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井田茂氏が語る地球外生物最前線!「固定概念を崩して宇宙と向き合おう」

 

2017年、NASAによる2つの「重大発表」があったのをご存知でしょうか。

一つは、地球のように海があってもおかしくない惑星が、太陽系から40光年先にある恒星のまわりにいくつも見つかったというもの。もう一つは、土星の衛星・エンケラドスから水素が噴出しているというものでした。

 太陽系以外の惑星「系外惑星」の進化や理論的な解明に挑む井田茂教授に、最新の研究を踏まえた惑星形成理論、そして生命とは何か?を語って頂きました。

 

――宇宙は我々の想像が及ばないようなスケールを持っていますが、天文学者はそこに圧倒されることはないんでしょうか?

 

宇宙は広大で、自分はちっぽけだという言い方をよくしますよね。しかし、天文学者の多くは、そういう感覚を持っていない。それは、そういうトレーニングを受けたからなんです。

見ている対象によって時間的・空間的スケールが自動的に切り替わり、宇宙のことを考える時は、そのサイズで物を考える。点のような自分がいるとは考えないわけです。

例えば、銀河系が出来て100億年以上経っていますけれど、その周りを太陽系は2億年に1回ぐらいで回っています。そしたら、「銀河系は、まだ50周ぐらいしかしてない。生まれたばかりだな」と、思うんですよね。宇宙138億年と言ってもまだ始まったばっかりで、膨張してる最中の宇宙は、膨れ始めだなと思ってしまう。地球46億年の歴史と言っても、地球の中でマントルが流動して数億年で上がったり下がったりしてまだ出来たばかりで、余熱が残っている星なんだと。火星や月は、小さくて充分に冷え切り発達した天体ですが、地球はまだ生まれたばかり。

一方で、化学反応はピコ秒(10のマイナス12乗秒)とかで起こるので、1秒もあれば化学反応は猛烈に進むので、1秒なんて気の遠くなるような時間なわけですよ。

そうやって、時間スケール・空間スケールを自在に変える思考パターンをトレーニングしてるので、全然気も遠くならない(笑)

 

――トレーニングすれば、一般人でも気が遠くなったりしないんでしょうか?

 

気が遠くならようになると思いますよ。でも、日常生活の時間・空間スケールが違って見えたりはしないですが。

 

 

――なるほど。では、地球の話を伺いたいと思います。私たちが地球にいるのは、偶然が積み重なった結果で、ある意味奇跡ではないかと言われていますが、本当にそうなのでしょうか?

 

今の私たちと全く同じものができるのは、もちろん奇跡的に小さな確率だと思います。ただ、違うことが起きたら、違うものができるだけ。木の枝があちこちに無数に広がっているみたいに色々な可能性がある。その中のひとつが我々です。我々がいるだけが他の枝とは違う、「選ばれし枝」だと仮定すると、それが奇跡だと思ってしまうのです。でも、木全体を見たら、色々ある枝の一本なんだなと見える。科学者は全体を見こともトレーニングしている。だから、科学者は「すごい奇跡の星だ!」とは思わずに「ひとつのパターンだな」と思うこともできるんです。もちろん、自分たちの一本の枝をクローズアップして見ることもできます。それは私たちの枝なので、もちろんかけがえないものです。でも、他の枝には価値がないと考えるのは間違いではないかと思います。

 

――著書(地球外生命体)には「地球に水があるのは今も解明されていない謎だ」とあったのにはビックリしました。

 

それは、大きな謎ですね。あと、我々の体を作っている有機物も、なんで地球にあるのかと様々な説が入り乱れている状態です。

地球は青い星とか海に満ち溢れたと言いますけれど、「本当にそうですか?」。よく調べれば、海は皮一枚だけです。地球の半径6,400kmのうち、海の平均水深はわずか4kmだけ。重さで言ったら、0.02%つまり2/10000しかない。だから、水の星なんていうのは、表面の見た目にだまされているだけなんです。

 

――目からウロコ以上の驚きでした。本当に ” 皮一枚 ” なんですね。

 

そう。海溝と言ったって、せいぜい10kmとか、そんなものなんですよ。

 

――海と言えば、生命の母で、母なる地球は海の惑星だというイメージですが、全然違うんですね。

 

