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世界のエスタブリッシュが、中国を本格的に牽制するか? 河添恵子 氏が語る、国際社会のリアル【後編】

 

 

ファーウェイ事件を皮切りに一気に表面化した米中対立。ウォッチすべきは米中の動向だけではありません。実は、台湾がとても重要な位置に立たされています。

さらにイギリスなどの西欧諸国や「ファイブ・アイズ」などからも目が離せません。

ノンフィクション作家にしてコメンテーターとしても活躍する河添恵子氏は「ファーウェイ事件~メディアが絶対報じない真実~」で今後の世界情勢について鋭く分析。

中国への留学経験や長年の執筆活動を経て展開される河添氏の考察を聞いてきました。

MOC編集部は、対立深まる米中関係、EU問題で揺れる西欧諸国の動き、アジアで今重要な場所であると評価される台湾など、今回の講演会で得た見識を交えながらファーウェイ事件とその余波に関する考察をお届けします!

 

※講演会を主催した千田会は、国際問題に関する勉強会を数多く開催しており、複雑に見える国際的な政治や経済について理解を深めるサポートをしてくれる団体です。

 

 

台湾に注がれる米中からの熱視線

講演会レポート前編で触れましたが、米中の覇権争いにおいて鍵となるのが台湾です。

なぜなら次世代半導体製造工場数が多く、5G時代が到来する情報空間で重要な基盤を作るには次世代半導体製造工場が必要となるからです。

ファブレス(工場など自社製造設備を持たないメーカー)の規模は現在、アメリカが世界一位。そして中国が二位につけています。

覇権争いはどちらが勝者になってもおかしくないデッドレースの様相を呈してきているといえます。

「台湾の獲得」=「来たる5G時代の重要なテクノロジーの獲得」を意味し、中国は何としても台湾に基盤を広げたいはず。

習近平国家主席率いる中国政府は「台湾は、中国と民族のルーツを同じとする共同体である」とみなしており、鍵は台湾にあると河添氏が分析します。

 

 

 

 

中国の国家大戦略「千人計画」とは

ハイテクノロジー化した現代社会において、技術の獲得、基盤確立・拡大は世界の覇権を争う米中にとって死活問題。情報合戦は熾烈を極めていくことでしょう。

ここで河添氏は、2008年から中国が進めてきた「千人計画」に触れ、産業スパイの活動が十年ほど前から本格的にスタートしていたことを説明しました。

「千人計画」とは、最高難度の産業スパイのことです。

中国に利益をもたらす最先端技術を世界中から取得するために、スタンフォードなど理系の最高峰の大学や、IT系企業の要職に務める華僑華人を含めた中国人の理系頭脳をリクルートして、中国の発展を目的に工作させる戦略です。

河添氏は、FBIが「千人計画」に選ばれた人物を、数年前から危険視し捜査対象にしており、拘束や、ビザの更新の不可、入国禁止などの処置が行われており、それについて2018年も英字や中国語メディアには、具体的に報じられていると語っています。

 

 

「千人計画」の根幹メンバーの今後に注目

ファーウェイCFO逮捕の日、河添氏が注目したのはとある男性の不審死。

あの大ニュースの裏側でスタンフォード大学の名誉教授・張首晟氏が自らの命を絶ちました。

張氏は「千人計画」の発案者の一人との噂もあり、広告塔でもあったと河添氏は考えます。

中国政府が大きな国益をもたらした国民に贈る「国家一等功」賞というものがあり、最新の5名の受賞者はいずれもそうそうたる顔ぶれ。

フェニックステレビの劉氏、テンセントのポニー・マー氏、アリババのジャック・マー氏、ファーウェイの任正非氏、そして張教授です。

中国の国益とはつまり、中国共産党への尽力ともいえます。河添氏は、千人計画には大企業や名門大学の人材が協力者として名を連ねていると考えます。

 

 

 

 

中国監視システム3本柱と技術革新

習政権の世界同時革命の戦略は、インターネットとの親和性が高いとみることができます。

政権による情報コントロール、SNSへのキーワード監視はIT技術が可能にするものだからでしょう。

 

中国の監視システム3本柱

・金盾工程 中国全土を網羅する情報検閲システム。金盾は、グレートファイアウォールとも呼ばれる。

・天網工程 AI搭載の監視カメラを軸としたネットワークシステム。

・雪亮工程 個人情報収集・管理システム。農村開発で活用が期待される。

 

