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西寺郷太の「ポップ・ステーション」駅:其の五 ザ・ポリス

 

 

今回、西寺駅長が紹介するのは、「ロック史上最強のトライアングル」とも呼ばれる3人組バンド、ザ・ポリス(ロックの枠組みの中にレゲエの要素を取り入れた英国のバンド。1977年結成。翌年、ベーシスト兼ヴォーカルのスティング、ドラマーのスチュワート・コープランド、ギタリストのアンディ・サマーズの三人編成となり、デビュー)です。スティングは、ポリス解散後にソロ・アーティストとして長く活躍し、名実ともに我が国で「最も知られている洋楽アーティスト」のひとりではないでしょうか。さて、西寺駅長は、「ポリスは、ある意味でU2の真逆のタイプ」、「逆U2」だと仰るのですが……

 

 

──今回語っていただく「ザ・ポリス」なんですが……。駅長の仰る「”逆U2”」って何なんですか?

 

いや、前回話したU2は、めちゃくちゃ仲がいい4人組でしたよね。でも、ポリスは真逆なんです。びっくりするくらい3人が仲悪いんですよ(笑)。

 

──え!?そうなんですか(笑)。

 

本人達も認めてるんですよね。ギタリストのアンディ・サマーズも回想してます。80年代半ば、ポリスは絶頂期に空中分解して、2007年になって20年以上ぶりに再結成しようとなったんですね。色々な問題点をクリアして、やってみようと。でも三人が同じ部屋に揃った瞬間、即座にやめたくなるほどだったって(笑)。と言っても、メンバーの仲が悪いから、それイコール、バンドとして悪いってことではないんですよ。極端な自己主張がぶつかり合った不思議な化学反応こそが、伝説的なバンドの条件なんで。バンドが「長く続くこと」や、仲がいいこと、それ自体には特に意味はなくて……。運命的なメンバーの衝突と協力の中で、年齢や時代の空気を含めた絶妙なタイミングでどれだけ凄い音楽を生み出せたのか、ということが一番重要というか。だから、ポリスは僕にとってそういう意味では世界で一番理想のバンドです。だから、三人っていう少数精鋭のパワー・バランスには憧れていました。よく思い出すのが、一番初め、僕が大学一年生の時、のちにノーナ・リーヴスを組むことになる小松シゲルのドラムを見た瞬間「うわ、スチュワート・コープランドやん!」って思ったことです。背の高いアグレッシヴなドラマーって、かっこいいなと。僕らのワーナーからのデビュー作「GOLF EP」のジャケットは、ポリスの名盤『シンクロニシティ』にオマージュを捧げていて、「アンディ・サマーズ・セッド」って曲も収録してるほどで。だから、本当にバンドのあり方として影響受けてます。

ともかくポリスの三人が「それぞれの分野で、ロック史に名を刻む究極のド天才」なんですよね。だいたい4人組とか、5人組だと「攻撃」的なポジションを担うメンバー同士の緩衝材になるような、おだやかな性格の「防御」役のメンバーがいるんですけど。ビートルズで言えば、リンゴ・スターとかね。このコラムでも話したワム!の場合は、ジョージ・マイケルという「攻撃」の天才を「防御オンリー」のアンドリュー・リッジリーが受け止めたパターンです。でも、ポリス最大のポイントは強烈な「攻撃」の天才の3人しかいない、サッカーで例えるならドラマーも相手のペナルティ・エリアまで突入してオーバーヘッド・キックやヘディングでゴールを決めまくる、そういうグループだった、というところです(笑)。だから音楽的化学反応は凄まじいけれど、長くは続かなかった。ただし、ポリスを包む「独特の緊張感」にはひとつ明確な理由があって。

 

 

 

 

──緊張感の理由、ですか?

