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私は詐欺に引っかからない! そんな確証バイアスが最も危険! 警視庁のオレオレ詐欺対策最前線!

 

 

いわゆる「オレオレ詐欺」とは、ある日ふとかかってきた電話に出たら、親族や警察官などを騙る人物に言葉巧みにお金を騙し取られてしまう犯罪をいいます。「私は大丈夫! 騙されるなんてありえない!」そんな自信を持っている人は多いでしょうが、詐欺を行う犯罪組織はこちらの想像を超え、高度にプロフェッショナル化しているのをご存知でしょうか? 対する市民を守る警視庁も日々犯人検挙に力を入れ、検挙率は上昇中。しかし、詐欺による被害もまた増加しているのが現実です。

MOCインタビューでは、警視庁犯罪抑止対策本部の山上さんと三木さんに詐欺に関する最新情報や対策のためのアドバイスを聞いてきました。

 

 

──いわゆる「オレオレ詐欺」は高齢者が主なターゲット。年金や貯蓄を狙った被害額の大きい詐欺罪というイメージが強いです。最近のオレオレ詐欺被害について教えていただけますか?

 

オレオレ詐欺は「特殊詐欺」というカテゴリーに分類されます。被害者は70~80代の方が多くみられます。特徴的な点はやはり親族や警察官などを偽って騙そうとする手口で、実に特殊詐欺全体の50%以上を占めているんです。以下、件数の多い順から架空請求詐欺、還付金詐欺と続いています。

我々の部署では詐欺対策の企画、統計及び関係部署との調整を行っています。昨年の平成29年は被害認知件数が3510件、被害額は79億を超えました。この数字は都内に限ったもので、被害届が出ている限りのデータです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──被害額がおよそ80億?! 大手企業の業績に迫る勢いです。

 

平成30年は上半期で認知件数が2037件、被害額が約44億6091万円です。被害額を六か月で割ると、一か月で何億単位もの被害が発生していることになります。そして今年は昨年を上回るペースで被害を認知している状況です。2018年9月末に出た最新のデータでみると、累計で前年プラス約500件となりました。このままでは平成30年が終わるころには認知件数が4000件を超える勢いです。

 

 

 

 

──犯罪抑止対策本部ではtwitterでの被害状況の報告を日々行っていて、市部での犯罪報を迅速に発信しています。日のように詐欺被害が発生しているんですね。

 

警視庁犯罪抑止対策本部twitter

 

上半期で比較すると、全国的には減少傾向がみられます。特に件数が増えているのは東京、神奈川を中心とした首都圏です。特殊詐欺事件は都市部で増えているんです。都市では、交通機関が発達し、犯人側がアクセスしやすいという地理的メリットが大きいのです。詐欺の対象となる方々も多く、狙いやすいといえます。

 

──増加する特殊詐欺事件。金銭を目的とした犯罪には窃盗、強盗などがありますが、なぜオレオレ詐欺のような事件が増えてしまうのでしょう。

 

ポイントは電話です! 特殊詐欺は電話一本でお金を騙し取る犯罪です。ほかの犯罪と比較してリスクが小さく、まとまったお金を奪うことができる点が特徴といえます。

親族や警察官、百貨店などを騙ってお金などを請求する怪しい電話がかかってきたら、それは「犯行予兆電話(特殊詐欺が疑われる電話)」の可能性が非常に高い。この犯行予兆電話の件数も、一昨年から比べて倍以上に増えています。しかしこれも氷山の一角。警察に届出がなかった電話もありますから、実際は相当の数になっているはずです。

 

 

 

 

──詐欺撃退のポイントは「電話」。固定電話、携帯電話、IP電話……。さまざまなタイプの電話がありますが、警視庁は電話にどのような危険性を感じていますか?

 

従来の特殊詐欺では、携帯電話が主流でしたが、今は「固定電話転送型」と呼ばれるタイプが主流になりつつあります。

 

 

 

 

──「怪しい!」と感じたときに警察に通報する人もいますが、実際に騙されてしまう被害者の数の方が多いんですね。その境界線はどのように分かれてしまうのでしょう。

 

実は詐欺防止のハードルとして大きいもののひとつが「自分は騙されない」という思い込みです。皆さん、どうでしょう。「まさか自分が騙されるはずがない」と思っていませんか?

