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「勝ち逃げできるがん治療を目指して。患者さんの人生から医者が学ぶべきことがある」長尾和宏氏インタビュー【第2回】

 

 

医療技術の発展は目を見張るものがありますが、しかし今なお「がん」による患者数は増加をたどっています。そしてがんによって生涯の幕を閉じざるを得ない人も……。
その要因のひとつには人口の高齢化があり、人生100年時代を迎えた現代人は、がんとの向き合い方を考えなければなりません。多くのがん患者を診てきた長尾先生が目指す「勝ち逃げできるがん治療」は、どんな可能性を見せてくれるのでしょう。

 

 

──「がん」のとらえ方を今一度見直してみるのもひとつの手。そうすると、抗がん剤治療についての認識も改める必要があるのでしょうか。

 

抗がん剤に関してもそうです。いまだに「抗がん剤をやめたらすぐ死にますよ」と言う医者はいまだ少なくありません。僕は著書で「抗がん剤をやめたいと患者さん側から言いだしてもいい」と書いています。

患者さんが実際に「抗がん剤をやめたい」とお願いすると、怒り出す医者もいますが、それは医者の傲慢です。「俺の治療が気に食わんのか!?」はすごくおかしい。寿司屋の親父が「俺の寿司が気に食わんのか!?」と、客を追い出すのと同じでいいのか。抗がん剤治療してもがんは治りません。あくまで延命治療です。ならば、当然その“やめどき”があるのです。それを一緒に見つけることも町医者の役割です。

 

──長尾先生は著書で抗がん剤など“薬のやめどき”を提唱されていますね。しかし、患者さんや医療界からの反発はなかったのでしょうか?

 

“薬のやめどき”という概念そのものが医療界にありませんでした。抗がん剤に関わらず、血圧の薬、糖尿病のインスリンなど、いろいろな薬の“やめどき”というものがあるはずと僕は考えます。嬉し事に最近は“やめどき”を口にしてくれる医者が増えてきました。「もしかしたら俺が出している薬にも、やめどきってあるかもしれない」という考えに傾く医者が増えています。でも空気は少しずつしか変わりません。

抗がん剤に関しては、『抗がん剤10の「やめどき」(長尾和宏著、ブックマン社、2013年発行)』という本を書きました。僕がこの30年間の経験を全部織り込んでいます。本当にあった話と架空の話を織り交ぜた、ハーフノンフィクション、ハーフフィクションの構成です。守秘義務がありますからね。小説風でもありますが、ことがん治療に関してはリアルすぎるくらいにリアルな内容です。

この物語のなかに抗がん剤の“やめどき”の選択肢を10ケ所具体的に示しました。読んだ方は自分の死生観と照らし合わせて選び主張してほしい。あるいは、自分の想いを何度でも医者と話し合ってほしいです。

 

 

 

 

──医者のほうも治療に対する姿勢、患者と向き合う姿勢を変えるべきでしょうか。

 

がんを扱う医者にも多くの課題があります。知らないことや見えていないことが多いんです。

たとえば「がん患者さんが亡くなるその日まで抗がん剤を投与することが最良の医療である」と考える医者がまだ多くいます。「在宅治療になったらすぐ死ぬもんだ」と思っている専門医もいます。一方、マスコミでは極論がもてはやされます。「抗がん剤は一切無駄」というような主旨の本も出ています。「抗がん剤を死ぬまで打とう」あるいは「まったく打つな」。極論だけでは患者さんは幸せになりません。勝ち逃げを指南するのが医者の役割です。

テレビ番組で「クイズ$ミリオネア」ってありましたね。出題されたクイズに回答者は一問ずつ答えていく。正解するごとに賞金額は倍になるが、ハズれたら一銭もいただけない。回答者は次の問題にチャレンジするかどうか、そこに選択権があります。「進みますか?やめますか? ファイナルアンサー?」全問正解、あるいはちょうどいい獲得金額で満足したら、そこで勝ち逃げができるかの?はたして町医者はそんな難問に寄り添えるか。どう寄りそうのか。

 

──病気に対して「勝ち逃げ」という発想が新鮮ですね。

 

がん治療において勝ち逃げはできないのか、ということをいつも考えています。

「抗がん剤を最後までやることがベスト」という考えが、医者にもあるのではないか。患者主体の医療と謳いながら、医者が押し付けているのではないか。そして家族も当たり前だと受け止めてしまっているのではないか。

いいタイミングで抗がん剤をやめることは決して敗北ではないんです。勝利なんです。そして、医療は「患者と医者の協働作業」です。だから患者の側から「抗がん剤をやめたい」と言いだしてもらって全然いいんです。

 

 

 

 

──何も知らないままでは主治医の言葉がすべてになりがちということでしょうか。長尾先生は「患者も賢くなりましょう」と提唱していますね。

 

