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山口創氏インタビュー第3回「ゆるやかなタッチ社会」に手を伸ばそう

 

ストレスはびこる現代社会において、”癒し”は重要なテーマになっています。そんななか、人と人との触れあいである〝タッチ”に着目し、その驚くべき効果を発表しているのが山口創先生です。インタビュー第3弾の今回は、タッチで養う“同調力”についてお話を伺いました。

 

――思った以上に皮膚は雄弁でした。皮膚が触れ合っていると気持ちを誤魔化せない?

 

本当そうですよね。本心が伝わってしまうのがタッチだと思うんです。表情やアイコンタクトなんかは割と誤魔化せるんですけど、タッチは誤魔化せないですね。

 

――すれ違い夫婦ほど、タッチすることで本心に触れられるかもしれませんね。

 

タッチというものをもうちょっと広く解釈してみましょう。お互い寄り添うとか、そばにいるとか、そういったこともタッチだと思うんですよ。食事をするとき、みなさんはどうしていらっしゃいますか? テレビを見ながら無言で食べている家族も多いのではないでしょうか。もしそうだったら、テレビを消してパートナーと向かい合いながらおしゃべりしながら食事してみましょう。それもひとつのタッチだと思うんです。

そういったことからタッチをはじめてみて、夫婦関係を見直すというのでいいんですよ。そうすればオキシトシンが出ますから。するとポジティブな気持ちになって、タッチしやすくなるんですね。

これ(『人は皮膚から癒される』(山口創著、草思社、2016年発行))でも書いたんですが、そばにいるだけで元気が湧いてきて、お互いの体が同調するんです。タッチするともっと同調しますが、ただそばにいるだけでもいい。それだけで体が同調してエネルギーが湧いてくるなど、いい効果がたくさんあります。

 

 

――タッチが好きな人や自然にできる人というと、甘え上手だったり天真爛漫な人とというイメージがあります。弱みを見せたがらない、強がりな男性はタッチに抵抗を感じがちかもしれません。

 

男性の方がオキシトシンが出にくいので、小さいころにお母さんからいっぱいタッチしてもらわないと悪影響が出やすいんです。

また子どもの頃のタッチが少ないとコレシストキニンという物質があまり出ず、思春期になったころに自分の行動がコントロールできにくくなるという問題もあります。異性をうまく愛せなくなったり、性的な行動をとれなくなったりしてしまうこともあります。

ネズミの実験でもそうでした。複数のネズミで、タッチの頻度を比較します。タッチが少ないと異性にアプローチできないネズミになりました。人間も動物ですよね。一緒なんです。タッチが少ないと異性へのアプローチが難しくなってしまいます。ただし、思春期に異性から距離をとってしまうことは正常な発達だと思いますよ。

ネズミは人間とは違って手で子どもを撫でるのが難しいので、触れ合いというと”なめる”ことがメインです。ネズミがいっぱいなめられて育ったとします。すると自分が親になったとき、子をいっぱいなめるようになる。ほぼ遺伝的ですね。遺伝子がどう発現するかは、環境に左右されるんです。受け継がれた遺伝子でその後が決まるというより、遺伝子がどう発現するかが環境によって、特にタッチの頻度で決まるんです。

家庭的なネズミとそうでないネズミに分かれるんですが、家庭的なネズミはよくタッチするし、エサをよく持ってきてくてるんです。そういうネズミはオキシトシンの分泌が多いです。そして攻撃的ではない。あまりタッチをしないネズミはというと……、攻撃的で喧嘩ばかりしている(笑)。人間も似ていますね。

 

 

――現代は、〝同調力”が低いように感じます。生きづらさを感じて孤独になる人、またその周囲の人間からしてもそういう人とどのように接すればいいか悩みどころです。

 

学生を教えていてもそう思います。メールやLINEなどがコミュニケーションのメインになっていますから、いざ面と向かったときにどのようにコミュニケーションを取ればいいかわからないという学生が多いです。それが行き過ぎると、同調から排除に向かうことがあるようですね。

やはり子ども時代のタッチの機会は重要です。親子間でもそうですし、クラスメイトなどでもタッチの機会はあります。体の触れ合いの前提となる、信頼関係づくりの土台ですね。

小学校でみんなで一つの行事に取り組むことが代表的です。運動会や合唱など力を合わせることが同調の体験になるでしょう。みんなで一つのことに取り組んで体を同調させることが「こんなに楽しいんだ!」という感覚をたっぷり味わっていれば、大人になってからの同調への抵抗が少ないと思います。

ですが、子どもの頃からひとりでゲームやスマホがメインのコミュニケーションしかしていないようですと、同調すること自体がわからない。したがってその楽しさも見いだせないのではないでしょうか。

共感とか喜びの土台を作ること、同調できるような体づくりが必要だと思います。

 

――同調できる体づくりとは?

