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ファーウェイ事件から見えてくる中国のサイバー戦略。河添恵子氏が語る、国際社会のリアル【前編】

 

 

2018年12月1日に起きた「ファーウェイ事件」。

瞬く間に世界を駆け巡ったこの出来事は、決して一過性のものではありません。国際社会を大きく揺り動かす事件であり、これからの世界情勢に多大な影響を与える可能性が大きいといえます。

中国が世界に誇る大IT企業のCFOの逮捕が、なぜこれほどまでに注目を集めるのでしょう。

迎えた2019年2月17日、ノンフィクション作家の河添恵子氏が講演会「ファーウェイ事件~メディアが絶対報じない真実~(千田会主催)」を開催。中国での留学経験を有し、コメンテーターとしても活躍する河添氏が、ファーウェイ事件の本質を熱弁し「ファーウェイ事件は、米中による世界の覇権争いのひとつの象徴である」との分析を展開。

日本人は今回の事件をどのように捉えるべきかを論じました。

主催の千田会は千田昌寛氏によるサービスで、国際問題に関する勉強会を数多く開催し、日本人の見識や政治的関心の向上を目指しています。

 

 

 

 

アメリカと中国のパワーバランス

まず念頭におきたいのは、アメリカと中国という二大国間では、熾烈な争いが繰り広げられてきているということです。

「米中貿易戦争」と称されるこの対立は、2001年末に中国がWTO加入以来、加速度的に展開されてきたといえるでしょう。

第二次世界大戦を境に大国として君臨し続けてきたアメリカは、急成長著しい中国が国際社会の覇権を握ることに危機感を抱いています。

今やチャイナパワーは、政治、金融市場などあらゆる面で世界を揺るがす大きな渦となりました。

中国のAmazonの異名を持つアリババ、SNSサービスのテンセント、白物家電の販売シェアで世界一位に立ったハイアール。

中国企業の躍進は、従来の国際社会のパラーバランスを一気に変える勢いを保持してきました。

そんななか2018年12月にファーウェイ・テクノロジーズ(華為技術)のCFOである孟晩舟氏がカナダのバンクーバーで逮捕され、世界的なニュースとなりました。

 

 

ファーウェイという超巨大企業が独自な成長を遂げた理由

ファーウェイ・テクノロジーズ(華為技術)は、1987年に任正非氏が設立した会社です。当初は数多ある小さな通信機器企業のひとつに過ぎませんでした。

しかし今や世界を股にかける超巨大企業へと成長。スマートフォン事業も世界トップレベルのシェア率となりました。

2018年の売上は前年比21%増の1085億ドル。

目を見張る発展を遂げてきたファーウェイは、独特な経営方法や特徴を有する異色の企業体です。

株式未公開企業であるというのはファーウェイの特色のひとつ。

全株式を従業員が保有しているということは、会社の経営方針を決定する際に「社外にいる株主の意向」を考慮する必要が発生しないことを意味します。

株主が望む短期的利益と、会社が望む長期的戦略のどちらを優先するか迷う必要がありません。

つまりファーウェイは、意思決定プロセスが独自である、研究開発に投資しやすいという特徴を有しています。

 

 

 

 

中国共産党とファーウェイ

株主の意向の影響を受けることはありませんが、中国企業にとって避けられない存在があります。

効率的な国家情報体制の整備を目的に掲げ、2017年6月28日に中国で施行された新法『国家情報法』には、「いかなる組織及び個人も、国の情報活動に協力する義務を有する」(第7条)と明記されています。

中国政府が企業へ情報提供を求めれば、それに応じることが義務付けられた同法は、たとえ民間企業であっても、政府による干渉や指導が合法となっていることが特徴といえます。

現在の中国は、習近平国家主席(共産党総書記)による社会主義国家です。

今回ファーウェイのCFO孟晩舟氏は、詐欺罪の疑いや不正取引への関与を理由に逮捕されました。

続けて、孟晩舟氏が少なくとも7通のパスポートを使い分けて海外出張を行っていたことも裏メディアなどが指摘し、不正なパスポートを使用してなされた海外活動の中身にも疑惑の目が向けられています。

 

 

 

 

習近平国家主席が目指す国家戦略

河添氏は、中国のトップ・習近平国家主席について、「自由と民主」「法の下の平等」「人権」といった価値観を重視するアメリカをはじめ西欧諸国から危険視されている人物であると評します。

河添氏は、2018年12月18日に行われた習近平氏の「改革開放40周年大会」での演説に着目。

演説から「中国政府は国民に対する中国共産党による一切の指導を重視していること、さらなる社会主義体制の推進、マルクス主義の指導的地位の堅持、人類運命共同体の推進、世界一流の軍事国家」を目指す習近平国家主席の展望が読み取れるとしました。