中国はこれらシステムの樹立を通じて、情報産業の利益獲得、世界の軍産複合体の核となることや戦争・支配の推進を狙っているのではないかと、河添氏が指摘します。

ここで河添氏が、「国境なき記者団」が2007年に開発関係者による匿名の取材を経て発表したレポートを紹介。

レポートによると、中国は2001年時点ですでに金盾工程の基礎部分を完成させており、中国の監視システムは運用開始されていたと考えられます。

習近平氏が推進したとされる中国の「社会信用システム」や国民の点数制評価は、「反権力・反中国共産党、反習近平」の勢力を弱体化させる効果を持ち、中国共産党の力を強化します。

自由主義の陣営とのスタンスの相違は深まるとみられます。

 

 

 

 

ファーウェイは中国政府に見捨てられた?

ファーウェイは中国を代表する世界規模の通信関連企業の地位へと昇格しましたが、CFO逮捕もあり、習政権との関係性に何らかの変化をもたらしている可能性はゼロではないと、と河添氏は指摘します。

2018年12月に北京で開催された「改革開放40周年」記念式典では、中国への卓越とした貢献をした人物が表彰されましたが、ファーウェイは表彰されませんでした。

アリババのジャック・マー氏やテンセントのポニー・マー氏、バイドゥの李CEOは表彰されています。

河添氏は、ファーウェイはそもそも、習近平一派と敵対関係にある江沢民一派と近い関係にあったことも指摘しています。

 

 

江沢民一派と中国の研究開発

「江沢民一派」とは何か。江沢民氏といえば1989年6月の天安門事件以降、2003年まで中国国家主席を務めた人物です。上海市のトップだったこともあり、上海閥などと呼ばれています。

2001年末に中国がWTO加盟したのとタイミングが重なる頃、江沢民国家主席の長男・江錦恒氏は中国科学院の副学長に就任。

中国の通信分野において、鍵となる人物が江錦恒氏であると、河添氏は考えます。

「千人計画」と江錦恒氏との関係も深く、2013年に上海科技大学の学長に就任した彼は、スタンフォード大学の張教授を2018年からは特別教授として招聘していました。

二人は、復旦大学物理学部卒の先輩後輩という関係にもあります。

河添氏はスタンフォード大学の張教授が2013年にシリコンバレーで立ち上げた「丹華資本」について触れました。

丹華資本は、ベンチャービジネスやスタートアップ企業への資金提供を活発に行ってきました。

それに対して、「アメリカ通商代表部は、丹華資本などのチャイナマネーが、シリコンバレーの新興企業への資本提供を通して最先端技術や未来の頭脳を奪取していることを懸念している」と河添氏は分析します。

 

 

 

 

5Gがもたらす革命と世界情勢の危機

世界のパワーバランスが、テクノロジー力を主柱として変遷するであろうことは疑いの余地がないようです。「5Gは単なる科学技術進歩ではない、革命である」という認識が世界共通になりつつあります。

河添氏は5G技術によって、サイバー攻撃のAI化を懸念しています。

「情報収集から攻撃までをAIが果たす時代が到来する。特に自動車の自動運転技術が攻撃対象となった場合の危険度は高い。

これからの時代の戦争のあり方、サイバー空間で行われる戦争が勃発しうる」と強調しました。

同時に、5Gのイニシアチブを握ろうとしているのがファーウェイに象徴される中国企業であり、そこにアメリカが大きな危機感を抱いているため、ファーウェイ事件が起きたのではと考えます。

「監視システムを推進する社会主義国家がIT技術を掌握することのリスクは非常に高い」と河添氏は論じます。

 

 

中国政府はファーウェイを守るのか

民間企業を含め、政府と無関係とは言い難いのが中国企業ですが、ファーウェイCFOである孟晩舟氏も共産党の諜報機関に属する特務だった可能性が、香港などのメディアから指摘されていると、河添氏は分析します。

アメリカは創業者の任氏の起訴も目指しているようで、年内に大きな動きがみられるのではないかと河添氏は予想しました。

河添氏はまた、ファーウェイの取締役会の人事は独特かつ不可解な構造になっていると指摘しています。

いずれにせよ、すべてを掌握すると考えられるポジションは董事長であり、創業者という構造になっています。

 

 

 

 

