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漫画家人生62年目にして益々盛ん! 心が躍動すればペンも走る! ちばてつや 氏 インタビュー【第2回】

 

 

17歳で漫画家デビューしてから62年。ちばてつや先生が世に送り出した作品は少女漫画から少年漫画まで幅広く、原作者・梶原一騎先生との合作『あしたのジョー』を筆頭に、興奮や感動が多くの読者の胸に刻まれています。

2005年からは文星芸術大学で漫画を教え、近年はエッセイ『ひねもすのたり日記』を連載中。「漫画人生100年時代」も夢ではないように思えるご活躍ですが、ペンを持ち続けるパワーは一体どこから湧いてくるのでしょう。

 

 

──『あしたのジョー』は原作者・梶原一騎先生とちば先生による力作ですが、おふたりはタイプが異なるように思えます。ちば先生はのんびり温厚、梶原先生はちょっといかついというか雰囲気が……。

 

一見すると怖く見える方でしたね。いつもサングラスをかけていたし体も大きい。角刈りのようなヘアスタイルで(顔に)傷もありましたし。『ヤンチャだったんだろうな』と思う見た目だよね。

ちょうど私がボクシング漫画を描きたいと考えていた時期に、梶原先生もボクシングものが頭にあったみたいなんだ。それで編集者が私たちを繋いでくれた。

年齢はそんなに変わらなくて、私は親しくしていましたよ。梶原先生が三歳くらいお兄ちゃんかな。体が大きいから、私はいつも見上げて話をしていた。でも怖くはなかった。ガキ大将が大人になったような、とてもわかりやすい人柄でね。

 

 

 

 

──梶原先生のシナリオは小説のように原稿で送られてきたんですよね。

 

原稿用紙に手書きでストーリーが書かれていたね。2Bか3Bか濃い鉛筆を使った、骨太の力強い字で原稿は埋め尽くされていましたよ。字も男っぽいんだ。擬音が入ると迫力満点。「ダダダダダー!!」「ガツーン!」と太くて大きな字に力が込められていたんです。

僕はやがて字を見ただけで、梶原さんの体調や気持ちのノリがわかるようになったんだ。太くてエネルギーが溢れている字に刺激されたりもした。逆に自信がなさそうな時は細い字になっていたのを覚えています。

すごく大事な原稿だから、好奇心いっぱいのウチの子供たちの手が届かないようにと、屋根裏にしまっておいたんです。そうしたら大雨で濡れてしまって……。一部だけ無事だったので今も大切に保管しています。

 

──作風だけでなく、梶原先生自身が見た目も中身も男らしい方だったのですね。

 

パーティーなんかだと漫画家が集まるでしょう。梶原さんが登場すると、水に油を落としたようにそこから人が引いていくんだ。赤塚不二夫さんたちに「一緒に仕事をしていてよくモメないね」と言われたけど……モメましたよ! ただしそれは意見をいろいろ言い合うということ。私の言葉を取り上げてくれて、ストーリーに活かしてくれるのはよくありました。

 

 

 

 

──ギャグマンガの神様・赤塚不二夫さんはどんな方でしたか?

 

とっても繊細なんだけど、周りの人を喜ばせてあげたい人。「人が喜ぶならなんでもするよ」というね。だからすぐ裸になる(笑)。

いつもお酒を飲んでいたけれど、それは素面では編集者と打ち合わせもできないくらい繊細だったから。本当にやさしい人なんです。

 

──クリエイティブな方々ってやはり個性豊かで魅力的すね。ちば先生もおっとりされていますが、まだまだ底が見えません! 自分とはまったく違う性格の人物を描く苦しみはあるのでしょうか?

 

力石徹が死んだあと、ジョーが見世物のようなボクシングをしながら旅をしていた頃があるでしょう。あの時のジョーはパンチを打っては吐き、打っては吐きでね。僕も描いては吐き、描いては……いや実際には吐かなかったけど(笑)。

そういう気持ちになっていましたし、内臓が相当のダメージを受けていたみたいだった。

漫画家ってみんなそうだと思うんだけど、キャラクターの気持ちになりきらないと上手く描ききれない。「嬉しい」や「悔しい」という表情がうまく描けないの。

だから辛そうなジョーに気持ちを重ねてしまっていたし、自分の体力が落ちていた時期だったもんだから、私の体はとても大変だったでしょうね。『あしたのジョー』を描いていた頃は、一番体が弱っていたんです。自分で自分を制御できなくて、どこまで体がもつのかわからなかった。それで実際に病気になって、力石徹が死んだ後には仕事を休んだんだ。