 

面と向かってコミュニケーションをする、みんなでひとつのことを一緒に取り組む、そういったことで同調する体作りができると思います。

 

 

――身体心理学ならではのアプローチでしょうか。とても興味深いです。一方で、大人になると知人との死別など、孤独を感じがちな人は絶えません。大人になってから同調できる体づくりに取り組むことに意義はありますか?

 

ありますね。ただ、子どもの頃にしっかりと同調できる体を作っておけば、中高年になってからでも同調の喜びを感じることはできます。サークルに入ったり、人の輪に入っていきやすくなります。

子どもの頃にそういった経験がないと、閉じこもっちゃったり人と交流を持たなくなったりする傾向がありますね。子どもの頃の経験は、かなり大きいんですよ。

ですが、同調できないからダメだというわけではありません。たまたまそのコミュニティでは同調できなかっただけで、別のコミュニティでは同調できるかもしれない。その方にもよりますけどね。

学生にも言っているんです。いろいろなコミュニティに所属しましょう、と。一つのコミュニティでうまくいかなくなったときも、ほかのコミュニティでうまくいくことがありますよ。

基本的に人類には「ほかの人と同調して一緒に生活を営んでいく」という本能があるのだと、私は考えているんです。そういう意味では、同調を求めない人間はいないと思います。ですが、幼少期に虐待を受けたなどの経験があると、境界を固めてしまい、同調しない人になる可能性はありますね。

私が直接的に研究しているのではありませんが、海外ではトラウマに関する研究が行われています。やさしくタッチすることで、トラウマが癒されるという研究です。繊細な問題ですから、タッチも繊細じゃないといけないんですよね。触れられても安心してよいんだとか、自分で触れられることをコントロールできる感覚を持たせる(嫌と言ったら止めてもらえる)、そういう点に気を付けさえすれば、トラウマはタッチで十分回復できるんですよ。

言語によるカウンセリングだとトラウマを言葉で説明する必要があって、悪化することもあるのですが、タッチは説明しなくていいのです。言いたくないことは言わなくていいので、悪化の危険がないんです。触れることで感覚を変えていくということです。触れられることが痛みの体験だったり嫌な体験感覚と結びついていたのが、やさしいタッチを通して、嫌な体験との切り離しを図る。シンプルに触れられることが「気持ちいい」や「安心」という別の感覚を得られる。その感覚を体験してもらうという心理療法ですね。

 

 

――タッチって、人生に関わってくるんですね。

 

それは本当にそうですね~! 小学校に上がるくらいまでのタッチの頻度は重要です。もっといえば、生後1歳くらいまでがさらに大事。「愛着」が築かれるのが生後一年前後くらいなんですよ。それまでのタッチの頻度や、愛着の関係がいかに築くかということにかかっています。その一つの区切りが一歳前後なんですよ。

 

――なんて短い!共働きが多く、なかなか子どもとの時間を共有できない家庭が多いです。たとえば親が夜に帰宅して、子どもが寝ているときに触るのは効果があるのでしょうか?

 

寝ているときでも触覚の刺激は脳に伝わるので、オキシトシンは出ます。だから大丈夫ですよ。

それとお父さんについてです。まず赤ちゃんは母親とそうじゃない人の区別をします。そうすると人見知りが始まります。そこからさらに他人の認識が細かく分かれていきます。

やっぱり最初に認識するのはお母さんなんですよ。なのでその時期に「お父さんきらい!お父さんにだっこされたくない!」と赤ちゃんが反応してしまうのは仕方がないんですよ。お父さんはどんなに愛情たっぷりに接していてもその時期は排除されてしまうんです。時間がたてば大丈夫なので、しばらくの辛抱ですね(笑)。

