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「好奇心が背中を押して、人類は宇宙へ飛び出していく」井田茂 氏が語る地球外生物最前線!人生100年時代の宇宙ガイド インタビュー【第3回】

 

 

 

 

惑星物理学者の井田茂教授にお話しを伺いながら、宇宙研究の最前線につ迫るインタビューも第3回目を迎えました。宇宙というと理科学的な分野と捉えがちですが、宗教や思想、ビジネスにも影響を与えています。あらゆるジャンルを横断して議論を巻き起こす宇宙の神秘。果たして宇宙は私たちの生命や人生をどのように導いていくのでしょう。

 

 

──もし地球外生命がいた時、これまでの宗教観や人間中心の哲学が変わってしまうのではないかと思うのですが、いかがでしょうか?

 

キリスト教圏は、何百年間もそういう議論をしてきたんです。地球だけが特別なのかどうか。だから、天動説と地動説のすごい戦いがあった。

地球というのは惑星の一つで、他にも惑星があり、地球は世界の中心ではないと示して、一旦は天文学が勝利したわけです。

でも、天文学が発達したことによって、太陽はすごく熱いガスの塊で、お月さまって空気も水もないってことが観測者にわかってきたわけです。そうすると「他の天体って生物が住めるような場所なの?」と、地球こそが特別な存在であるかのような地球中心主義に世間が傾いて行ってしまったのです。

天文学は地動説によって地球中心主義から解放されたのに、さらに進歩したことで、地球中心主義へと戻してしまった。でも、さらに発展していくために前に進み続けました。このような科学と宗教の間の厳しい論争を、キリスト教の文化圏では、何百年間もやってきている。だからこそ、地球外生命が発見されたときの衝撃は大きいかもしれないし、形勢逆転を繰り返す論争を繰り返してきたので、意外と変わらないかもしれない(笑)。少なくとも、日本人が考える感覚とはだいぶ違うだろうなというのはあります。

日本人は、逆にそういうことを突き詰めてこなかった。クリスマスでもバレンタインでもハロウィンでも何でも受け入れてしまう日本人の文化があるので、ショックは受けるかもしれないけれど、そのままスルスルっと受け入れちゃうかもしれない。

もちろん、かなり大きな影響は出ると思いますが、それがどういう方向に出るかっていうのは予想が難しい。

 

 

 

 

──興味深いです。意識は変わりますよね。

 

どう変わるのかはなかなか予想できないけれど、意識は変わるし視野も広くなる。それを知ってしまったら、なんで昔はそんなことを考えていたんだろうってなりますよね。

 

──こうして地球外生命体を考えていくと、そもそも宇宙はどうやってできたのかというところに行きますよね。宇宙が出来る以前は高密度の一点だったものが、ビッグバンで広がって行く。その速度が今の宇宙を作るのに絶妙だったんじゃないかという説を聞いたことがあります。

 

マルチバースの考え方ですね。理論的には宇宙は、もっと密度が高くても良かったわけです。そうすると膨れていったって、自分の重力でまた縮んで戻っていっちゃう。もっと密度が低かったら相対的に膨張が強く効くので、すごい速度で散らばり、星もできず何も生まれないと。それは、まさにその通りで、今の星や生物を作るには、今の宇宙が絶妙だった。

でも、違っていたら、違うものができたかもしれない。これまた、わからないですよね。人類だけを見てたら、進化の中ですごい絶妙なことがあったと思うかもしれないけれど、違うことが起きていたら違う発達をした生物が出来てただけかもしれない。最近は、生物学の人も含めてそういう風に考えていると思います。

地球にしても、色々なサイクルが起きている。物質サイクルから、炭素がどう循環しているかとか。長期的に見たら、炭素の循環が地球の気候を安定化させていることは、確か。

自分だけ見たら、ものすごい絶妙な調整がなされているように思うかもしれないけれど、「そうじゃなかったらいけないの?」という問いをしなければいけない。宇宙論のマルチバースは、他の宇宙を知ることはできないので、そういう問は発しにくい。あまりにもわからないことが多すぎます(笑)

観測できないと、それ以上進めない。地球外生命体について、少し前まで科学として認められなかったのは、データを得られる見込みがなかったから。それが、系外惑星やエウロパ、エンケラドスといった、少なくとも間接的なデータを得られる対象が、どんどん見つかってきた。それでやっと議論できるようになってきたわけです。

科学というのは、基本的には実証ベース。証明して、実証して、「ここまでは皆で了解しましょう。それを基本にして、次を考えましょう」と、進んでいくものです。時間はかかるけれど、そうやって一個一個を確認して行きましょうというのが、科学です。

だから、実証できない想像に対しては、「それは、科学の議論ではない」という言い方をよくするんです。

 

 

 

 

──エウロパやエンケラドスしたがのデータ分析によって、「宇宙に生命がいるか?」という議論は、これまでとは全く違うステージに移行したということですか?

