社する時に、どういう学生運動やってたか調べて欲しいっていう。今は各社でやってるから、そういうのはないけれど、昔は探偵社がやってたんです。大学に行って「この人は学生運動やってましたか」って先生に聞くから、やってないって言うに決まってるよね。やっと学生が就職できるんだから。だから全部マルなんですよ。だから一番安い調査だった。一件でその頃の5000円。2割の千円もらえるっていう。だから20人30人いっぱい抱えて大学に行く。会社は安心するんじゃないですか。

あとは結婚調査とか。依頼してくるのは大体お母さんが多いんです。娘に付き合っている男がいて、破談にしたいから男の悪口を書いてくれっていう。女がいるとかね。そういう時は、二通り報告書を書く。ありのままを書いたのと、悪口を書いた報告書。どちらにするかは、決めてくださいって。依頼したお母さんに委ねるの。

僕がいた二年くらいの間に、探偵が二人捕まっちゃいましたよ。信用調査やるから秘密を知っちゃいますよね。脅かすんですよ。「おたくの悪い秘密を知っている。書けと言われているけれど、500万円でうまくごまかす」って、ゆすりですよね。誘惑にかられるんだよね。秘密を知っちゃってるから。普通に報告したら10万円か20万円だけど、脅かせば何百万になる。そういうのを知ってるから、私立探偵ってうまく書けないんですよ。――

 

――警察の取材はされますか

 

最近はしないけれどね。前は警察の取材をしてたんですよ。だけど、取材すると署長室に呼ばれて連れて行かれちゃう。すると歴代の署長の写真があって、それがいかに優秀だったが延々と二時間くらい聞かされちゃうんです。本当は温泉で覗き見するような、ちょっと悪い刑事を書きたいじゃないですか(笑)。でもいい話を聞くと書けなくなっちゃう。

京都でも刑事さんによく会ったけれど、暴力団と並んでいると、どっちが刑事でどっちが暴力団かよくわからないんですよ(笑)。刑事さんたちは演歌が好きで、よくカラオケやりました。

新年に警察の方が挨拶に来られたり、記念館に来てくれる人に「実は刑事です」っていう人もいて、話していると情が移っちゃう。悪い警察を書けなくなるから取材はしないようにしてるんです。

 

 

――先生の作品では、十津川警部を筆頭に中年のキャラクターが活躍することが多いですよね。

 

あれは日本とアメリカと違うんですよね。日本は年を取らない。内田康夫さんの(浅見光彦)もずっと33か34でしょ。アメリカはちゃんと年を取っていくんですよ。長いシリーズでは主人公が警察辞めて息子が入ってきて、今度は息子が主人公になって続いていくんです。「87分署」がそういうやり方ですね。代々警察官なんです。

主人公の年齢を同じにしておくと、有名な事件を書けないんですよ。有名な事件だとあの年だなってわかっちゃうじゃないですか。年は取らないんですが、十津川も最初は警部補でもう今は警部です。

 

――十津川警部の名前の由来は、奈良県の十津川村からでしょうか

 

そうです。京都に住んでいる頃に奈良の十津川が好きで、だから一度ね、十津川を書きたいんですよ。十津川のルーツを探すって言うね。でもあそこに十津川って言う人いないんですよね。いると書きやすいんだけどね。

だけど一人、僕が好きな人物がいてね。維新の頃に、龍馬を好きな倅がいたんですよ。十津川に。龍馬が殺されちゃったじゃないですか。その彼は「絶対に新選組がやった」と思い込むんですよね。それでね、土方歳三を狙うわけよ。京都へ来て土方を見つけて、切り込んでいくんですよね。五、六人一緒になって切り込んだのに、みんな逃げちゃって。彼だけ死んでいくんです。

それが十津川の人。十九歳で死んじゃう彼を今度書きたいんです。でも彼は、あまりにもかわいそうだってね。京都に護国神社の龍馬のお墓があるんですよ。その龍馬のお墓の横に、小さいお墓があってそれが彼のお墓。最近になって認められたんですよね。彼は藩じゃなくて徳川家の領地で、侍もいなくて郷士だったから。

龍馬が暗殺された時に「十津川郷士です」って訪ねてきたのは、あれは本当みたい。その死んじゃった郷士の彼は、龍馬から刀ももらってた。好かれてたんですね。その十津川郷士の話をこれから書きたいと、今、調べてもらっています。今書きたいのは、明治維新の十九歳で死んじゃった十津川の彼ですよね。

 

――こうした史実を小説にする時の魅力は

 

こういう史実を小説にする時は、ちょっと変えるところが面白いですね。だからね、司馬遼太郎も「司馬史観」って司馬さんの方が歴史みたいになっちゃってる。司馬さんは新聞記者出身じゃないですか。その頃からものすごく勉強熱心だったそうです。

作家は新聞記者出身の方が多いです。僕は役人を11年やっていた。だから無鉄砲じゃダメなんですね。上から言われたことは聞かなきゃいけないじゃないですか。だからそういう部分は出ちゃうんですよね。

 

――維新の時代小説の他にこれから書きたいテーマは

 

突然時代が変わっちゃうとか、ああいうのも書きたいんですけど、難しいんですよ。戦国時代に入っちゃうとか。戦国自衛隊とか好きですね。あんまりやると「またか」と思われちゃう。一時、流行ったことはあるけれど。今は難しいかな。

ずっと考えているのは、大阪城の落城の時に、真田幸村と真田十勇士が未来へのトンネルを抜けて出たら巨人・阪神戦がやってるの。それを最初に考えた時は巨人が強かったんですよ。だから真田十勇士が阪神の助っ人になって、巨人に勝つっていうストーリーは面白かったけれど。今、巨人が弱いから面白くないかな。巨人が強くて阪神が弱かった時ならね。

「消えた巨人軍」を書いた時も、長島と王に肖像権がありましたね。抗議もいくつか来ました。「巨人軍はこんなに簡単に誘拐されはしない」ってね。

列車ものにも抗議は来るんですよ。列車ファンには二通りいて、列車が好きな人は好意的に見てくれるけれど、列車を崇めている人は「列車の中で殺すな」って抗議の手紙を送ってきますね。神聖な場所って思っている人はそうだし、列車が舞台になることを喜んでくれる人は「どんどん殺してください」って言います。

最近は真面目な小説が多いんですよね。だから面白い小説が読みたいと思っています。全然出鱈目な奇想天外小説もたくさんあっていいですよ。乱歩なんて現実にないですよね。そういった小説をもっと読みたいし、これからも書きたいですね。

 

 

西村先生の「頭の中の引き出し」を一度でいいから覗いてみたい。それはそれはきっと豊かで、整然とした気持ちのいいものなのだろう。これからどんな小説を書くのか、楽しみで仕方がない。

 

 

 

 

 

西村京太郎氏 人生の転機と、87歳からの挑戦を語る 第1回

西村京太郎氏 人生の転機と、87歳からの挑戦を語る 第2回

 

 

写真:杉江拓哉  TRON      文:今井美香

 

 

編集・構成 MOC(モック)編集部
人生100年時代を生きる、
大人のためのマガジンMOC(モック)
Moment Of Choice-MOC.STYLE

 

PROFILE

西村 京太郎

1930(昭和5)年、東京生れ。1963年『歪んだ朝』で「オール讀物」推理小説新人賞、1965年『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞をそれぞれ受賞。1981年に『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞を受賞する。2004(平成16)年には日本ミステリー文学大賞を受賞した。鉄道ミステリー、トラベルミステリーに新境地をひらき、常に読書界の話題をさらうベストセラーを生み出している。

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