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小川榮太郎氏インタビュー第2回 未来のために、一度たりとも許してはいけないことがある。

 

現代日本における報道の在り方に、真っ向から挑んでいる人間がいる。文芸評論家・小川榮太郎氏だ。舌鋒鋭く朝日新聞を追求する姿が記憶に新しい。インタビュー第2弾の今回は、なぜ今テレビ各局でニュースワイドショーが放送され続けられ、しかも論調が似ているのか? 今日を取り巻く情報社会の構造とメデイアにおける市場原理について、たっぷりと論じていただきました。

 

――著書にありました『一犬虚に吠えれば万犬実を云う』という箇所が印象的でした。メディアのあらゆるところにフェイクニュースが潜んでいますが、作られたニュースはやがて事実を覆いつくしてしまうのでしょうか?

 

個人で考えてみると非常にわかりやすくなります。私が結婚しており、別の女性と私が食事をしているというシーンを想定しましょう。そこであった会話の一部をつぎはぎされて、私と女性が男女関係にあるのではないかと思わせる音声を作ります。そしてそれを私の女房に5か月間毎日告げ口されてごらん。これをねつ造と言わないんですか。5か月間じゃなくても、2週間でもいいかも。完全に洗脳されますよ(笑)。

そのあたりのトータルな話は『徹底検証 テレビ報道 「嘘」のからくり(小川榮太郎著、青林堂、2017年発行)』に書いています。

いくつもの複合原因があって、日本人はマスコミに洗脳されやすい。ひとつは日本人が元々嘘をつかない。文化的に人を信じるわけです。イギリスにおけるメディアの信頼度が15%って笑っちゃったけど、アメリカも低いですね。19世紀から20世紀の覇権国であるイギリスとアメリカは、偉そうに道徳的なことを言いながら、実は「人間というものは信頼できない」という価値観を共有している。権力とかメディアとかお金とか、「パワーを持っている人間は真実を言わないんだ」という感覚を持っています。その代わり個人は違いますよね。ハリウッド映画を観ればどこまでいっても信頼や愛がキーワードになっています。個人としては信じ合いたいという世界に対して、パワーの構造の中では人間は嘘をつくものだという「二重基準」を英米は持っている。だからメディアに対する信頼度が非常に低い。

一方、日本人は昔から「責任がある人は嘘をつかない、お上は嘘をつかない」という感覚を抱いている。儒教の伝統がありますし、それから天皇の伝統も大きい。天皇の歴史は嘘をつかない人たちの歴史です。江戸時代の朱子学も嘘をついたら人間として恥ずかしいし、時に腹を切るところまでいってしまう。

つまり、日本人の文化だと新聞社とかテレビ局とか、誰でも知っている肩書きはすごく大きなクレジットになる。

 

 

――権力に対する感覚の育て方が、英米とは異なるんですね。さきほどの新聞社にエリートが集まってしまう話とリンクします。

 

新聞というのは比較的、相対化しているんです。朝日、毎日、東京新聞は政治的にいわゆる左の三紙。日経、読売、産経は右に向かっていく。左右が均等ですね。読売と産経で約1千百万部。日経が右寄り中立で300万部弱。朝日、毎日、東京で8百~9百万部です。新聞をみんなが自由に読んでいる限りでは、世論は極端には偏向しないんです。

ところが新聞社と資本関係にあるはずのテレビ局が、ほとんど朝日新聞基調です。読売と日テレは論調が一致しない。フジテレビと産経も論調が一致しない。NHKと朝日が極左リベラルで、権威があるから、ほかのテレビ局がこれを真似するという習慣が長年続いている。

そのうえもうひとつ、平成になって進行した面倒な問題というのがテレビそのものの衰退。多様で中身の濃いテレビ番組がなくなっちゃった。現代ドラマ、時代劇、歌番組、お笑いコント、スポーツ番組、手の込んだドキュメンタリーなどの多様な番組がなくなりました。製作費の問題などが関わってきます。経費削減で視聴率だけを取り続けようとした結果、ワイドショーとバラエティだらけになっちゃった。朝も昼も晩も。

もともと日本のテレビは政治番組なんてやってなかった。二、三十年前までゼロに近かった。よほどの事件がない限り民放なんか5分くらい定時のニュースを流すくらいだった。

ところが「報道ステーション」とか「サンデーモーニング」みたいなニュース番組が出てきたのが平成の前後です。報道がエンターテイメント化して、逆に、それ以外のテレビ番組が衰退しました。

