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小屋一雄氏「リベラルアーツ・シニアが「つまらない日本人」を覚醒させる!」

 

「シニアの品格」著者の小屋一雄さんが、これからのシニアの生き方を提言。小屋さんによれば、意外な“ある物”が“品格”を作り、結果的に慕われる人間性すらも構築する事に繋がるという。これまで排除されてきたものの正体とはーー。

 

仕事が楽しくなる要因は「人間関係」

 

――キャリアの中で、なぜマーケティングから組織・人材の方にシフトされたのですか?

 

私がゼネラルモーターズ(GM)のデトロイト本社に勤めていた時に転機がありました。勢いのある競合会社は何が違うのか、と調べたところ、答えは人材育成だったんです。人をしっかりと育てて、風通しのよい組織を作っている会社は業績もいいんですね。

当時はアジア地区のマーケット分析をしていたんですが、人間関係が上手くいくと成果が上がる、という実感もしました。当時、私が中国や韓国のマーケットに口を出していたのですが、当然中国や韓国の社員はろくにマーケットを知らない日本人にいろいろ言われるのが面白くないわけです。「なんで本社に日本人がいるんだ?」と思ったのでしょうね。そしてあまり協力的になってくれませんでした。それでもあきらめないでコミュニケーションをとって、現地にいって一緒に酒を飲んだりして、だんだんお互いのことに興味を持ち、仲良くなったのです。人って、国籍を問わず面白いものですからね。

外国人と仲良くなって楽しい、というだけではなく、達成できる仕事のレベルがグーンと上がるんです。こいつと一緒だったらもっといい仕事が出来るんじゃないか、ってお互いに思ったら、それはすごいパフォーマンスになりますよね。

人間関係は自己満足ではなくて、本当にパフォーマンスに影響すると実感したのです。そんな体験をさせてもらえたことは、私のデトロイト勤務での一番の収穫で、ゼネラルモーターズには本当に感謝しています。

あるビジネスが成功するかどうかの要因はいろいろありますが、その30%は組織の雰囲気とか人間関係に起因すると言われています。

そのことを実感して、これからは人、組織だなと思ったのです。マーケティングも面白い分野ですが、私は人材育成や組織開発で組織に貢献したい、影響力を発揮したいと思ったのです。今振り返ると、これは私のキャリアにとってとても大切な決断だったと思います。

 

 

自分で定年を決める

 

――定年後、いかに生きるかというのが、シニアの悩みになっているという問題もあります。その辺りどう思われますか?

 

今「人生100年時代」とい言葉が流行っていますね。そこで言われているのは、「教育」「勤労」「引退」という3つのステージで人生を考える時代は終わった、ということです。今までは学生時代、就労している時代、そして定年があって、定年後の老後というものがある。そんなステージ感覚はせいぜい人生70年時代の話で、健康寿命が延びて人生100年時代になると、あと30年間人生が続く。そんな長い老後をぼーっとして暮らすわけにはいかないですよね、という話だと思います。

ではどうなるかというと、結局自分の定年は自分で決める時代になるということだと思います。自分でちゃんと準備すれば、極端な話、100年定年とかもできるわけだし、60歳で定年した後は、お金があるから妻と旅行しまくるぞというプランもあっていいと思うし、もっと働きたければ80歳まで働くとか、自分なりのプランを立てたらいいということです。でも、今の日本の中高年ビジネスマンの方は、自分の定年を考えるっていう発想がないんじゃないかなと思います。60歳で会社の定年になり、給料半分になるけれど再雇用で働かせて頂きますとか、システムとして会社が提供するものを受ける、受けないという選択肢で考えているのではないでしょうか。自分の人生を会社の枠を超えて、自分の頭で考えるという癖がついていない人が多いのだと思います。さあ、これからの自分の人生どうするか、ということを自分で考えないといけない時代なのだと思います。

そこで「シニアの品格」のメッセージに戻りますが、思考停止しないようにしたいということです。頭の良し悪しとは関係なく、考え続けるということが大切だと思います。特にこれからの、人生100年時代、「あがり」という発想はなくなってくるのでしょうね。昔はよく50代後半の人を捕まえて「あの人もう上がりだよね」とか言ったりしたものですけれど、もうそういうのはなくなるんでしょうね。「あがり」たければ自分であがるだけで、「あがり」のお年頃というのはもうないのでしょう。それは自分で考えなきゃいけない。そのためには、できるだけ早く、自分の人生、キャリアの運転席に自分が座るようにならないといけないと思います。

サラリーマンにもいろいろな人がいますが、受け身な人というのは、後部座席とか助手席でふんぞり返っている感じなんです。運転席には会社というものがあって、それは多分なくならないだろうと信じている。でも、これからは、座り心地の良い後部座席で一生ついていくぞと思っていてもいきなりの吹雪で止まっちゃうとか、運転手がだんだんおかしくなって、前に進めなくなる、ということもざらになるのではないでしょうか。そんな時に、吹雪の中車中で身動きできなくなって凍死、という事態は避けたいですよね。

 

 

シニア力としてのアート?