戦略の核ともいえるのが、中国の利益となる情報や技術の収集です。

河添氏は、ファーウェイ事件はその氷山の一角でしかないと論じました。

 

 

中国国家戦略を担う重要なギルド

河添氏は、習近平氏が抱く戦略で重要な役割を果たすギルドにも触れました。

・中国統一戦線工作部 中央機関。

・国家安全部 中国の情報機関。

・人民解放軍 中国共産党の軍。

・清華大学経済管理学院顧問員会

特に中国統一戦線工作部は、習近平氏が国家主席に就任して以来増えているとされる、と河添氏は指摘。

アメリカは、「国家安全部こそ中国の黒幕である」と警鐘を鳴らしているようです。

習政権の目指すところは「世界同時革命」であり、こういった組織が世界をコントロールし、「人類運命共同体」として中国共産党の利益を図っていく構造の構築が狙いではないかと分析します。

河添氏が特に注目すべきギルドとしたのは、米中を核とする「清華大学経済管理学院顧問委員会」。

ここ十数年、世界金融市場でイニシアチブを取ってきた組織だと評します。清華大学経済管理学院顧問委員会とは、米英中を中心とする巨大企業の最高責任者やゴールドマンサックス等の世界規模の銀行の最高責任者や元最高責任者、名門大学教授からなる組織で、中国の世界進出を支えるブレーンといわれています。

同委員会は朱鎔基首相が設立、AppleのCEOティム・クック、Facebookのマーク・ザッカーバーグ、アリババのジャック・マーらグローバリストやマルキスト。

現在の米中貿易戦争において前線にいる劉鶴(りゅうかく)氏もメンバーですが、彼は副首相で中央政治局委員です。

 

 

 

 

米中のパワーバランスを担う巨大企業

中国は組織力の強化を推し進めながら経済発展を遂げてきたことがわかりました。ここで現在の米中それぞれの代表的な巨大企業を紹介します。

・米側「GAFA」

Google、Apple、Facebook、Amazon

・中国側「BATH」

Baidu、Alibaba、Tencent、Huawei

2019年現在、中国側の経済力がアメリカを圧しているとの見解が強まってきているようです。

この構図は「米の自由民主陣営VS中国共産党」という見方ができると、河添氏が指摘します。

 

 

中国に「待った」をかけるトランプ政権

アメリカは近年、ファーウェイが自社製品を通して情報を抜き取っている危険性を示唆。

2019年2月現在、トランプ大統領をトップとするアメリカは「中国共産党の軍事的拡大、覇権を絶対に許さない」という硬便な姿勢を構えています。

クリントン政権時代のアメリカは、中国と利益をシェアする友好的関係を構築していたとみられます。

しかしこれからのアメリカは、従来の流れを完全にリセットし、金融面、軍事面などあらゆる意味における対中パワーバランスの軌道修正を推し進める展望を描いていると、河添氏は分析します。

 

 

アメリカの対中政策リセット

アメリカの高官たちはファーウェイ事件追求の姿勢を基本とし、次のような声明が出されていることを河添氏が紹介しました。

・FBI第8代長官クリストファー・レイ氏

「アメリカの法律と国際社会の慣習法を無視してきた中国を、これ以上野放しにしない」

・ウィルバー・ロス商務長官

「中国が行ってきた米金融法の違法利用を止める」

政治、経済、軍事などあらゆる面で、中国の行動にブレーキがかけられる可能性が上昇していることがわかります。

 

 

 

 

ファーウェイ事件後のアメリカ政府、焦っている側面も

河添氏はさらに、2019年2月のトランプ大統領による「一般教書演説」に触れ「アメリカの産業や知的財産、雇用、富を盗み取ってきた中国をもう野放しにしない」との主旨を述べるアメリカ政府の意向を強調。

つまり中国が各国に放ってきたと考えられる産業スパイへの警戒強化を強めるであろうことを予想しています。

興味深いのは、河添氏による「アメリカは焦っている」という指摘。

外交政策は、政権交代で変わるものですが、近年のアメリカが対中路線で大きく舵を切り始めたのは、河添氏の分析によると、大きく分けて3つの要素があります。

・5Gのテクノロジーが世界をまた一変させるであろうこと

・アメリカは、次世代半導体設計分野において世界一だが、半導体製造の企業数は多くないこと

・次世代半導体製造は台湾の企業が多いこと

この3つの要素は今後の世界情勢を左右しうるもので、中国が今後、台湾を「一国二制度」に組み込でしまうようなことがあれば、さらに急進的に軍拡が進み、米国を凌駕する軍事力を保持する超大国となってしまう可能性を、アメリカが警戒していると捉えることができます。

 

 