 

 

 

 

──あのあたりは読者も読むのがつらい時期でした。タイガー尾崎戦なんて、もっとやれるのにやれない、前へ進めないもどかしさがありました。

 

私は家族と一緒に暮らしているから、心配されてね。母親が「最近のてつやはロウソクみたいな顔をしている。もういい加減に仕事を減らしたら?」なんて言うほどだった。血管が透けて真っ白な顔色をしているのに、目と耳だけが赤くなっていたらしい。特に私は屋根裏に閉じこもって仕事していたし、今もそう。だからかな、お陽さまの下に出ると嬉しいね。

 

──1970年からはアニメ『あしたのジョー』が放送開始されました。アニメはご覧になってました?

 

見てましたよ。全部は見れませんでしたが。『新しいジョーになっている!』と思いました。二次元ではできない表現がたくさんあるでしょう。動く、音が入る、音楽が鳴る。それに、“間”もうまく使ってくれていたね。パンチが入る瞬間からそのあとのスローモーションに、漫画のような間をおいてくれていた。二次元では描けないような光や音を上手く取り入れて作っているんだなぁと感じ入りました。そういう意味で私が描いたキャラクターなんだけど、アニメはまったく違うと思いますよ。

 

──漫画はもちろん、アニメも視聴者のハートを強くつかみました。テーマソング「あしたのジョー」が流れるとワクワクしてきます!

 

そうなんですねぇ。寺山修司さんはとてもいい詞を書いてくださいましたが、本当にジョーを愛してくれていました。

 

 

 

 

──病気を経験しながら、今もエッセイコミック『ひねもすのたり日記』の執筆活動を続けていらっしゃるエネルギーの秘訣が知りたいところです。食生活も気になるのですが、好き嫌いはありますか?

 

ないんだねえ。あったのかもしれないけど、母親が厳しい人でね。残そうものなら「じゃあ食べなさんな! 食べられなくて困っている人はたくさんいるんだから」と。

私は幼い頃を満州で過ごし、戦後に日本へ帰ってきました。満州引き揚げ中も日本に帰ってからも、食べるものがなかったり貧しくて食料を買えない人はたくさんいたんです。当時の上野の公園の風景を覚えています。私と同い年くらいの子がいっぱいいました。焼け出され、頼れる家族もいないような子供です。戦中は疎開して田舎で暮らし、生まれた町に戻ってきたら親も家もなくなってしまった。そういう子供は盗みもしたでしょうし、新聞配達や靴磨きでやっと生きているような状況でした。

ですから食べものの好き嫌いだとかを口にしたら「あんたたち上野に行きなさい! 家や家族がないのに頑張って生きている子たちがいっぱいいるのよ!」と母に叱られました。そういう時代に仕込まれていますから、食べものの好き嫌いなんて言えませんねぇ。

 

──ちば先生の漫画や過去のインタビューでもお母さまは登場しますが、信念の強そうな女性ですね。ちば先生が艶っぽいエピソードを描いた際には、「子供に見せるものじゃない」と怒られたとか(笑)。

 

「大人向けの雑誌だから大丈夫なんだよ」と説明してもダメ。私は40歳か50歳くらいで、子供だって生まれていたというのに、正座させられて叱られました(笑)。

飯岡に住んでいた祖母も元気いっぱいな人でね。怖いけど優しかったんだ。私がちょっといじめられて海で溺れ死にそうになったことがあったんです。そのとき父も一緒だったのですが、それが祖母の怒りに火をつけてしまいました。親がそばにいながらこんな危ないことになるなんて「あんのこったあや(どういうことなの)!!」と。この言葉は耳について忘れられないね(笑)。

 

 

 

 

──現在連載中のエッセイコミック『ひねもすのたり日記』でも「あんのこったあや」の衝撃が描かれていますね(笑)。リアクションの素敵なおばあさまだったんだなと伺えます。しかし幼い頃から放浪癖があったというちば先生。ご家族はハラハラさせられているのでは?