 

――現場で小屋さんが体験されていることを踏まえて、どういうことがシニア力として大事なのかなということを聞きたいです

 

まずは柔軟な人間関係ですね。「シニアの品格」でも描いたことですが、どうしても会社で長く勤めていると、視野が凝り固まってしまうことがあると思います。まずは、そこを認識する必要があります。だから自分の考えは一つの考えとして、他の考えに対しての受容性も高める必要があるのです。柔軟になるということです。仕事は一人でやっているわけでないし、相手がいるわけで、相手の立場になるということを身につける必要があると思います。

そして、人の話を聞くということですね。これが一番手っ取り早い具体的な処方箋かもしれません。偉くなればなるほど、人の話を本当に聞いていない人が多いんです。みんな忙しいからせっかちになってしまうのですね。人が話しをしている途中で、こういうことだろうと判断して、さえぎって自分のペースで進めたくなっちゃう。だけどこれだと、相手は話を聞いてもらっているという気がしないんです。そして、話を聞いてくれない人にはついていきたいと思わないものです。

あと強みですかね。人はそれぞれ違うんだから、それぞれの個性を認めて生かして行こうという考え方です。他者の強みを見つけ、認めてあげられるというスキルは人の信頼を得る上で、これからとても大切になっていくと思います。「シニアの品格」の奥野老人はこれがとても上手い人です。

もうひとつ、「リベラルアーツ」が大切だと思います。Googleとか最先端の企業が社員をMBAスクールではなく、アートスクールに送り込むような傾向があるらしいのです。ああいった会社は時代の変化にとても敏感でして、MBA的な賢さよりもアーティストのように広い視野を持っているということが、これからの社員に求められるということなのだと思います。アートスクールには入らなくても、「リベラルアーツ」を学ぶことはこれから大切なことになると思います。

 

 

―――MBAよりもアート、ですか。

 

リベラルアーツというのは、芸術、つまり美術や音楽、そして哲学であったり歴史であったり文学であったり、そういった一般教養と呼ばれるものですが、そういうところに目を向けるビジネスパーソンは今とても少ないと思います。

日本の大学でも「一般教養」は軽視されている傾向が強いと思います。専門分野は将来「食っていく」ために必要な学問だけど、「一般教養」は無駄、みたいに考えている学生が多いのではないでしょうか。

あと、少し話がずれますが、最近アメリカのビジネススクールは日本人の学生を欲しがらない、と言う話をよく聞きます。私がアメリカで学んだ90年代は、みんな日本のことを知りたくて、「Welcome」だったのが、今は「No thanks」らしいです。日本の経済力というのもあるでしょうが、どうも「日本人は面白くない」という印象が原因の一つのようです。昔から日本人はクラスの中で発言しないと言われています。日本人は正解ばかり求めて、発想を拡げようとしない傾向があります。クラスの中で欧米人や欧米の影響を受けた中国人などは、本題とズレたことをいくらでも発言する。日本人である私も当時「それはポイントが違うだろ、無駄な議論だ」などと思いながら黙っていたこともありました。でも、彼らのような自由な参加がクラスでは求められていたのです。

クラスへの参加姿勢に加えて、視野の広さというものポイントだと思います。欧米のエリートと呼ばれる人材にはリベラルアーツの造詣が深い人がとても多いんです。だから話していても、どんどんテーマを拡げられる。日本人はむしろ、それを「無駄な拡散」だと感じてしまう。これも日本人を「面白くない」人たちだと思わせていた要因の一つだと思います。

基本的に、日本人はリベラルアーツを「無駄」なこととして軽視している傾向があると思うんです。

高度成長期のように向かう方向が決まっていて、問題があればその究明をして解決をして、あとはどんどん進めていけば上手くいっていた時代にはリベラルアーツはあまり必要ではなかったかもしれません。論理的な思考ができて、ものわかりが良くて、ハードワーカーだったら結果が出せたのでしょう。でも、低成長期の今、ゼロから何かを創造する発想が必要なときに、問題解決だけじゃ足りないのです。違った分野の知恵や発想が必要になってきます。この流れに、多くの日本企業はついていけていないんじゃないかなという気がしています。

そもそも、「一般教養」という日本語が良くないかもしれませんね。こんな話をしている私も、自分に教養があると思っているのか、と問われれば困ってしまいますよね。ごめんなさい、多分、ないですって。でも、リベラルアーツって、いろいろなことに興味を持って自由に学ぶってことだと思うんです。けれど、それを「教養」と言われるといきなり偉そうになっちゃいますね。

シニアがこれからの長い人生を考える時も、リベラルアーツという視点はとても大切だと思います。

例えば、昔はすごく面白い若者だったのに、一つの会社でずっとやっていく中で、なんだかつまらない人になってしまったように見える人がいます。本当は面白い人なんだけれど、ある意味処世術として、自分の中で自分の個性に蓋をしてしまっているのですね。休日も仕事をしているか、寝ているだけだったりします。そういう人もじっくり話を聞くと、学生時代はベースを弾いていたとか、個性的な話が出てきたりします。そうして、すこし照れながら、押し入れからエレキベースを出してきて弾いてみると、これが楽しい。若返ったような気持ちになって元気になる。そんなこともあります。これは一見無用なことかもしれません。仕事に役立たないし、家族はうるさいって怒るし。でも本人がいきいきしてくれば、いろいろなところにポジティブな影響が出てくると思います。そして、その人の本来の魅力も取り戻せると思います。

 

 

無駄なことをすることに誇りを持とう

 

――シニアの人が、若い世代と対等に戦っていかなければならなかったり、会社の思惑で若者が優先されたりしているときに、シニアにどういうことが期待されるのかなと考えられますか?

