人生100年時代を楽しむ、大人の生き方 Magazine

幸せな人生を歩むヒントは「中今」。すべての瞬間を感謝とともに生き切る。矢作直樹 氏インタビュー【第2回】

 

 

東京大学医学部で多くの患者を診てきた矢作直樹氏。近代医学的観点のみならず、日本の伝統的な文化や歴史を踏まえながら、生きること死ぬことについてのスピリチュアルな思索を続けています。現代人は「忙しさ」と「飽くなき欲求」に振り回されることが多いですが、矢作先生は穏やかであり肩の力が抜けているよう。そんな矢作先生が思う、人生を幸せに生きるヒントやポジティブな意識の持ち方のアドバイスをいただいてきました。

 

 

──生と死を見つめ、この世界を生きていくうえでのキーワードとなるのが「中今(なかいま)」にあるということですが、中今ってなんでしょう?

 

中今にこそ、幸せに生きるヒントがあるんです。「この瞬間に生き切る」ということですね。皆さん、過去や未来について考えがちでしょう。ですがそういったとき、どんな感情を抱きますか?

過去を思うと怒りや悔やみが湧いてきたり、未来を描いたつもりが不安や恐れ、孤独で胸がいっぱいになってはいませんか。

大切なのは、今この瞬間を生きること。それこそが中今なんですよ。中今にあるときの人間は、何かに集中していたり無心になっています。そうして三次元である「今」から「高次元」につながっていくのです。そのつながりのきっかけとなるのが、感謝や感動です。

 

 

「中今」に生きるとは?

 

すでに終わった過去のことや想像のなかの未来のことで頭がいっぱいになると、今この瞬間を生きるという意識が限られてしまう。

 

 

生きている瞬間に集中し、無心で感謝や感動などをするようになると、高次元と今とが接着する。思考や感覚の軸が今にある、中今の状態。ポジティブな感情がネガティブな感情を上回る。

 

 

──意識の使い方に特徴がありそうです。無心というと欲や煩悩と対極にあるイメージですし、集中も雑念のない状態ですよね。

 

たとえば合気道で技がかかる瞬間は中今といえます。見事に決まった空気投げなどは、三次元の気だけではなされないんです。

芸術家の方々ではインスピレーションがおりてくることがあるでしょう。科学者なら閃きとともに数式が浮かんで来たり、作家では手が勝手に動く自動書記の感覚に襲われる。こういったことは中今の状態にあったときに訪れます。生きている瞬間に集中し、ほかの余計なことに心を奪われない。先のことをあれこれ悩んだり、過去をうじうじ振り返っていては中今にはなれませんね。

 

──時間の捉え方としては「今」に重きをおくようですが、時間に追われる現代人からすると戸惑いを感じそうです。

 

手帳をみて約束などといったスケジュールを確認する時間感覚は、私も持っています。ただし生きている瞬間について、時間という尺で考えることはありません。

中今に生きていると、過去・未来というものがないんです。過去や未来に思考の軸がずれると、ポジティブばかりでなくネガティブな感覚がどうしても生じてきます。しかしこの瞬間を無心で生きるようになると、おそらくネガティブな感情は生まれてこなくなるでしょう。

 

 

 

 

──今に集中して生きることが「中今」。ネガティブな感情をいたずらに生み出さなくなり、ポジティブな感覚が際立つ生き方のようです。悩み憂い尽くしの人間からすると、そこまで精神状態を持っていけるのか心配……。中今に生きるために心身のコンディション整えるとしたら、どんなことがおススメでしょうか。

 

いろいろなやり方がありますね。瞑想、禅、ヨガなどをされる方もいますが、もっと簡単に考えていいんですよ。家の近くを散歩していると、なんだか頭が軽くなることってありませんか。昔から歩き禅といわれるもので、無心になっているんですね。

あるいは、日々の仕事に嫌々取り組んでいるなら「この仕事のおかげでご飯が食べられるんだ。よし一生懸命やっていこう!」と、心の持ちようを変えた瞬間から中今が始まることもあります。動機って大切なんですよ。

しかし、私自身は訓練などといった特別なものの必要性を感じたことがありません。シンプルに、今この瞬間を感謝して生きることですね。

 

──矢作先生とお話ししていると、余分な添加物が入っていない人という印象を受けます。

 

よく言えばそうなのでしょうか。童心と言いますかね。子供なんてまさにそう。つねに中今のような状態でしょう。集中して無心になれる瞬間がたくさんあるのでしょうね。でも実際のところ、私は何も考えていないだけなんだと思います(笑)。

 

 

 

 

──ストレスは感じませんか?

