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自立と孤立、依存と共存 中村うさぎ連載コラム 〜第7回〜

 

 

〜連載第7回〜

自立を目指して生きてきたら、いつの間にか孤立していた。

依存症に苦しんでたら、共存という新たな道が見えてきた。

これは、そんな私の半生の話です。

 

 

退院したはいいが、足が立たず腕も上がらず、目が醒めても自力で起き上がることもできず、ほとんどずっと寝たきり状態。

ひとりでトイレにも行けないから夫に車椅子で連れていってもらう。

そんな日々が一年近く続いた。

 

当時、夫はいつでも私をトイレに連れて行けるよう、私のベッドの傍の小さなソファに身体を丸めて寝ていた。

介護疲れでヘトヘトなのに、ろくろく熟睡もできない。

そんな夫の苦しそうな寝息を聞いているだけで辛くて、自分の不甲斐ない身体を心底憎んだ。

 

どうしてこんなことになってしまったんだろう!

ひとりで何ひとつできない、こんな身体なんかに!

ああ、もう自分が嫌だ! 死んでしまいたい!

 

なんとも皮肉な話ではないか。

あんなに必死で、ただただひたすらに自立を目指して生きてきたこの私が、自立どころか人の手を借りなければ生きられない身体になるなんて。

私のこれまでの努力は何だったんだ!

 

誰にも頼らず生きていく……それが私の理想だったはずだ。

たとえ家族も友人も誰もいなくなって、たったひとりになったって、私は生きていけるはずだった。

身体的にはもちろん、経済的にも精神的にも自立した、強くて凛々しい女になるのが夢だった。

なのに、何故、こんな情けない状態になってしまったんだ!

 

もし神が存在するのなら、相当に底意地の悪いやつだと思った。

依存症の時もそうだったけど、私の自立という目標を、いちいち、こういう形で阻むなんて!

依存症の時は精神的な病で、今回は身体的な障害で、ことごとく「おまえに自立なんて無理なんだよ」と突き付ける。

 

自立を目指しちゃいけないのか?

こんな嫌がらせをされるほど身の程知らずな目標を持ったというのか?

自立、いいじゃないか!

誰にも迷惑かけず、誰にも頼らず生きていくことの何が悪いんだ!

自分の理想を追いかけただけじゃん!

どこが間違ってると言うの?

神は私に、いったい何を言いたがっているのだろう?

 

考えても考えても、答は見つからなかった。

私がこんな身体になる理由が、まったく理解できなかった。

そりゃあ清廉潔白に生きてきたとは言わないよ。

だけど、こんな罰を与えられるほど酷い悪行を為した覚えもない。

 

明け方に、尿意で目が醒める。

だが、夫の寝息を聞いていると、とてもじゃないが揺り起こして「トイレに連れてって」なんて言えない。

一日中、私の世話をして疲れ果て、寝心地の悪い狭いソファで身体を丸めて寝ている夫。

申し訳なくて、でもトイレに行きたくて、私はベッドの中で悶々とする。

オムツはしてるけど、尿の量が多いと溢れてシーツを汚してしまう。

そのシーツを替えて洗うのも、夫なのだ。

何から何まで夫にしてもらわなければいけない、このどうしようもない罪悪感と自己嫌悪。

本当に本当に、自分が許せなかった。

まぁ結局、我慢の限界が来て、夫を起こす羽目になるのだが。

 

この頃、これは人生で最低の時期だ、と思っていた。

これ以上悪いことはないだろう、と。

 

この後、もっと悪いことが起きるのを知らなかったからだ。

身体的な自立をもぎ取られても、当時の私にはまだ仕事があった。

入院中に中断していた連載はいくつかなくなってしまったが、それでも食べていくには困らない程度の定期的な収入があったから、私は何とか「経済的自立」だけは維持していた。

 

だが、その仕事すらも、私は立て続けに失うこととなる。

それが私にとって、最後の大打撃となった。

(つづく)

 

イラスト:トシダナルホ

 

 

 

 

 

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編集・構成 MOC(モック)編集部
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PROFILE

中村 うさぎ

1958年生まれ。エッセイスト。福岡県出身。
同志社大学文学部英文学科卒業。
1991年ライトノベルでデビュー。
以降エッセイストとして、買い物依存症やホストクラブ通い、整形美容、デリヘル勤務などの体験を書く。

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