 

シニアのアドバンテージとして、一般的にまず「経験」が挙げられると思いますが、「余裕」も大きいと思います。

若い人は体力があるから無理もできるし、新しい発想もできる。やっぱり企業や社会の将来を担っているのは若い人たちでしょう。でも、彼らは常に競争にさらされているというディスアドバンテージがあります。競争に勝つためには無駄なことはしている暇がありません。「選択と集中」をしなくてはなりません。でも、シニアは競争から抜けてもいいのではないでしょうか。競争に勝つためにはムダでも、実は大切なものに力を注ぐ余裕を楽しんでもいいのではないでしょうか。これはシニアにとって大変なアドバンテージだと思っています。

前にも話しましたが、先日82歳で起業された人に会い、素敵だなと思いました。本人はとてもいきいきとしていて、彼のサービスを求める人たちがいて、その声に答えるために起業したんです。儲かるかは分からないけれど、やる意義があるからやるんですよね。非営利的な事業って若い時にはなかなか手を出しにくいものだと思いますが、シニアだったら、やる意義があると思ったらやればいいんです。いろいろな経験も役に立つでしょう。そんなことがどんどん起こったら、日本の社会はもっとおもしろくなると思います

ある常識的な軸でみたら無駄なことでも、自分の中で意味があると思うことに打算抜きでエネルギーを注ぐことは、シニアならではの価値の提供だと思います。

「人生の上級者」としてのシニアは、無駄を形にできる人、無駄を受け入れて自分のものに出来る人とも言えるかもしれません。多くの人はそれを自分のロジックの中で排除してしまうけれど、シニアはそこに価値を見出せるのです。無駄とされる事をすることに、シニアの人はもっとプライドを持ってほしいです。

無駄なことを重要視して受け入れる事が出来る人が、奥野老人みたいになれると思います。編集の中でカットされたんですが、奥野老人は実はネコを可愛がって時間をつぶしている人で、そんなエピソードも草稿には入っていたんです。わたしもネコを飼っていますが、ネコとの時間ってすごく無駄なんですね。でも、だからこそネコは愛される。無駄を排除せず、無駄なことをもっと大切にすること、その楽しさをシニアが体現していけばいいと思います。

これからシニア作家はもちろん、70歳デビューの前衛アーティストとか、75歳でアメリカのアートスクールに留学をして現地の若者の度肝を抜いたり、80歳の日本人がフランスのテレビ番組で哲学討論をしたり、カーネギーホールでヘビーメタルをバックに詩吟とか、87歳のミミズ博士が全米で講演とか、そういう馬鹿馬鹿しくて無駄みたいなことを徹底的に楽しんで形にしている日本人シニアが増える、というのが私の理想です。それは若者にも大きな刺激となり、いい影響を与えるでしょう。

そうしたらもう誰にも「日本人はつまらない」なんて言わせないですよね。シニアのツアーでハーバード大学のビジネススクールを訪問して、「ほう、君たちはまだ問題解決なんてやっているのかい?可愛いのう。わしらはとうの昔に卒業したが、まあせいぜい頑張ってくれたまえ」なんて言ったら、どんな顔をするか楽しみですよね。

 

 

排除してきた無駄なことが、自分の人生を救うきっかけになる。人生経験豊富なシニアだからこそそこを見極められるのかもしれない。一見非効率にみえる「人材育成」に携わってきた小屋さんが掴んだ確かな実感だった。読者の方も、これまで無駄と排除してきたことを見直してみよう。それが自分の人生を変えていくきっかけになるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

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写真:田形千紘 文:安藤紀子

 

編集・構成 MOC(モック)編集部
人生100年時代を生きる、
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PROFILE

小屋 一雄

日米の自動車メーカー、外資系ラグジュアリーブランドにてマーケティングマネジャー職を担当。米国系自動車メーカーではアメリカ・デトロイト本社において アジア地域の商品戦略を担当。またギャラップ㈱では1995年に日本における創業メンバーとして参画。同社が開発したポジティブ心理学に基づく各種診断 ツール(個人の「才能・強み」に着目したストレングス・ファインダー、従業員の組織へのエンゲージメント診断、更には顧客の自社ブランドに対するエンゲー ジメント診断)を活用して、グローバル企業を中心にマネージャーのリーダーシップ開発や組織開発を行うコンサルティングに従事。2009年8月に独立。こ れまでの経験を生かし、ポジティブ心理学をベースに、生き生きとした職場・人づくりのためのコンサルティングを行う。

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