 

よくあるロック・バンドの成功ストーリーとして、十代の頃からの仲間、幼馴染とか、学校の友達で組まれたっていうパターンがあります。ロック・バンドって、基本的に若いうちに世に出て成功しますよね?だからやっぱり、十代の頃からの友情が根底に流れている場合が多い。いわゆる腐れ縁といいますか。少なくとも主要なメンバー数人の「好きな音楽」や「影響を受けたアーティスト」が、ある程度共通ってことが多いんですよね。ふたりでレコードの貸し借りしたり、ライブハウスやクラブに通って夢中になった、みたいな。で、その「十代の頃に共に体感した音楽」への愛情や想い出こそが、バンドの根底を繋いでいる場合が多いんです。

 

──というと、例えばどういうバンドが、十代の頃からの友達同士だったんですか?

 

7割くらいは、そうなんじゃないですかね。特に昔はロック自体の歴史が浅かったですし、ミュージシャンのデビューが早かったのもあって。ザ・ビートルズも、ジョン・レノンとポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスンは地元リヴァプールの先輩と後輩でした。彼らのライバル、ザ・ローリング・ストーンズも、ミック・ジャガーとキース・リチャーズが幼い頃からの知り合いでしたし……。ミックとキースの場合は、めちゃくちゃ少年時代からの親友、という感じではなかったようですけどね。でも少なくともふたりが17歳頃にはロックンロールやリズム&ブルースなど音楽の趣味を共有したのは事実で。ミックとキースは、ストーンズの初期のリーダー、ブライアン・ジョーンズと三人で一緒に住んだりもしてます。そうして、十代後半の濃密な時間を、過ごしてどんどん大人になって、共にプロになっていったわけです。U2も、まさにそんな感じで。高校時代の友達同士でバンドを組んだと。

 

 

 

 

──はい。「U2」がいまだにバカンスでも、メンバー4人、それぞれの家族を集めて一緒に休むみたいな話を駅長から聞いて驚きました(笑)。

 

あれは凄い話ですよね(笑)。あとは例えば「TOTO」にはジェフ、マイク、スティーヴのポーカロ三兄弟がいたり。「ヴァン・ヘイレン」にも、名前の通りエディとアレックスの兄弟がいます。「ビーチ・ボーイズ」も兄弟が三人いる。マイケル・ジャクソンがリード・シンガーの「ジャクソン5」もそうですが、幼馴染以上に、兄弟や家族って当たり前ですけど、また特殊な縁があって。やっぱりそういうグループは形を変えながらも長く続きますよね……。ただ今、名前を挙げたバンド達と違って、ポリスは「友だち同士で組んだバンド」じゃなかったんです。彼らは三人が成人して、個々の才能あるミュージシャンとして完成してから出会ってるんです。で、それぞれが持つ凄まじい音楽的実力をお互いに認め合った。年齢的な意味での「背水の陣」的な部分もあったと思います。世界的に成功を収める、という目的のためにパートナーシップを結んでバンドをスタートさせたんです。ただ面白いのは、こんなにすごいメンバーなんですが、ポリスの三人に関して言えば若い頃から順風満帆でトントン拍子というわけではなかったってことです。彼らがジャズに傾倒し、当時流行したパンクなどのイメージと相反する、本格的な熟練ミュージシャンだったこともそのひとつの理由ですけど。ともかくスタート地点で全員かなり年取ってたのがポイントですね。特にアンディ・サマーズは、彼がバンドに参加し、1978年に初めてリリースしたシングル「ロクサーヌ」の段階で、すでに35歳だったんで。売れて皆が顔と名前を知った頃には、36歳とか37歳。普通にアラフォーなんですよね。

 

──ほほう。今の「若手」ロック・バンドなら意外に30代半ばのデビューでもありえる気がするんですが……。当時とすれば、それって、めちゃくちゃ「遅咲き」ということですよね?