そこに隙が生まれてしまうんです。「そういった方も騙されているんです!」という事実を知ってもらうところから対策を打っていきたいと考えています。

電話に出るということは、騙される状況に入り込むということ。特殊詐欺のポイントは電話にあると言っていいでしょう。犯行ツールとして犯人側のハードルが低いのが電話ですから、ここに潜む危険性はとても高いんですよ。

なぜなら電話に出たあとに会話が始まってしまえば、犯人側はありとあらゆる切り口で皆さんを騙そうとします。「それでも自分なら犯罪を見抜ける」と思うかもしれません。しかし相手は『犯罪のプロ集団』です。毎日のように何件もの電話をかけているなかでノウハウを蓄積しています。巧みに騙り口を変え、お金を引き出そうとしてくるんです。

誰でも騙されてしまうくらい、犯人側の話術は巧妙になっているという事実を知っていただきたいです。

 

 

 

 

──オレオレ詐欺のバリエーションが増えているのでしょうか。

 

切り口や騙り口はとてもさまざまです。最近では果物を切り口にした手法が出てきました。季節も考慮して切り口を変えているわけです。

 

見破れますか? こんな騙り

たとえば……

  • 遠遠くに住む子供から「ブドウをたくさんもらったから送るよ」とやさしい言葉が……。
  • 息子からの電話。会社のお金に手を出してしまい、まとまったお金が必要に……。
  • 急増中! 警察官、金融庁職員を装い、キャッシュカードを奪われる。
  • 何度もかかってくる電話。波状攻撃で金銭を騙し取る手口!

 

 

「会社の金で株に手を出して失敗 横領で訴えられる 助けて!」

50歳代女性方に、息子を装った者から「今日、会社に監査が入る。監査前にお金を戻せば何とかなる。宅急便が家に向かう。」との連絡。
その後、言葉巧みに焦らせ、現金300万円を騙し取ろうとした事例です。

 

「俺の責任だ! 今日中に会社の取引先にお金を支払わなければならない」

60歳代女性方に、息子を装った者から「電車の中で鞄をなくした」との連絡。
その後、信用させるために、駅員役、会社の上司役など複数の者が電話をかけ、現金700万円を騙し取ろうとした事例です。

 

「誰にも言わないで 不倫相手を妊娠させた 示談金を何とかして!」

60歳代女性方に、息子を装った者から「子どもができちゃった。相手は旦那さんがいる人で、旦那さんが怒っている。弁護士に入ってもらった。お金を送って欲しい。」との連絡。
その後、示談金として100万円を騙し取ろうとした事例です。

 

 

以上は、再現音声です。

実際の振り込め詐欺は、さらに執拗です。

ここからは、実録の音声をお聴きください。

 

 

友人の連帯保証人となった

60歳代女性方に息子を装って現金200万円を騙し取ろうと、数回にわたり電話をかけましたが、未遂に終わった事例です。

犯人は電話で「友人が起業するにあたって連帯保証人となった。その会社が業績悪化のため友人は夜逃げし、金が必要になった。」旨申し向け、現金200万円を騙し取ろうとしたものです。

荻窪案件・・・被害総額 3,000万円

低い声で関西弁風の声色を使って脅すような話し方で被害者を不安に陥れ、現金を騙し取った事例です。

(電話を受けているのは被害者の会社の女性従業員です。)

犯人は電話で「過去の通信教育受講料が未払いになっている」と言い、「遅延損害金」「供託金」等の名目で約3,000万円を騙し取っています。

この事件では、犯人は関西弁だけでなく関東風の声色を使って法律事務所の職員を演じていました。
(録音は関西弁風の声色を使っているときのものです)

未亡人である被害者宅に「イタショウのユイ」と名乗る男から「夫が生前していた借金を支払え」といった電話が入ります。

更にその後「キョウワのナガセ」という男から電話があり、「イタショウから債権を譲り受けた。法律的に取り立てる立場にあるので95万6,400円振り込め。」と言われます。

しかし被害者が弁護士に相談したため、振り込まずに済みました。
(録音は、「キョウワのナガセ」と名乗っているときのものです)

 

 

──人間の心理をついた話ですね。こういった切り口が犯罪グループではマニュアル化されているのだとか?

 

まさにそうなんです。還付金詐欺では役所の職員を騙り「お金が戻ってくる」という切り口で騙そうとしてきます。指示された通りに行動していると、いつの間にか振込するように誘導されているという流れです。

 

【還付金詐欺の騙り口】

偽・役所「還付金が戻ります」

被害者 「あら! お金を支払ってもらえるの?」

偽・役所「還付金の手続き後、全額戻しますのでご安心ください」

被害者 「急いで手続きしなくちゃ!」

 

──事件の報道を見ると『なぜ騙されるんだろう?』『自分は絶対に大丈夫だろう』と思いがちですが、そんな安心感は電話に出た瞬間から崩れ始めているということですね。

 

お金がもらえると思うと、普段はあまり外出しない高齢者でも電話を頼りにATMまで足を伸ばすことも多いんです! そして大切なお金を奪われてしまう……。

『自分は被害に遭わないだろう』という思い込みは、心理学的に誰でも持っていて「確証バイアス」と呼ばれるらしいです。災害の発生時は確証バイアスが起こりやすいと言われています。『こんなことあり得ない!』という状況に陥ったがゆえに、現実のものと置き換えてしまったり、今までの経験とつなぎ合わせてしまったりする場合があると考えられています。

 

 

 

 

確証バイアスが働くと……?

