年間300冊の本を読破し、これまでに読んだ本は累計1万冊だというビジネスマン・大杉潤さんは、人に本をおすすめすることが特技なのだそう。
人生には、立ち止まって考えを整理したい時や、背中を押してほしい瞬間がありますが、そんな時に読んでほしい本を大杉さんにセレクトしていただきました。
もしかしたら、今回ご紹介いただいた本があなたの人生を変える一冊かも……?
──人生をより豊かに生きるための、おすすめの本を3冊教えてください。まずは1冊目
【1冊目】
『LIFE SHIFT』
リンダ・グラットン著
東洋経済新報社
2016年刊行
僕はやっぱりこの本です『LIFE SHIFT』。これはすごく影響が大きくて、世界中でブームを起こしています。
「100年時代の人生戦略」というサブタイトルが付いているように、これからの人生のことを考えると絶対に読んだほうがいいと思います。
安倍首相が「人生100年時代構想会議」を立ち上げて、この本の著書であるリンダ・グラットンさんが委員に選ばれています。
82歳でAppleに呼ばれてアプリを作った若宮正子さんも委員の一人です。
人生100年時代は、政府が今、最も力を入れて取り組んでいる政策の一つでもありますし、その礎となっているのがこの本なんです。
60歳の定年から100歳まで40年。生涯現役を考えると、一つのキャリアではもちませんから、どこかで学び直しが必要になります。
僕の場合は「トリプル・キャリア」と言っていますが、今までとは違う専門性ですとかスキルを身に付けないと100歳まで完走できません。
人生はマラソンと同じ。マラソンは35キロ過ぎの後半が勝負、人生でいうと65歳からが本当の勝負なのです。
若いときにいくら輝いていても、人生の後半になってから異常に不遇な人生を送る人がいっぱいいます。その人たちは、本当にいい人生だったのか。
死ぬ瞬間まで仕事をして、そこで一番輝いていた人のほうがいい人生だったと感じるのではないでしょうか。
そのためにはどこかできちっと学び直して、違うキャリアを積んで、違う生き方をしていくことが大事なんです。
──2冊目はどの本でしょうか?
【2冊目】
『生きる力 活かす力』
佐々木 正著
かんき出版
2014年刊行
2冊目は、故・佐々木正さんの「生きる力 活かす力」。
この本を勧める人はあまりいないと思います。なぜシャープが経営危機に陥ってしまったのかが分かる本です。
佐々木さんは100歳を超えても現役で仕事をされていました。
ソフトバンクグループ代表の孫正義さんは「彼がいなかったら今の自分はない」と言うくらい尊敬している。
スティーブ・ジョブズも師と仰ぐ人です。
この本は、佐々木さんの言葉とその解説があって、非常に読みやすい。
「誰にでも大切な価値がある」、「価値観が違うから価値がある」、「誰にも大切な役割がある」、それから「自分を高める心を忘れない」というように、とても良いことを言っています。
特に技術に関しては、彼ほど分かっている人はいませんし、孫さんが何でロボットに力を入れているのかということも、この本を読めば分かります。
僕は現在の日本でナンバーワンの現役経営者は孫さんだと思っています。
その孫さんが尊敬している方ですので、物の見方が広くて深いですし、それから100歳にしてもなお先を読まれている。
──佐々木正さんの人間性が滲み出ています
彼は「共創」という言葉を使っていて、発明や技術を独り占めしては駄目だと言っています。
液晶の技術がナンバー1と言われるシャープが何で潰れたかというと、ブラックボックス戦略が影響している。
何千億円と投資した亀山工場は、液晶の技術を漏らさないために、外から一切見えないようになっています。
佐々木さんに言わせると、そういう傲慢な態度が経営危機を招いたんだと。
要するに、シャープは液晶テレビによって会社が大きくなりましたが、スマホの普及もあって、あっという間に大型TV用の液晶技術は需要がなくなり、経営危機を招きました。シャープは世の中の変化に対応できなかった。
佐々木さんはその理由を、自分たちが情報を隠すから、外からの情報も入って来なくなったためだ、と述べています。
──確かに、佐々木さんは海外にシャープの技術をどんどん提供していました
それで一番助かった会社がインテルです。半導体の売り先がなくてインテルの創業者であるノイスが困っていたときに、佐々木さんは自分の取引先を紹介しました。
その後、インテルはCPUの技術で、マイクロソフトのウィンドウズと二人三脚で成長し、「ウィンテル」と呼ばれて、世界のパソコン市場を席巻しました。
彼は孫さんも助ける、スティーブ・ジョブズも助ける、そしてインテルも助けた。そこにあったのは、技術開発やイノベーションは人類共通の財産だという、「共創」の精神です。
ですから、みんな佐々木さんを頼って相談に来るわけです。そこで「これからはこれが来る」と先を読む。
そうすると孫さんは何千億円も投資する、というくらい影響力のある人でした。
今年1月に102歳で亡くなられて非常に残念ですが、でも亡くなる直前まで孫さんを始めとする経営者の相談を受けるなど、現役で仕事をされていたそうです。
まさに私がお手本にする一人です。
──最後、3冊目の本は何でしょうか?