 

ですです。まぁ、アンディは童顔というか、背も167センチでメンバーの中で一番低くて、放ってるイメージ自体が若かったんで。スティングとは9歳、スチュワートと10歳離れてますが、そういう意味では混ざり合ってますけどね。スティングも20代後半だったんで、世に出たのが早くはないです。実際、小学校の先生をしていたわけですからね。スティングは。

 

 

 

 

──学校の先生だった、とはなんとなく知っています。

 

アンディに関しては、それ以前にもギタリストとして、60年代に色んなバンドに加入していたり、後期のアニマルズに参加したり、セッション・ミュージシャンをしたり、知る人ぞ知る存在ではあったようですが。バンド活動が途切れた後は、カリフォルニアの大学で音楽を学び直したり、現状を憂いて鬱になったりしていたようですね……。彼の自伝を読むと面白いんですよね。それまでのうまく行かなさと絶望感が。何と言っても彼は、1942年12月生まれで。同年生まれが、なんとビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソン、キャロル・キング、バーブラ・ストライサンド、そしてポール・マッカートニーなんですよ(笑)。

 

──えーーーっ!

 

そりゃ、アンディ・サマーズほど才能があるのにまったく結果が出ないとなれば、30過ぎて俺は何で認められないんだろうって、落ち込みますよね。細かく言えば、ポールの場合は6月生まれなんで、イギリスの学制で言えば、アンディより一学年上ですが……。ちなみにビートルズの最年少、ジョージ・ハリスンは1943年2月生まれなんで、アンディ・サマーズとまったくの同級生です(笑)。こうして並べて考えると、アンディの遅咲き感凄いですよね(笑)。ジョージ・ハリスンが、早熟過ぎるとも思うんですけど……。「ラヴ・ミー・ドゥ」でデビューしたのは19歳。『アビー・ロード』や『レット・イット・ビー』でビートルズが解散して、1970年11月に三枚組ソロ・アルバム『オール・シングス・マスト・パス』をリリースしたのが27歳ですよ。ジョージと比べちゃうと、自分のキャリアを顧みても悲しくなりますね(笑)。

ただ、遅咲きには遅咲きの良さがあるってことを言いたいんです。アンディは一旦ロック・バンドでの成功を諦めて、クラシック・ギターを研究し、学んだんですよね。

 

──挫折の時期に?

 

そこで得た感覚を後にエレクトリック・ギターを再び手にした時に、生かしたんです。だからこそ、アンディの斬新かつ研ぎ澄まされたギターが完成した、と。80年代に登場した若きギタリストにとって、アンディ・サマーズのギターと、バンドでの存在の仕方は衝撃だったと思います。日本の音楽界でも、U2のエッジと並んで屈指の影響力を放ったのではないでしょうか。特にキーボード全盛の時代に、敢えてシンセサイザー・サウンドに頼り切ることをせず、ギターで複雑なコード感を構築したり、エフェクトを駆使してサウンドを広げる手法は、BOØWY時代の布袋寅泰さんにも感じます。あと、ポリスで忘れられないのが2008年の再結成ライブですね。東京ドームに、当時キリンジだった堀込泰行くん、プロデューサーで先輩の矢野博康さんと見に行ったんですが。今思い出しても、本当、人生ベスト・ライブの1位か2位でしたね。

 

 

 

 

──そんなにですか!

 

ポリスは、僕の育った京都の京都大学西部講堂で1980年2月に騒動になったライブをしてるんですよね。「ポリス事件」とも言われてる大混乱も含めて伝説の公演ですけど、その時まだ僕6歳で。翌年も京都に来てるんですが、まだライブに行ける年齢でもないし、ポリスも知らなくて。間に合わなかった世代なんですよね。ライブという意味では。気がついた時には彼らは解散状態だったんです。でも、10年前、2008年に突如日本にも来てくれることになって。僕自身は、ソロとしてのスティングにはほとんどフィットしないんですよね。シリアス過ぎるというか。こっち側の問題ですけど。でも、バンドとしてのポリスは自分の最高峰。ポリスをこの目で見て、音を浴びて、体感したい、と心から願いつつ叶わぬ夢で。最初の話に戻りますけど、あの三人が集まれるわけないだろうと。超仲悪いですし(笑)。もともとは、スチュワート・コープランドがプロデューサー的感覚を持っていて、ジャズを愛するスティングに「お前は天才だ、一緒に今ブームのパンク感を取り入れたバンドを組もう」とアプローチしたバンドなんで。実質的なリーダーは、最年少のスチュワートなんですよね。10歳年上のアンディ・サマーズは、最後に加入しているので、その辺の人間関係や歴史も含め、まぁ、無理だろうなと。それが、東京ドームで見れるなんて……。で、実際に体感してみると、楽曲、演奏、歌、すべてが素晴らし過ぎて……。例えば、今、亡くなってしまったマイケル・ジャクソンやプリンスのライブが見れる、ってなったら、いくらでも出すし、世界のどこでも行くという人は多いと思うんですけど。

