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自立と孤立、依存と共存 中村うさぎ連載コラム 〜第32回〜

 

 

〜連載第32回〜

自立を目指して生きてきたら、いつの間にか孤立していた。

依存症に苦しんでたら、共存という新たな道が見えてきた。

これは、そんな私の半生の話です。

 

他者とのコミュニケーションの問題は、近年ますます深刻化しているような気がする。

それは、SNSなどでいとも簡単に見知らぬ人と繋がった気になれるからだろう。

 

私もネットゲームを楽しみ、そのゲームキャラ名義でツイッターもやっているから、この「疑似友」感覚はよくわかる。

互いに好意を持ち共感し合い、楽しい会話をしているが、誰ひとり私の正体を知らない。

そして私も、彼ら彼女らが何者なのかをまったく知らない。

きっとリアルで会えば、こんな友情、あっという間に崩れ去るだろう

相手が自分の思ったとおりの人間である可能性は著しく低い。

何故なら、私も相手も、互いのリアルが見えないのをいいことに、自分の理想のキャラを演じているに過ぎないからである。

だが、リアルでは、必ず馬脚が現れる。

 

ネットの世界でのコミュニケーションを観察していると、人間というのは幻想なしには繋がり得ない生き物なのだということがよくわかる。

相手に対する一方的な幻想、自分を底上げするナルシスティックな幻想……すべてはまやかしなのだが、その幻想があるからこそ、ネットの人間関係は成り立っている。

こんなに快適で居心地のいい人間関係はリアルで望めないので、人によってはこのようなネット内疑似関係に深くハマってしまう。

そして、このような人間関係をリアルにも求めて、必ず破綻をきたすのである。

だって、リアルの相手は、あなたの幻想や期待に応えてくれないからね。

みんな、ネットという仮想空間だからこそ、無責任に期待に応えてくれるのだ。

 

「人間関係が上手くいかない」とこぼす人たちの話を聞いていると、たいてい「他者に期待し過ぎ」だと感じてしまう。

ねぇ、相手は生身の人間なんだよ? しかも他人なんだよ?

そんなに都合よく、あなたの幻想を満たしてくれるはずないでしょ?

あなただって、相手から勝手な願望を押しつけられたら困るでしょ?

自分ができないことを、どうして他人に求めるの?

 

「人間関係を長続きさせるコツ」というものがあるとしたら、それは「他人に期待しないこと」だと私は考えている。

「人と繋がりたい」と願うのなら、まず、相手に対する自分の過大な期待を棄て去るべきだ。

前回も言ったように、他者との間に揺るぎなく深く強い絆を築くことなど不可能なのだ。

伸ばした指の先が誰かの指に触れている、くらいの繋がり方で充分なのだ。

それくらいのゆるい繋がりなら、他者に過剰な期待をしなくて済む。

みんな、強くて深い絆を求め過ぎだよ。

その期待のせいで、他人を追い詰め、自分も傷つき、ますます孤独になってるんじゃない?

 

「境界性人格障害」という心の病がある。

この障害を持つ人は、まず誰かを激しく理想化して心酔し、神のように崇め親友のように深い絆を求める。

だが、相手はたいてい自分の理想通りの人間ではないので、しばらくするとその幻想は壊れる。

すると、彼あるいは彼女は、相手に裏切られたと感じ、今度はその相手を激しく憎むようになる。

このように「愛着」と「憎悪」を繰り返すため、彼ら彼女らの人間関係は必ず破綻し、泥沼と化す。

 

この「境界性人格障害」について考えるたびに、私は「もしかして、現代人のほとんどは、多かれ少なかれこの障害を持ってるんじゃないか」と思ってしまう。

「人間関係がうまくいかない」とこぼす人たちの多くは、この「境界性人格障害」にきわめて近い言動を見せるからだ。

他者に対する手前勝手な理想化と、それが壊れた時の怒りと憎悪。

だが、相手は最初から「そういう人」だったのだ。

あなたが勝手に自分の理想像を押しつけていただけなのである。

 

このような極端な理想化をする人は、おそらく「他者」と「自分」の境界線が曖昧なのだと思う。

要するに、他者を自己確認の道具としてしか見ていない。

「私のすべてを理解してくれる人」「私のすべてを受け容れ承認してくれる人」「私のすべてを愛してくれる人」……そう、そこには生身の他者など存在せず、「私」「私」のオンパレードなのだ。

このような人々を、私は「他者のいない人」だと考える。

他者のいない世界に住んでいるのだから、孤独なのは当たり前だ。

あなたを孤独にしているのは、愛情や理解のない他者なのではなく、他者を自分とは別の個体として認識できないあなた自身なのだ。

 

そして、これは紛れもなく「ナルシシズムの病」である。

「マズローの階層」を持ち出すまでもなく、身の安全が保障され衣食住が満たされた人間は、最終的に「自己実現」という欲求に到達する。

マズローはこの「自己実現」を「高次の欲求」と捉えたようだが、私に言わせれば、なんのことはない「甘ったれたナルシシズムの欲求」に過ぎない。

外敵や天災による脅威や不安が排除されたら、人間はひたすら自己愛の世界に閉じこもり、その万能感に満ち溢れた「俺様世界」を他者に承認・共有させたくなるだけなのだ。

 

偉そうに言っているが、これらはすべて私自身が通ってきた道である。

自分が通って来たからこそ、今その道を歩いている人々の欲望や葛藤が手に取るように見えるのだ。

私もまた、現代人特有の「ナルシシズムの病」の罹患者だ。

だから私は、この厄介な「私」と格闘し続けている。

外敵がいなくなれば、当然、我々の敵は自分自身となるのだ。

いまだに他者を敵として戦っている人々は、自分と戦うのを避け続けているだけである。

「敵としての他者」がいないと自分が消えてしまうからだ。

「絶対的な味方」としての他者も、「絶対的な敵」としての他者も、この世には存在しない。

それらはすべて、あなた自身が生んだ「幻想の他者」だ。

この世に存在するのは、あなたとは別の世界に生きている他者たち。

その他者と繋がりたいのなら、まずは「他者への幻想」を捨て、「自分」と「他者」を切り離さなければならないのだと私は思う。

(つづく)

 

イラスト:トシダナルホ

 

 

 

 

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編集・構成 MOC(モック)編集部
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PROFILE

中村 うさぎ

1958年生まれ。エッセイスト。福岡県出身。
同志社大学文学部英文学科卒業。
1991年ライトノベルでデビュー。
以降エッセイストとして、買い物依存症やホストクラブ通い、整形美容、デリヘル勤務などの体験を書く。

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