これからのチャイナパワーとアメリカによる包囲網

ITがもたらす影響力は今後もますます増大していきますが、どの国が覇権を握るかで世界情勢はがらりと変わるでしょう。

特にビッグデータ、クラウド、ロボット工学、バーチャル・リアリティなどの技術革新が占める重要度は相当なもの。

丹華資本が出資に力を入れてきた分野であり、中国が周到に覇権掌握に向けて準備を整えてきたようです。

しかしアメリカは独裁政権である中国のひとり勝ちを許しません。さらにイギリスも同様です。

世界のエスタブリッシュメントが習近平政権に照準を合わせてきている気配が国際社会に漂っていると、河添氏は指摘。

超大物投資家のジョージ・ソロス氏が、2019年1月のダボス会議の演説で、習近平を危険視する発言をしたことも話題となっています。

 

 

「ファイブ・アイズ」で産業スパイを打倒

ここで「ファイブ・アイズ」の効果を河添氏が紹介。

ファイブ・アイズとは諜報活動における情報共有を目的とした国家間協力で、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドといった自由主義陣営が協定を結んでいます。

河添氏は、ファイブ・アイズが中国の産業スパイ活動を牽制し、5G覇権を認めない流れへと進んでいると分析。

親中路線が顕著だったドイツも、対中政策において2018年から明らかに方向転換をしていることを指摘しました。

 

 

 

 

2019年以降は、米中のめまぐるしい攻防、各国の戦略に注目!

河添氏は、2019年は米中貿易戦争にとどまらず、激動の1年になるのでは?と予測しています。

世界同時革命を狙う習政権、チャイナパワーの弱体化を使命とするトランプ政権、警戒心を高めつつある西欧諸国。

そして、中国マネーと連携してまだ儲けたい旧勢力や新興国、債務漬けで〝死に体〟の国家……。

ファーウェイ事件を一企業の幹部による違法行為と捉えるのでは、事件への理解は不十分です。

 

 

河添恵子氏によるファーウェイ事件の分析を通じて、世界情勢の今が見えてきました。我々日本人はどのようなスタンスを取るべきか、慎重に考えなければいけません。

言論や宗教の自由がない、民主主義が否定された監視社会の恐ろしさ、恐怖政治を我々の多くは理解も想像もできないままでいます。

自由や民主主義は、空気や水のように存在しているものだと思い込んではいけません。

信頼できる情報を得て、友人知人と意見交換などもしながら、ファーウェイ事件、そして米中戦争の真意は何かを考え、世界の新たな潮流をとらえていくことは大切かと思われます。

 

 

 

 

ファーウェイ事件から見えてくる中国のサイバー戦略。河添恵子氏が語る、国際社会のリアル【前編】

 

 

編集・構成 MOC(モック)編集部
人生100年時代を楽しむ、
大人の生き方マガジンMOC(モック)
Moment Of Choice-MOC.STYLE

 

PROFILE

河添 恵子

1986年より北京外国語学院、1987年より遼寧師範大学(大連)へ留学。1994年に作家活動をスタート。2010年に上梓した『中国人の世界乗っ取り計画』(産経新聞出版)は、Amazon〈中国〉〈社会学概論〉の2部門で半年以上、1位を記録するベストセラー。
最新刊は、『世界はこれほど日本が好き №1親日国・ポーランドが教えてくれた「美しい日本人」』(祥伝社黄金文庫)。その他、『トランプが中国の夢を終わらせる』(ワニブックス)、『豹変した中国人がアメリカをボロボロにした』『だから中国は日本の農地を買いにやって来る TPPのためのレポート』(共に産経新聞出版)、『「歴史戦」はオンナの闘い』(共著)(PHP研究所)、『中国・中国人の品性』(ワック)(Amazon〈中国〉部門1位)など。
世界の学校・教育関連の取材・著作物も多く、学研の図鑑(47冊)他、『アジア英語教育最前線』(三修社)、『エリートの条件―世界の学校・教育最新事情』(学研)がある。
産経新聞や『正論』『WiLL』『週刊文春』『夕刊フジ』などで執筆。NHK、テレビ朝日などの報道番組で、コメンテーターとしての出演も多数。ネットTV(林原チャンネル・チャンネル桜・チャンネルAJER)にレギュラー出演中。40ヵ国以上を取材。
近年、年間の講演回数は60回を超える。

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