【3冊目】
『世界一孤独な日本のオジサン』
岡本純子著
角川新書
2018年刊行
3冊目は、『世界一孤独な日本のオジサン』。注目している人は少ないかも知れませんが、すごく面白い本です。
メイ首相が孤独担当大臣を任命するくらい、イギリスでは「孤独」が問題になっています。アメリカでも問題になっていまして、能天気なのは日本だけ。
ですが、アンケートを始めとするいろんな調査の結果、日本のおじさんが一番孤独だということが分かっています。
しかも日本は単身世帯が増えていて、2035年には37%がひとり暮らしになると予想されている。
その中で圧倒的に中高年が多いので、このまま放っておいたら大変なことになるということが書かれています。
──この本でいう孤独の定義は何ですか?
他の人とのコミュニケーションがなくなるということです。
会社員は、仕事上の人間関係がほとんど。定年を迎えて会社に行かなくなると、本当に孤独になってしまうそうです。
僕は途中で会社を辞めたので、周りに起業家の仲間がたくさんいますからそういう経験をしていません。
ですが、僕の先輩に60歳まで、あるいは65歳まで会社にいた人がいますけど、その瞬間に人間関係が切れるとみんな口を揃えて言っています。
──孤独になる原因は何でしょうか?
最大の問題は、認知症です。この本でも出てきますが、コミュニケーションが圧倒的になくなると認知症になるリスクが急激に高まります。
もちろん、体のほうの健康にも良くありません。例えば、レーガン大統領もイギリスのサッチャー首相も認知症でした。
サッチャー首相は、認知症の影響で夫がなくなったことも分からなくなってしまったそうです。
一国のトップにまでなった方でも、引退すれば認知症になる。ですから、これからは知的生活習慣が一番大事になってくると思います。
これは、『思考の整理学』(ちくま文庫、1986年刊行)という200万部を超えるベストセラー本を書かれて、94歳の今も作家として現役でいらっしゃる外山滋比古先生も言われています。
口の散歩、手の散歩、足の散歩など、要するに「五体の散歩」と彼は言っていますが、これを全て動かすことで認知症や老いとは無縁になるそうです。
ですから、外山先生は『老いの整理学』(扶桑社、2017年刊行)を、94歳という年齢で出すことができた。
先日、ブックハウスカフェで先生にお会いしたときに、AIの話をされていて驚きました。
94歳という年齢で、人工知能が今後の社会に及ぼす影響について話をしているんです。
──お手本となるいい先輩がいらっしゃると勇気をもらいます
外山滋比古先生は、生涯現役で執筆していくために、私が尊敬して手本にしている方です。
ですから僕はこういう方の本を、なるべくたくさん紹介していきたい。
毎日1冊、ビジネス書を読んで、個人で自分自身がブログに書評を書いている人は、僕が知る限りで他にはいないと思います。
本を5万冊、10万冊読んだと言う人は何人もいます。ですが、5万冊、10万冊を読んだというエビデンスを見せられる人は、まずいない。
僕は1万冊のうち約2,000冊は書評を書いていますし、ここ5年ほどは年間365冊読んでブログに毎日、書評をアップしていますので、それがエビデンスになります。
ですから、いい本をたくさん紹介していくことが僕の使命だと思っていますので、できれば100歳までやっていきたいです。
もしそこまで続けられれば、これからもう36年間で1万冊読めたとして、96歳の時には、合計2万冊読んだビジネス書のうち、1万2,000冊の書評がエビデンスとしてブログに公開されている、ということになるでしょう。壮大な話だと思いませんか?
本は、より豊かな人生を生きるための指南書であり、同様の経験をした先人からの叱咤激励する手紙でもある。
そして認識すべきは、成功者すなわち生涯現役を貫いている人のほとんどに本を読む習慣があるという事実である。
これは、成功している人が本を読んでいるのではなく、本を読んでいる人が成功していると言えるだろう。
写真:田形千紘 文:natsu
大杉先生の最新作が、4月7日に発売です!
編集・構成 MOC(モック)編集部
人生100年時代を楽しむ、
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