テレビが衰退するということは、日本の芸能全部が衰退することだったんですね。芸能人のスーパースターがいなくなった。政治家を追いかけていた方がまだドラマになる。だから朝も昼も夜もこの一年は小池劇場だったし、その後は籠池さんと昭恵夫人がやたらめったらテレビ画面に出ていた。

つまり、ちょっと前までだったら芸能人の大物を追いかけていた方が視聴率が取れたのに、今は芸能界の大物を追っかけてもそれだけのインパクトをとれない。松田聖子さんより籠池さん。そのほうが視聴率が取れる。そういう時代になっています。

テレビ全体の多様性やエンタメ性が落ちた、とにかくその空いているところに、政治をぶちこんでいく。テレビ業界のイデオロギーは保守嫌い、安倍嫌いだから、極端に変更したテレビの政治報道がえんえんと放送されることになるわけです。

 

 

――意見や事実の捉え方は様々であるはずなのに、テレビの制作サイドが朝日の論調に乗っかっちゃうのはなぜでしょう。

 

いくつか理由は有りますね。

戦後、大学が左翼化しました。高学歴者には左翼が多くて、東大・岩波・朝日という流れですよね。戦後70年間の流れです。そこから左翼、朝日の論調へと繋がっていく。

もうひとつ。報道ステーションの前身がニュースステーションでした。昭和60年くらいでしょうか、久米宏さんの番組でしたね。初めてニュースをエンターテイメントにして視聴率がとれた番組です。これを大成功させたのがテレビ朝日でしたから、ほかのテレビ局がニュース番組に手をつけようとしたときになぞろうとする。「テレ朝=朝日新聞」の論調で視聴率をとるという路線ができました。

そういったいくつかの相乗効果と、番組を作る際に製作側に朝日コンプレックスがあるために、朝日新聞を読みながら論調を組み立てがちだということも結構聞きますね。

 

――「テロ等準備罪(2017年6月15日に国会で可決された法案。正式名称「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案」)」の報道も違和感を感じた国民は多いようです。「共謀罪」という呼び方は適切なのでしょうか。

 

不思議ですよね。法案に対する賛成反対は別として、国会は重大な抗議を言論機関にすべきだったと思います。テロ等準備罪は、実際は小泉政権のときに出された法案です。つまりそのときには共謀段階での逮捕拘束があるから「共謀罪」なんです。

ですが、2017年に成立したものは共謀段階では取り締まらない。準備行為がない限り逮捕拘束しない。共謀罪なんて呼ぶのはデタラメなんです。

完全なフェイク、嘘なんですね。野党がそういう嘘のレッテルを貼るんですから救いようがない……。

安保法制のときのことですが、「安保法制は戦争を誘発する」というロジックを彼らは持っています。「こんなのを認めたら戦争になる。だから戦争法案だ」というのは形容ですから、私は反論をしつつも許します。

しかし、テロ等準備罪を共謀罪だと呼ぶのは、嘘です。共謀行動を立件できないのに、共謀罪だとするのは嘘。こういうのをなんとなく許していくと、日本のデモクラシーを脅かすことになる。言葉が正確でなかったら国会の議論は成り立たないし、国民は主権を正しく行使できないからです。

 

 

――雰囲気だけで物事を判断してしまい、事実とは何かを突き詰めていかない。そんな状態ですね。

 

非常に危険な状況が迫っています。マスメディアの役割は、国民に考える材料を与えることです。レッテルを貼る、誘導したい雰囲気を作るのではない。考える材料を提供して、国民に選ばせること。しかし、実際はマスメディアは傲慢にも国民を誘導しようとばかりしている、それも下らぬ方向に、下らぬ方向にばかり。

まずは「国民を開かれた場所に連れて行き、国民に判断させましょう」というのが本来のメディアの役割です。メディアというのは媒介ですから、国民と事実とを媒介すればいいんです。その媒介がきちっと透明であれば、複数ある情報のうちどれをとるかは国民に委ねるべきです。考えるヒントとして、Aさんの意見、Bさんという専門家の意見はこうです、という風に材料を与える。

ところが今の報道のやり方は、どうやって隠すか。どうやって極端な見せ方をするか。そういうことをあまりにも露骨にやり過ぎていますよ。

 