 

だいぶ変わっちゃいましたね。

現に1970年代に火星に行ったバイキングは、火星人はいないかもしれないけど、地球にいるような微生物はいるんじゃないかと仮定して探索をしたんです。

でも、まったく見つからなかった(笑)。

一方で、ガイア仮説という、地球と生物が混在一体で分けられないという仮説が出てきました。それは、地球を生命として見るというような見方でした。現代の考えは、そこに住んでいる生物というのは天体と切り離せない。惑星の中で色々な物質に循環が起きている。その循環のひとつの形態が生物であるという風に変わってきちゃったんですね。

そしたら、生物だけを探してもしょうがないと。天体にある色んなサイクルの一部分なんだから、まずは天体の全体から見ましょうとなりました。その天体にどんな循環が起きているのか、エネルギーの出し入れがどうなっているのか。それがわかった上で、その中に生命というサイクルがどんなメカニズムになっているかを見る。そういう風に変わってきちゃったんですよね。

 

 

 

 

──アカデミックな世界での変化は日本では、なかなか伝わってこないんじゃないかと思っています。

 

それは、発展が早過ぎるからです。専門家や、本当にそこに関わっている人は追従出来てきますけれど、分野が違ったらもうわからない。僕は専門に近いところでやっているから、フォロー出来ているだけです。例えば、素粒子物理の専門の人が、じゃあ、そこまで追従できますかって言うと、一生懸命意識的に追従しないとついて行けない。

でも、それは色々な分野で起きていることです。例えば、再生医療やAIにしても、その最先端を僕がフォロー出来ているかって言ったら、あまりにも進歩が早くて出来ないんです。前に聞いた事が10年前の話で、今は考え方が変わっているなんて事が、もう色々な分野で起きているんです。

だから、日本で伝わっていないということではなくて、プロの科学者の間でも伝わっていない部分もたくさんある。それぐらい進歩が早い。

例えば、エンケラドスから水素が出たっていうだけで、アメリカでは大新聞の一面に記事が載るんです。人々は熱狂してるんです。

それは、アメリカでは、アカデミックな部分の進歩がよく伝わっているということではなく、多分、西欧圏に関してはキリスト教文化で、常にこの地球と別の世界があるのかどうか何百年間も議論してきた文化的な下地があることが大きいんじゃないかと思います。つまり、生命が住むかもしれない別の場所が実際に見つかりましたということなので、それはキリスト教文化圏のもとでは、大事件ですよね。

なので、熱狂しているのは、そういう文化的背景があるからだと思うのです。

 

──そして、火星にも水の跡や極地に氷があると、熱い議論がありますが。

 

水がないと出来ないような、堆積岩が見つかっているんです。中には、クレーターの壁に季節ごとに液体が噴出しているところも見つかっている。表面には無いけれど、火星の内部には、液体があるのではないか? 昔は表面にあって、そこで生まれた生物が一緒に地下に潜っていけばいいわけで。

地球にも鉱山とか地下何百メートルとかに微生物がいるので。だったら、そこをどう探っていこうかと議論されていますよね。

ただ問題なのが、その液体が流れているところに火星生命がいたとして、そこに直接に探査機で降りていったら汚染しちゃう。

 

 

 

 

──生態系が変わる恐れがありますよね。科学者はどう考えてるんですか?

 

それは、ものすごく重大なものだと議論されていますよ。

 

──完全な状態で除去して火星に下りるのは難しいですか?

 

除去したつもりでも、知らないところに紛れているので。特に原始的な生物はものすごく耐性が強い。放射能が当たろうが温度が上がったり下がったりしようが、平気で生きてる。ただ、彼らから見たら我々がヤワ過ぎるんですよ。高度化したことで、非常に脆くなっている。だって、微生物は物理的にすりつぶせば壊れますけれど、放っておいたら、寿命ってものはなく不死なので。

でも、高等生物は皆寿命を持っています。ある程度時間が経つと、あちこち補修が必要になるから、世代交代をしなければ種として続かないんです。

地球の生物もある程度進化したところから、死という制度を持ったんです。高等化したから、死ぬようになった。でも、原始的なやつらは死なないので(笑)

そして今、実際に火星に探査機を降ろすことに関しては、ものすごい慎重になっている。火星に行って、地球の微生物を植え付けることになったら大変だと。そこは大議論ですよね。

 

 

 

 

──火星の表面に昔は海があったかもしれないけれど、今はない。水分はどうしてなくなったという考え方になってるんですか?

 

2つあります。ひとつは、地球より小さくて重さが1/10しかないので、重力が弱い。ですから、大気も薄くて少しずつ宇宙空間に逃げていったという考え方。地球では、気圧がぐっと押し付けているから、液体になっているわけです。火星の表面から宇宙空間に水が逃げて行ってしまったという説です。

もうひとつは、火星は小さいので、出来た頃の余熱がもう無い。冷えた時に水が石の中に吸い込まれていったという説です。

 

──地球みたいに水がしみこまない固さではなくて、火星の地表はもう少し柔らかいのですか?