 

──だと思います。

 

本質的にライブって、そういうことなんですよね。何気ない一回が最後になることもあるし、二度と見れない可能性もあるものです。で、ポリスは僕の中で「亡くなったレジェンド」と同じ枠に入ってたんですよね、当時……。それが、生き返ってくれた!!!って凄くないですか?

 

──私まで、ポリスのライブを見たくなってきました(笑)!

 

でしょ(笑)。絶対不可能だと思っていた三人が、オリジナル・メンバーで復活してくれたわけですから。それもセッション・ミュージシャンも加えず、三人のみで。カッコ良過ぎて、これは夢か、と……。

 

 

 

 

──スティングの存在はなんとなく知っているけれど、と言う方がポリスにハマりたい、という場合、どんなアルバムを聴けばよいでしょうか?教えてください!

 

普通のバンドやアーティストで言えば、意外にベスト盤が入り口にならないこともあるんですよね。でもポリスはシンプルにシングル曲が良過ぎるので、まずベスト盤一枚を手に入れて、そのそれぞれの楽曲クオリティとアレンジ、演奏の凄まじさ、キャッチーさに浸るのが一番の近道だと思いますね。で、その後ラスト・アルバムの『シンクロニシティ』を聴いてもらえれば、「アルバム」というアート・フォームの面白さや、彼らの背後にある音楽的教養や、深み、広がりが感じられて、どハマり出来るのではないでしょうか。僕が一番好きな曲は「アラウンド・ユア・フィンガー」ですね。すごくアンニュイなムードの曲ですが、人生でも指折りに好きなシングルです。

 

 

2008年の東京ドームで開催された、ポリスの再結成ライブ。まさかまさかの狂い咲きともいえるあの宴は、ポリスファンの脳裏に焼き付いていることでしょう。人生の盛りを越えても、その先にまた思いがけない道が広がっている……。ポリスの曲を聴いていると、酸いも甘いも噛み分けられそうです。

 

写真:杉江拓哉 TRON   取材:水野高輝 / 鈴木舞

 

 

 

 

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編集・構成 MOC(モック)編集部
人生100年時代を楽しむ、
大人の生き方マガジンMOC(モック)
Moment Of Choice-MOC.STYLE

 

PROFILE

西寺 郷太

1973年東京生まれ京都育ち。早稲田大学在学時に結成したバンド『NONA REEVES』のシンガーであり、多くの楽曲で作詞・作曲も担当している。音楽プロデューサー、作詞・作曲家としては少年隊やSMAP、V6、KAT-TUN、岡村靖幸、中島美嘉などの多くの作品に携わる。また、ソロ・アーティスト、堂島孝平・藤井隆とのユニット「Smalll Boys」としても並行して活動。そして、日本屈指の音楽研究家としても知られ、特にマイケル・ジャクソンをはじめとする80年代の洋楽に詳しく、これまでに数多くのライナーノーツを手がけ、近年では80年代音楽の伝承者として執筆した書籍の数々がベストセラーに。代表作に小説「噂のメロディー・メイカー」(扶桑社)、「プリンス論」(新潮新書)など。テレビ・ラジオ出演、雑誌の連載などでも精力的に活動し、現在WOWOWのインターネット番組「ぷらすと」にレギュラー出演中。

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