――一方で国民は自分たちは被害者だ、間違った情報を与えれたと嘆くだけでいいのでしょうか。私たちは情報に対して、善意無過失なのか疑問です。

 

今は過渡期であり、難しいところがあります。

(情報の提供は)新聞が軸でテレビが補完している、という時代が戦後続きました。明治以降ずっと150年間、新聞が軸でした。最初の頃の新聞は明治10年代くらいから始まったもので、たとえば福沢諭吉の『時事新報(福沢諭吉が創刊した日刊新聞。明示15年創刊)』、徳富蘇峰による『国民新聞(明示23年創刊)』。言論人が自分のジャーナリスティックな思いや考えを示しながら世論形成をしていく流れがあり、明治後半には読売や朝日新聞が台頭してきました。

それ以来ずっと良くも悪くも国民と新聞の間で世論のキャッチボールが続いてきた。それでも大東亜戦争という大きな敗戦に至る間には、客観的な報道よりも戦争を煽る報道がなされた経緯がある。だから我々国民は新聞に対してもっと厳しくなるべきなんですよ。 しかし、こうしょっちゅう嘘八百を平気で書いて、それでいて開き直られちゃうとね~。信じちゃう国民よりも嘘をつくメディアが悪いと思うんですよ(笑)。難しいよね。

 

 

――戦中の「治安維持法」で不当逮捕された人がいたり。無実にもかかわらず政治犯とレッテル貼られた事例を示し、報道の大切さを長年訴えてきたのは朝日新聞でしたよね。

 

今の日本の政権は絶対的権力ではありません。国民の審判による選挙のみならず、政治制度改革によって政党活動が監視されています、お金の面も含めてです。そのうえマスコミが保守政権になると情け容赦なくバッシングをする。ですので政権は絶対的な権力どころか、ものすごく不安定な権力状況ですよね。

むしろ新聞やテレビ局が絶対的な権力状況といえる。たとえば森・加計スキャンダルのに関してこれだけ本を出してもたかが10万部しか発行されません。それでも10万部となればベストセラーですよ。でも、すべての新聞、すべてのテレビ番組で黙殺すれば、私の主張など全くなかったことにできるわけです。

従軍慰安婦問題のとき、国際的な従軍慰安婦批判あるいは韓国からの運動の原因を作ったのが朝日新聞の報道なんですけども、会社が潰れていない。

遡っていくとねつ造と明確に判断されて、朝日の社長が辞任しているケースは戦後でも数回はありますから。ねつ造で社長が何度も辞任していても潰れないって……かなり.(笑)。

 

――市場原理からすると奇妙ですね。

 

まさにそうですね。市場原理が働かないくらい絶対化しているんです。完全に寡占状態。テレビの場合は放送免許を独占しています。喩えですがトヨタが不祥事を起こしたとしたら、全メディアがぶっ叩きます。しかし朝日がどんな不祥事を起こしてもお互いにかばい合います。この人たちは日本社会のなかで絶対に批判をされない位置にいるんです。絶対的に批判されない位置にいて、影響力を持っている。そんなところに行くと、どんな立派な人でもしばらくたつと腐っていくでしょうね。

 

 

世界中であらゆる危機が巻き起こっている。では日本社会が直面している危機は何か。情報リテラシーであるらしい。情報を発信するマスメディアはもちろんだが、受信側もそのことをもっと意識しなければいけない。そして今やすべての人々が、受信者のみならず発信者にもなれるのが今の時代だが……

 

 

 

 

 

 

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写真:田形千紘   文:鈴木舞

 

編集・構成 MOC(モック)編集部
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PROFILE

小川 榮太郎

文藝評論家。一般社団法人日本平和学研究所理事長、放送法遵守を求める視聴者の会呼びかけ人。昭和42(1967)年生まれ。大阪大学文学部卒業、埼玉大学院修了。専門は近代日本文學、十九世紀ドイツ音楽。著書に『約束の日 安倍晋三試論』(幻冬舎)、『最後の勝機(チャンス)』(PHP研究所)、保守の原点――「保守」が日本を救う』(共著:宮崎正弘、海竜社)、『一気に読める戦争の昭和史』(KKベストセラーズ)、『小林秀雄の後の二十一章』(幻冬舎)、『テレビ局はなぜ「放送法」を守らないのか ―民主主義の意味を問う』(共著:上念司、KKベストセラーズ)、『天皇の平和 九条の平和――安倍時代の論点』(産経新聞出版)など。

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