 

柔らかい固いではなくて、圧力と温度の兼ね合いです。あくまでも圧力。

 

──火星にあった水の組成はわかってきてるんですか?

 

色んな議論はありますけれど、わからないですね。そういうところまでわかってくれば、段々詰めていけます。

 

──もしかしたら近いうちに、火星で生命体が発見される事も・・・?

 

今生きているものは発見されなくても、かつて存在していた生命の痕跡は見つかるかもしれないと思っている人も多い。だから、何度調べても生物が見つからないけれど、探査機はどんどん送り込まれていますよね。見つからなかったのは探し方が悪かったのだと。これからもたくさんの計画がある。最近では、いきなり生物を探そうとしているんじゃなくて、昔の環境はどうだったかということから調べている。

海か池かがあったことはほぼ確かで、時々、メタンが噴き出しているっていうのもわかっている。だから、少しずつ詰めているんですよね。じゃあどういう探査をすれば、今の生命または過去の生命の痕跡がわかるかという議論をしていて、それを調べる探査機を上げようと、次から次へと計画が立っている。

 

──アメリカでは、IT企業の参入などがありますけれど、日本でもそういう動きはあるんですか?

 

宇宙ベンチャーはいくつか出てきている。大体は、地球でのことを宇宙空間でやる考えです。成層圏を出てみるとか、観光としての宇宙とか。体で感じて宇宙空間に出るって、ものすごい体験だと思うんで。そういう観光だったり、通信事業だったり。地上からの、Google Earthみたいにずっと見るというような。ちょっと前、ニュースになりましたけれど、お金を払えば、流れ星をパーっと作ってくれるっていうのもありますし。

月に探査機を送り込むことに取り組んでいるベンチャー企業が日本にもありますね。うちの研究室の卒業生もいます。月にロケットを送り込んで着陸させて、探査機を動かすコンテストをGoogleがやっていたりもします。

 

 

 

 

──日本のベンチャーによる宇宙ビジネスへの参入は進んでいくんでしょうか?

 

日本の一般の人も興味を持ってくれれば、それはビジネスとして成立する。成果が出始めたら、ワっと入ってくるわけで、そこは読めないです。日本国民がそっぽ向いちゃえば、ビジネスにならないので。

 

──ビジネスが盛んになった時、アカデミックな世界にいる方にはどんなメリットがありますか?

 

やっぱり、コストが下がること。例えば、これまで探査機は日本だったらJAXAが上げるしかなかった。でも、研究者が集まり莫大な額じゃない研究費を取ってきて、自分が観測したいものについて、望遠鏡を宇宙空間に上げたり、月に探査機を送れたりすることが出来るようになれば、ずいぶん違いますよね。

宇宙望遠鏡は、日本だったら10年に1度とかたまにしか打ち上げられない。上げたい人がいっぱいいるから、どうしても色んな機能が詰め込まれてしまってでかくなっちゃうパ

ターンなんです。でも、気軽に打ち上げられるんだったら、単機能にして、どんどん打ち上げることが出来る。そしたら、データが入ってきますから進歩は大きいですよね。

火星に勝手に行かれて菌をばらまかれても困るので、そこはちゃんと話し合ってね。

火星移住計画なんて……。どうするんだろうと(笑) ちゃんと殺菌してよと。我々の体の中なんて、1kgとか2kgが微生物ですから。

 

──スペイン人がマヤ文明に行ってなんていう話とは、比べものにならない。

 

もう全然比じゃないですよ(笑) 微生物をいっぱい溜め込んだ体で行かれちゃったら、大変ですよね。

 

 

ソフトな語り口で軽妙に、でも熱く宇宙や生命について語る井田先生。井田先生のお話を通じて、遠い宇宙空間に意識を旅立たせることができました。そして、頭の中ではまだ見ぬ地球外生命体との遭遇も……。
難しいと思いこんでいた惑星論や生命論でしたが、少し身近なものとして捉えることができました。人生100年時代のこれから宇宙に関しての新たな発表があった時には、好奇心を持って聞くことが出来そうです。充実した時間でした。井田先生、どうもありがとうございました。

 

 

写真:古谷利幸 文:合戸奈央

 

 

 

 

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編集・構成 MOC(モック)編集部
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PROFILE

井田 茂

1960年生まれ。京都大学理学部卒、東京大学大学院地球物理学専攻修了。東京大学教養学部(駒場) 助手を経て、東京工業大学地球惑星科学科に移り、現在、同大学教授。大学院時代にコンピュータ・シミュレーションを主とする太陽系の起源の理論的研究をスタート。 カリフォルニア大学に客員として滞在中に系外惑星の発見に遭遇し、太陽系だけではなく、銀河系の多様な惑星系の起源や地球外生命の居住可能性などにも研究の枠を広げる。

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