生物を中心として見れば、生物が海の中で生まれたのは、ほぼ間違いないことです。その海が地球の表面を覆っているというのは正しい。ただ、天体や惑星としての全体で見たら、海なんて別にあってもなくても良いぐらいの誤差の範囲になってしまう。

だから、我々が考えている生物というのは、その表面の特別な場所で生まれたもの。生まれたあとは、地下に潜ったりもできるようになると思いますが。

 

――そして、海の水の量は1%を超えることはないんですね。

 

地面の下の地球内部にも大量の水が含まれているという意見もあるのですが、それは表面に出ている分と比べて大量なのであって、数倍〜10倍だろうという推定が多いです。10倍でも地球全体の重さの0.2%です。100倍という非常に極端な推定をしても地球の2%に過ぎません。つまり、地球の水の総量は非常に多めに見積もっても1%は超えないだろうと言われています。

 

 

――地球に水がある謎に関しては、今どの説が有力なのでしょうか?

 

木星付近にある小惑星帯という小さな天体が並んでいる場所。その中の、木星に近い天体は温度が低く、氷も入っている。その小天体たちが木星などの重力で飛ばされて、たまたま地球にぶつかり、地球は水分を持てるようになった。これが、今一番人気のある説です。

地球の海の水は水素と酸素が結合したH2Oでできているのですが、水素には、電子の配置が同じだけれど、ちょっと重い重水素というのがありますが、その重水素でH2Oになっているもの微量あります。電子の配置が同じだと、重くても軽くても同じ化学反応をするんです。どんな化学反応が起こって成分が変わっても、水素と重水素の比率は変わらないはずなんです。ということは、その比は、元の材料を表す指標ではないかと考えられます。木星に近い小惑星帯から飛んできたと思われる隕石を調べると、地球の海の水と隕石に入っている水素と重水素の比率の値が似ているので、この説が人気があります。彗星ではまるで違う値になります。

ただ、飛ばされる方向はランダムになるし、どういうタイミングになるのかもわからないので、この説では、どれくらいの量の小天体が衝突するのかは偶然に左右されることになります。

ちなみに、酸素にも重さの違うものがいくつかあるのですが、その比率のある組み合わせは、地球上の全て水や岩石、そして私達の血液のヘモグロビンでも同じ値をとります。私達の体を作っている酸素も、海の水の酸素も、岩石を作っている酸素も同じ材料を使っているからです。ということは、仮に地球に紛れ込んできた宇宙人(?)がいたら、血液検査をすればすぐにわかるはずだ、という笑い話もあります。

話を海に戻します。火星には現在では海はないですが、極冠には氷がちょっとあるし、地下にも貯蔵されているようです。あと、30億年以上前とかの大昔に川が流れていたらしい跡が見つかっています。色々見積もってみると、火星にも地球と同じような比率で、ほんのちょっと海があったようなんですよね。

でも同じ比率の海があったのだったら、火星にも偶然同じぐらい比率で氷が入った小天体がぶつかったか?と言う話になると、それはあまりにも偶然過ぎないかと。なので、もう少し一定量の海ができるようなモデルを考えなければいけないかもしれない。まだ、どのように水が地球や火星に運ばれたのか、謎のままなのです。

ただ、今は系外惑星と呼ばれる太陽系外の惑星が見つかってきていて、その大気成分もじょじょに観測できるようになってきた。さらに、ハビタブルゾーンと呼ばれる、中心星に近過ぎず遠過ぎない位置で回っている惑星がどんどん見つかってきている。そこの大気組成も、もうすぐ調べられるかもしれない。大気中にどのぐらいの水蒸気が入っているかを観測できれば、惑星にどれくらい海があるかをある程度は見積もることができる。そういうデータが出てくると、地球みたいなちょうど良い場所、ハビタブルゾーンにある惑星がどれくらいの確率で海を持つのか、どれくらいの量の海がどれくらいの割合であるのかについても推定できるようになるはずです。

それがわかってくると、どうやって水が運ばれてきたかに関して、モデルが精密化されていくと思うんですけれどね。

 

 

――地球にある水全部が外から運ばれてきたとなると、相当な量の氷なのでしょうか?