詐欺電話「現在、あなたは訴えられているんですよ。裁判で100万円支払ってもらいます」

被害者 『私が?訴えられるようなことはしていないのに!でも……? 去年亡くなった妻がもしかしたら何かしていたのかも。そういえば妻は生前なんだか困っているようだったぞ。ひょっとして……?!』

 

 

──相手のひっかけキーワードに対して、自分でストーリーを作り上げてしまうなんて……。検挙率が上昇しているのに犯罪認知件数もまた増えている原因は複雑なようですね。

 

犯人の騙り口を聞いているうちに、勝手に自分の経験とつなぎ合わせてしまうんです。事実だけを照らし合わせれば、そこに関連性はないのに。そして騙されてしまうということは誰にでも起きうるといえます。

 

MOC分析! 犯人が付け込む隙は「2つの“はず”と“かも”」にある?

  1. 「まさか自分が“騙されるはず”がない」
  2. 「怪しい電話がかかってきても犯罪だと“見抜けるはず”」
  3. 「言われてみればそんなことが“あったかも”」

 

騙るのは、社会的に信用のある職業やグループが多いです。詐欺集団には心理学に長けた人物がいて、騙しの手口を磨いているように思われます。受話器を取らせたら会話をスタートし、ほかの人に相談させないように仕向けるのも手口の特徴です。

 

こんな職種や状況を騙った電話に要注意!

職種→警察、検察官、裁判所、全国銀行協会連合会、百貨店
状況→訴訟、キャッシュカードの落とし物、還付金

 

──電話に出てしまうと、犯罪者と被害者がマンツーマン状態になりますもんね。あれ……電話って思った以上に危険かも?! 高齢者が被害に遭うことが多いように思いますが、どんな人物が狙われやすいのでしょう?

 

犯人がターゲットにしているのは「平日の昼間、固定電話に出る人」です。結果として高齢者や女性がこの条件に見合うことが多いですね。

驚くかもしれませんが、私たちが対策としてすすめているのが「電話には出ないでください」ということです。こう言われても「電話は出るものでしょ?!」 と面食らってしまいますよね。

私たちが伝えたいのは「必要な電話、そうでない電話。このふたつを見極めましょう。必要でない電話には出ないでください」という点なんです。「非通知」の電話や知らない番号の電話には、決してすぐには出ないでください。家に鍵をかけるのと同じように、電話にも鍵をかけていただきたい。

よくかかってくる人の電話番号は、あらかじめ登録してください。家族や知人などの電話番号は必ずです。電話が鳴ったら「誰からかかっているか」を画面で確認してから応対する。これを基本としてください。

留守番電話設定もおすすめです。電話が鳴ってもまずは受話器を置いたまま。留守番電話機能でメッセージを聞き、誰からの電話か確認したうえで折り返し電話しましょう。

 

 

 

 

詐欺対策の鉄則は「電話に出ない」

・昼間にかかってくる電話には厳重注意!

・コールが鳴ってもすぐに受話器を取らない

・非通知や知らない番号には出ない

・留守番電話設定をする

・防犯機能付き電話がおすすめ

・自動通話録音機をつける(都内では無料貸出をしている場合あり)

 

そのほかの対策は警視庁「あなたの両親・祖父母は大丈夫?」も合わせてチェック!

 

 

──電話には危険性があるけれど、詐欺を防ぐための対策も打てそうですね。

 

電話をかけると『この電話は録音されています』というメッセージが最初に読み上げられることがありますよね。これは自動通話録音機によるものです。犯人側は、この機能で自分たちの声が録音されるのを非常に嫌います。市販されていますので、是非とも活用していただきたいです。防犯機能付き電話も発売されていますよ。

 

固定電話の買い替えならコレ!

「振り込め詐欺撃退」や「詐欺対策強化」をキーワードにして電話機を探しましょう。

 

さまざまな事案を捜査していますが、特殊詐欺のほかにも悪質な電話や勧誘など、電話には非常に高い危険が潜んでいるんです。「自分はきっと騙されない」という思い込みや「電話は出るもの」という従来の常識から意識を変えてみてください。私たち警視庁も捜査、防犯対策にさらに力を入れ、皆さんの安全を守ります。皆さんも是非、気持ちを新たにして防犯に取り組んでいきましょう!

 

 

犯罪テクニックを駆使し、お金を騙し取る詐欺グループ。まず私たちが取りかからないといけないのは、「自分だけは大丈夫」という思い込みを捨て去ること。そして警視庁の情報発信に耳を傾けることが大切なようです。次回インタビューでは、危険にさらされる個人情報や現金の引き渡しに登場する「受け子」と呼ばれる詐欺グループの末端について迫ります。

 

 

写真:田形千紘     文:鈴木舞

 

 

編集・構成 MOC(モック)編集部
人生100年時代を楽しむ、
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PROFILE

警視庁 犯罪抑止対策本部

警視庁犯罪抑止対策本部
山上嘉人 警視

警視庁犯罪抑止対策本部
三木卓也 警部補

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