ファーウェイと5G市場

5Gとは「第5世代移動(無線)通信システム」のことで、2020年の実用化を目指して各国が研究開発に力を入れているITテクノロジーです。

5G技術の実用化・商用化により、超高速通信が可能となります。

IOT(Internet Of Things)のさらなる加速化、あらゆる情報のデータベース化が一層進むことが期待され、政治、経済、軍事などの分野で利益をもたらすと考えられています。

さて、ファーウェイが5G覇権にどのような影響を与えようとしているのか。

中国の二大通信企業であるファーウェイとZTE(中興通訊)社が、現状、世界の移動通信拠点の40%強を握っています。

共産主義の独裁政権による、圧倒的シェア率に河添氏も懸念を抱いています。

中国キャリアが通信技術の大部分を占めるということは、中国共産党ひいては中国軍が情報テクノロジーや膨大なデータベースを占有する可能性を指すと予想するからです。

つまりファーウェイに打撃を与えることは、次世代の情報戦において中国に打撃を与えるということを意味し、今後の世界情勢に変化を生じさせる可能性を大きくします。

 

 

 

 

ファーウェイ事件で見えた日本メディアと海外メディアの違い

ファーウェイCFOの逮捕が世界中から注目を集める理由は、米中の貿易対立、来たる5G時代の情報戦がすでに始めっていること、中国政府とファーウェイの関係性など、あらゆる側面が複合的に絡んでいるようです。

そんななか、河添氏はファーウェイ事件を各国メディアがどのように取り上げているかを紹介。

日本では2018年12月27日、日本の新聞社がファーウェイ・ジャパンの意見広告を載せました。

これはCFO逮捕直後に日本の顧客へ向けてファーウェイが送ったメッセージです。

広告でファーウェイは「事業を展開するすべての国や地域の法規制や国際電気通信規格を遵守しています」「いかなる政府や機関からも当社の技術へのアクセスを要求されたことはありません」と強調。

いわば優等生的な弁明を発信しました。その後、1月25日には、CFOの寄稿文も掲載されました。

ファーウェイへの疑念を払拭する、すなわちアメリカの関係当局の主張のほうが虚偽であるということに新聞社が加担したともいえますが、これは中国が十八番とする手法で、高額な広告費を支払うことで影響力のあるメディアを口封じして、日本の世論を操作しようとしていると考えられます。

一方で、海外メディアは日本とは異なる報道のアプローチだったよう。アメリカのみならずオーストラリア、ニュージーランドなどファイブ・アイズの一角はもちろん、ファーウェイや中国の通信大手企業に対して警戒する内容の報道が多く見られたことは興味深いといえます。

 

 

ファーウェイという巨大企業の幹部が逮捕された事件から見えてきたのは、共産党指導で進められてきた中国の国家戦略と、本腰を入れて中国の勢いに歯止めをかけようとしているアメリカの包囲網。

5Gの時代が幕開けしてからの世界情勢は、不安定になるのでしょうか。

後編では、これから注目すべき場所として、河添氏が考える台湾とサイバー空間の重要性などに触れていきます。

 

 

 

 

世界のエスタブリッシュが、中国を本格的に牽制するか? 河添恵子 氏が語る、国際社会のリアル【後編】

 

 

編集・構成 MOC(モック)編集部
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大人の生き方マガジンMOC(モック)
Moment Of Choice-MOC.STYLE

 

PROFILE

河添 恵子

1986年より北京外国語学院、1987年より遼寧師範大学(大連)へ留学。1994年に作家活動をスタート。2010年に上梓した『中国人の世界乗っ取り計画』(産経新聞出版)は、Amazon〈中国〉〈社会学概論〉の2部門で半年以上、1位を記録するベストセラー。
最新刊は、『世界はこれほど日本が好き №1親日国・ポーランドが教えてくれた「美しい日本人」』(祥伝社黄金文庫)。その他、『トランプが中国の夢を終わらせる』(ワニブックス)、『豹変した中国人がアメリカをボロボロにした』『だから中国は日本の農地を買いにやって来る TPPのためのレポート』(共に産経新聞出版)、『「歴史戦」はオンナの闘い』(共著)(PHP研究所)、『中国・中国人の品性』(ワック)(Amazon〈中国〉部門1位)など。
世界の学校・教育関連の取材・著作物も多く、学研の図鑑(47冊)他、『アジア英語教育最前線』(三修社)、『エリートの条件―世界の学校・教育最新事情』(学研)がある。
産経新聞や『正論』『WiLL』『週刊文春』『夕刊フジ』などで執筆。NHK、テレビ朝日などの報道番組で、コメンテーターとしての出演も多数。ネットTV(林原チャンネル・チャンネル桜・チャンネルAJER)にレギュラー出演中。40ヵ国以上を取材。
近年、年間の講演回数は60回を超える。

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