いろいろな人に触れらていると、赤ちゃんに社会性が身についてきます。お母さんだけじゃないいろいろな人に触れられるというのは大事なんですよ。

 

 

――”ワンオペ育児(子育ての際、他人の助けを十分に得られずに、育児、仕事、家事をこな差ざるを得ない状態)”という言葉がありますが、子育てはもっといろんな人を頼っていいように思えてきました。

 

そうそう。むしろいろんな人を頼っていかなきゃ育児はやっていけないですよね。ひとりじゃ無理なんですよ。人間はいろんな人と一緒に子育てをするという風に進化してきました。だから母親だけ父親だけで育児をするというのは進化に逆らっているんです。

人間の赤ちゃんは非常に未熟な状態で生まれてきます。動物の赤ちゃんはもっと成長してから生まれてきますね。生まれてすぐ自分の足で立つことができるの動物は、人間の赤ちゃんと対照的です。母親ひとりじゃどうしようもないのが当たり前、みんなで子育てしていくという風に進化してきたからこそです。

一昔前の日本はそうだったと思うんです。ムラ社会を築いていましたよね。いろいろな人とスキンシップをしていた。それが最近は随分なくなっちゃいました。近所との交流はないし、隣に住んでいる人のことも全然知らない。都会の生活になっちゃった結果、孤独死する人がいる。

もっとタッチが自然に成り立つ社会、それも、ゆるやかなタッチを増やしていこうというのが私の目標ですね。

ゆるやかな、というのが特に大切。道徳教育のような上から目線ではなく、子どものころに親などからいかにやさしくされたかという感覚が大事です。小さいころの体験によって自然に「人を助けよう」という気持ちが生まれてくることが何より先立つと思うんですよ。身体的なタッチの前に「体が同調するような交流をしましょう」というところから、ゆるやかに。

タッチがそういった感覚を伸ばしていけるんだと考えて、私は研究をしています。

 

 

――ギスギスしない、相手を許しあえる寛容な社会に繋がりそうですね。

 

そのあたりを目指していろいろな本を書いています。人にあたたかい、やさしい社会。子どもに触れてあげれば、その子が大人になったときにきっとあたたかい人になるでしょう。そういったことが続いていくと、あたたかくてやさしい社会がだんだん実現していくんじゃないかな。

 


――
いいですね~。ゆるやか~なタッチ社会には、「みんなで子育て」という要素も大事でしょうか

 

私がモデルにしているのは、沖縄の多良間島(たらまじま、沖縄の離島)です。村全体で子育てをするようなところで、子どもをすごく大事にしていて、出生率が日本一に輝いたこともあります。

昭和30、40年代と近い環境ですね。沖縄にはそういう風土がまだ残っているんです。子どもを隣近所に預けるのが当たり前。みんなで子育てするのが当たり前な、ゆるやかな社会です。

 

――都会であれば、ママさんサークルなどがみんなで子育てをするきっかけになりそうです。

 

はい。そういったコミュニティーも大事ですね。

 

――さわりさわられですね~!

 

そうですね~。ゆるやかなタッチ社会をいっしょに築いていきましょう。

 

 

心も皮膚もとても繊細で壊れやすい。そう思いがちでしたが、これから私たちが目指すのは「ゆるやかなタッチ社会」で大丈夫。時には愛情をたっぷりに、時にはな~んにも気負わずに、そんな触れあいが、私たちの人生に幸せを与えてくれる。さあ、手に手を取って「ゆるやかなタッチ社会」を歩んでいきませんか?

 

 

 

 

 

 

 

山口創氏インタビュー第1回「ゆるやかなタッチ社会」に手を伸ばそう

山口創氏インタビュー第2回「ゆるやかなタッチ社会」に手を伸ばそう

 

 

写真:田形千紘   文:鈴木舞

 

編集・構成 MOC(モック)編集部
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PROFILE

山口 創

1967年生まれ。早稲田大学大学院人間科学研究科博士課程修了。専攻は、臨床心理学・身体心理学。聖徳大学人文学部講師を経て、現在は桜美林大学准教授。臨床発達心理士。 【著書】 『からだとこころのコリをほぐそう』(川島書店)、『愛撫・人の心に触れる力』(日本放送出版協会:NHKブックス- 959)、『子供の「脳」は肌にある』(光文社新書)『皮膚感覚の不思議』(講談社ブルーバックス)など

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