 

確かに相当な量ですが、例えば、10%ぐらい水を含んでいた小天体とかの物体が、総量で地球の重さの1/1000だけ運ばれれば、海の水が全部まかなえてしまうので、地球全体で考えれば、ほんのちょっと湿ったふりかけをかけたくらいのことにしか過ぎません。逆に、地球の重さの1/100の総量の物体が降ったとすると、地球は水浸しになって、陸はなくなってしまうことになる。

 

――絶妙なバランスですね。

 

陸地と海を共存できるというのは、すごく難しいですよね。だって、今の水の量を倍にしたら、エベレストがちょっと出てるぐらいで、あとは全部水の中ですよ。陸地は、ほぼないってことになっちゃう。

でも、絶妙なバランスかというと、正直わからないんですよね。地球がたまたまそういう状態になったけれど、じゃあ、窪地に水が溜まったくらいとか、海がほとんどで島がちょっと浮いているぐらいでとか、そういったところでは生物は生まれないんですか?と言われたら、それは「わからない」と言うしかない。

 

――著書(地球外生命体)の中で、「第二の地球」という表現には違和感があるとおっしゃっているのは、そういう意味でもあるんですか?

 

ちょっと前のアイディアだと思うんですよ。他の惑星系があるとしたら、太陽系と似ていて、地球と似たものがあるかもしれない。そこから、スタートしている。なぜそこに価値を見出すかというと、生命が生まれるような天体は特別だろうと。そんな特別な天体は地球と似ているんだろうと仮定したわけです。

そういうイメージで、「第二の地球を探せ!」みたいな話になっちゃったんですよね。

どうしても自分たち、地球を中心に考えてしまう。でも、比較するものがなかったので、そこから出発するしかなったのです。

それは、西洋においては、宗教観もあるかもしれません。神が生まれたこの地球がもう一つあるのかどうかという。何十個あるのか、何%あるのかではなく、もう一個あるのかどうか。これが西洋文化的には重要だったのかなという気はします。日本人は、そこまで考えてないですけれど。

 

 

――極端な例かもしれませんが、宇宙生命体のあらゆる可能性を考えた場合、宇宙にはシリコンで素性された生物があるかもしれないという可能性についても著書で紹介されていましたね。

 

あってもいいと思いますよ。ただ、それはどういうものなのか想像できない。炭素化合物の有機物を使った生物は確かに一種類とは言っても、我々はそれに対しての大量のデータを持っている。それで、シリコンだとどうなの?というと、わからないところがあります。

それを言い出したのは、カール・セーガン(米国・惑星科学者)なんですが、彼はそれを象徴的に言ったと思うんです。つまり、宇宙の生命を考える時は、地球生命にこだわっててもいけないと。化学反応的に言ったら、炭素だってシリコンだって似たように反応するんだから、そういうもので出来ててもおかしくないという。

「固定概念を崩せ」ということで、象徴的に言った部分も大きいと思うんですよね。

まさにその通りです。でも、じゃあ、今考えられますかって言うと、いや、炭素生物で地球生物とは違う形のものですら、わからないのにっていうのもあり、それは次の課題かなという気はします。

 

――常識を一個一個疑うことは大事だと思いました。固定概念を取っ払って、もしかしたら今の形以外もあったかもしれない。そんな想像を広げることは、豊かなことだと思いました。

 

そのことが、直接日々の生活に役に立ったり、悩んでいる人の心を救ったりはできないかもしれないけれど。拘束条件や縛りを取って考えてみるということは、間接的には何かに役に立つかもしれないですよね。

 

 

科学者のスケールの見方、固定概念を取り外そうという考え方。まったく同じように実行するのは難しいですが、少し意識してみることで、新たな世界を垣間見られるかもしれません。

 

 

 

 

井田茂氏が語る地球外生物最前線!「固定概念を崩して宇宙と向き合おう」第2回

 

 

写真:古谷利幸 文:合戸奈央

 

編集・構成 MOC(モック)編集部
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PROFILE

井田 茂

1960年生まれ。京都大学理学部卒、東京大学大学院地球物理学専攻修了。東京大学教養学部(駒場) 助手を経て、東京工業大学地球惑星科学科に移り、現在、同大学教授。大学院時代にコンピュータ・シミュレーションを主とする太陽系の起源の理論的研究をスタート。 カリフォルニア大学に客員として滞在中に系外惑星の発見に遭遇し、太陽系だけではなく、銀河系の多様な惑星系の起源や地球外生命の居住可能性などにも研究の枠を広げる。

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