医者が全てを知っているわけではありません。あるところを過ぎたら、医者にとっても患者にとっても未知の世界なんです。「ファイナルアンサー?」の世界ですね。そのことを患者さんも知らないと。なぜならそこから先の世界は、医者が責任を持ってくれるわけじゃない。医者のいうことを聞いてさえいれば、いい病院に入りさえすれば、……というのは幻想なんです。

その挙句に「がん難民」になってしまうことがあります。がん難民にならないためには患者自身が賢くならないと。患者のリテラシーをあげていくことは大事です。

 

──患者は抗がん剤のことを完治する薬だと思っているのかもしれません。がんが進行中なのか、寛解なのか、病気の症状や薬の種類によって、がんとの付き合い方が変わるのだと、著書で説明されていますね。

 

「抗がん剤でがんが治るわけではない」ということを、本来は医者が患者にきちんと伝えなければいけません。治るものだと信じて治療を受けている患者さんがいっぱいいる。

それともうひとつ、医者があまりにも無知なように思います。抗がん剤治療をやめたとして、患者さんがその後どうなるかにあまりにも興味がない。 映画『大病院(伊丹十三監督、1993年公開)』という作品を観たことはありますか。津川雅彦演じる大学病院の外科医が「僕は医学部では、(がん治療を)やめることは習わなかった」と(がん治療を拒否する患者に対して)話すわけです。抗がん剤治療は続けるものであり、「やめる」という選択肢がないんです。これは30年前の映画ですが、今も同じですね。

抗がん剤をやめたあと患者さんがどうなるか、このことについて医療の世界では誰も教えませんし、医者は患者さんやご家族から学ばないといけないのです。

 

 

 

 

──その抗がん剤についてですが、長尾先生は真っ向から否定をしてはいません。実のところ本音はいかがでしょう。抗がん剤の中でも怪しいものはあるのでしょうか。

 

エビデンスレベルの高い抗がん剤もたくさんあります。そして遺伝子検査を行い、効きそうな人にしかしない時代になってきました。一方で後期高齢者への抗がん剤は懐疑的な傾向です。僕はいつも本や講演会でも言っているんですが、薬そのものがいい悪いという話ではないんです。薬の使い方、つまり量やさじ加減、そしてなによりも“やめどき”の問題にしています。

 

──発症している臓器や患者、いろんな要素によって適した組み合わせがある?

 

そうです。医療では「標準治療(科学的根拠に基づいた観点で、現在利用できる裁量の治療であることが示され、ある状態の一般的な患者さんに行われることが推奨される治療/「国立がん研究センターがん情報サービス」より引用)」という言葉が用いられていますね。しかし、同じドクターでも十年前に施している治療と今の治療を比較すると、全く違うということはよくあるんです。いい薬があったとしても、使い方が問題です。

ゴルフのクラブみたいなものでしょうか。いくら品質のいいクラブでも下手な人が使ったらOBを打つことだってある。そんな感覚ですね。薬そのものの優劣もありますが、医療側の使い方次第でその効果は異ってきます。そういうことを医者も患者も十分に知ってほしいです。

 

 

私たち現代人を取り巻くがん社会。しかしがんに「勝ち逃げ」し、生き抜く未来に向かって進んでいきたいですね。
日本人の2人に1人ががんにかかるという罹患状況は看過できるものではありませんが、目や耳からとめどなく入ってくる“情報”もまた、がん社会の一辺を形成しています。
クオリティ・オブ・ライフ向上のためには、情報リテラシーも必要なよう。第3回インタビューで正しいがん知識・情報の選び取り方についてお話しを伺います。

 

 

写真:澤尾康博 文:鈴木舞

 

 

 

 

「想いと向き合い、人生に寄り添う。そんな町医者であり続けたい」長尾和宏氏インタビュー【第1回】

「納得できる生き方のために。医療の現場から価値ある情報を発信したい」長尾和宏氏インタビュー【第3回】

 

 

編集・構成 MOC(モック)編集部
人生100年時代を楽しむ、
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Moment Of Choice-MOC.STYLE

 

PROFILE

長尾 和宏

医学博士。医療法人社団裕和会理事長。長尾クリニック院長。一般社団法人 日本尊厳死協会副理事長・関西支部長。日本慢性期医療協会理事。日本ホスピス在宅ケア研究会理事。全国在宅療養支援診療所連絡会理事。一般社団法人 エンドオブライフ・ケア協会理事。一般社団法人 抗認知症薬の適量処方を実現する会代表理事。関西国際大学客員教授。『痛くない死に方』『抗がん剤10の「やめどき」』『ばあちゃん、介護施設を間違えたらもっとボケるで!』『家族よ、ボケと闘うな!』『長尾和宏の死の授業』『長尾先生、「近藤誠理論」のどこが間違っているのですか?』『痛い在宅医』『看護の現場ですぐに役立つ 緩和ケアのキホン』など著書多数。

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