 

今もフラフラいなくなっちゃう。一日のうちほとんどを屋根裏で過ごしているけど、出かけるのも楽しいんだ。大学(文星芸術大学で漫画を教えているちば先生)に行くとなると『新幹線に乗って宇都宮にギョーザを食べに行くぞ!』と嬉しくなる。新幹線へ乗り遅れそうになってダッシュするのも、運動で汗をかくようなものだよね。

近所だったり、宇都宮の大学の帰りに寄り道しては渋谷、新宿をうろついて……。三時に大学を出たはずなのに、いくら時間が経っても家に帰ってこないなんてのはよくあるよ。

今はフラフラ出かけて帰ってこなくても、誰も心配しないんだ。私が興味があることにはついていっちゃうことを知ってるからかな。ちんどん屋に夢中になって迷子になる子供がいるでしょう。それと同じだね。『アレはなんだろう、どういう仕組みなんだろう』と気になり出したら足が止まらない。そういう癖は変わらないよ。

 

──フレッシュな気持ちを抱き続けるちば先生は、今年で79歳。漫画家といえば体力と精神力が必要な職業ですが、ご夫婦揃って若々しいですね(ちばてつやプロダクションを訪れた取材班に応対してくれた奥様。大きな笑顔が素敵でした)。

 

時々、ラジオ体操代わりに近くのテニスコートに行くんだ。じいちゃんばあちゃんたちと一緒ににぽっこんぽっこん(テニスを)するんです。昔に草野球のチームを作ったんだけど、今もそのチームで野球をしていますよ。でも最近はあんまり試合に出してくれないの。だからベンチで応援したり野次ったり、ワーワー言ってるのは楽しいねぇ。そうそう、一日一回は汗をかくようにしているんだ。

 

 

 

 

──好奇心と運動がエネルギーを蓄えてくれる。大学では漫画を教えていらっしゃいますが、学生と直に触れ合ってみて、今の若者の情熱をどう感じていますか?

 

自分以外の人間が上手く見えて、それに苦しんでいる子が多いように思えるね。でも上手い下手が全てじゃないし、挫折を乗り越えて一生懸命に描くのがやっぱりいいんじゃないかな。

私も人と比べて落ち込むことはありました。『自分はなんて下手なんだろう。どうしてみんなは上手く描けるんだろう』とね。

 

──MOCインタビューの取材直後も大学に行かれるということですが、学生とは普段どんな風に接していますか?

 

悩んでいる子供たちを見つけたら相談にのったり、青い顔しているのがいたら庭に出してキャッチボールをしたり。

 

──なっ……! その学生がうらやましい!

 

私は私で、好きなキャッチボールができるから楽しいんだ。授業に出て学生に交じることもありますよ。先生が難しい言葉を使ったら手を挙げて「あの~、パースってなんですか?」と質問しています。あとは……廊下のお掃除をしていますね。

 

──え~っ!

 

ゴミが落ちているのをちょっと拾ったりね。

 

──フットワークが軽いですねぇ! 今もペンを走らせているパワーの秘密を知れた気がします。

 

一日に一回は汗をかいて、学生とキャッチボールしたりする。そういうのも楽しいよ!

 

 

 

“楽しい”と感じることにとっても素直! インタビューを通して、ちばてつや先生からはそんな印象を受けました。好奇心や探求心、サービス精神が旺盛で、漫画の天才でありながら人生を楽しむ・楽しませる天才でもあるようです。『ひねもすのたり日記』を始め、人生100年時代もちば先生のご活躍がますます期待されます。その手から生み出される漫画は、これからも私たちの心を躍らせることでしょう。

次回インタビューでは、ちば先生が現在連載中の『ひねもすのたり日記』を中心に、幼い頃を過ごした満州のお話しをお聞きします。

 

写真:田形千紘     文:鈴木舞

Ⓒ/  講談社

 

 

 

 

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編集・構成 MOC(モック)編集部
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PROFILE

ちば てつや

1939年(昭和14年)1月11日、東京築地の聖路加病院で生まれる。
同年11月に朝鮮半島を経て、1941年1月旧満州・奉天(現中国・遼寧省瀋陽)に渡る。
1945年終戦。翌年中国より引揚げる。
1950年、友人の作る漫画同人誌「漫画クラブ」に参加。1956年、単行本作品でプロデビュー。1958年「ママのバイオリン」で雑誌連載を始め、1961年「ちかいの魔球」で週間少年誌にデビュー。
主な作品に「1・2・3と4・5・ロク」、「ユキの太陽」、「紫電改のタカ」、「ハリスの旋風」、「みそっかす」、「あしたのジョー」、「おれは鉄兵」、「あした天気になあれ」、「のたり松太郎」など。
公益社団法人日本漫画家協会会長。
東京都練馬区在住。

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