 

ほとんど感じないですね。まったく感じたことがないというわけではありません。生きていくなかで感じないようになってきました。もともとストレスに悩まされることは少なかったですが、やはり中今に生きることでストレスの影響も軽くなるのかもしれません。

 

──言われてみると、中今の状態って実は誰にでも起きていることですね。何かに打ち込んでいたり、好きだという感情に包まれたり。そういった状態をキープできれば、ストレスは抑えられ幸福感はアップしそうです。ですが平穏ばかりではいられないのが正直なところ……。現代社会は特に人間関係があらゆることに影響を及ぼします。

 

他人様を変えることはできないので、自分の意識を上げていきましょう。一人ひとりが意識を上げ、自分で自分を生きることです。

たとえばあなたが何か行動をするとしましょう。そんなとき「誰かのためになるように動かなければ」と思い込まされてはいませんか。これからは「すべては自分のためだ!」と思いましょう。主体的に喜びを抱き、瞬間瞬間を生きる。このことこそ「感謝の気持ちを持って中今を生きる」につながります。一人ひとりが意識を上げる。そうすれば社会は必ず変わるんです。

 

 

 

 

──中今は、人から人へと伝わっていくものですか?

 

そうです。将棋の藤井聡太七段の存在は、将棋界のみならず多くの人をプラスの方向へ持ち上げています。ああいった人ひとりの力で、社会は随分と変わりますね。ピアニストの辻井伸行さんもそうでしょう。持ち上げる人がいれば、みんなが変わっていくんです。

これからは量ではなくて質の時代がやってきます。物質だけではありません、人もです。人口減少を社会問題と考えているようですけど、一人ひとりの質がポイントとなってきます。

 

──「超人思想」とは違うのでしょうか。

 

ニーチェが説いたような超人思想ではありませんね。やはりニーチェはドイツを文化的背景として持っていますし、日本人における幸せや生き方を考えたときにしっくりくるかというと疑問があります。 質を上げるとは、一人ひとりが意識を上げていくということです。そうすれば当然、社会も人も目覚ましく変わっていきます。

 

──「KY(空気読めない)」が流行語となってから大分経ちますが、昔から日本人は空気を読んで行動する傾向が強いですね。誰かのためというよりその場の空気感のために行動が左右されがちです。

 

空気感など表面的なところではなく、潜在的なところで共振できるはずなんです。そうして、人から人へと広がっていきます。キーワードは中今です。感謝を抱いて、今この瞬間を生きてください。まずはそのことに気づくことからです。

 

 

 

 

──「人は簡単には変わらない、変われない」とよく言われますが、意識を上げるのはどの年代でもできるのでしょうか。

 

ええ。エネルギーを出している人ならだれでも。もっとはっきり言えば、中今に生きると老いの感覚を持たなくなります。過去を振り返る必要がなく、大事なのは今ですから。

 

──年齢を重ねても若々しい人って、たしかに人生を謳歌していますね。矢作先生も溌剌としていらっしゃいます。今年で62歳には見えませんが、若さの秘訣は?

 

自分の体に感謝をすることでしょうか。「ありがとう」と思うだけでもいいんです。ただし頭で考えるだけではあまり効果はありません。

たとえば仕事に疲れて帰宅し、お風呂に入ってほっと一息ついたら「あ~。いいなぁ~」と感じるでしょう。その感覚を24時間365日抱くようにすると、とてもいいんですよ。そういうちょっとしたことで大丈夫です。”今この瞬間”からでも変えていくことができますよ。

 

 

 

 

──日々の生活で矢作先生が感謝を感じる瞬間というと?

 

自分を取り巻くすべてに感謝ですね。朝起きて、呼吸ができて手足が動く。それこそ百万回でも感謝していますから「こんな時には感謝します」というように限定されはしないんです。いつもすべてに感謝しています。それが当たり前になっているのでしょうね。

食事もそうです。命をいただけるわけですから! 私は肉や魚を摂りませんので、命をいただくこととは少し違うかもしれません。ですが、植物はむしろ動物より意識が高いんです。植物は全体のために生きているようなもの。二酸化炭素を吸って酸素を吐き出し、生命に貢献しています。草食動物などに食べられて生命を活かすエネルギーにもなっています。植物にはそういう意味で自我がありません。植物から何か感じるだけでも、感謝につながると思いますよ。

 

──「いただきます」「ごちそうさま」で、食事は感謝に始まり感謝で終わりますね。小さい頃から何度も口にしている言葉なのに、最近はけっこう言い忘れがちでした。中今に生きると、食事は終われど感謝の気持ちはずっと持ち続けているんですよね。なんだか世界観が変わりそう……。

 

今のあなたが過去への悔やみや未来への憂いの世界に生きているのであれば、そう感じるかもしれません。ですがそれらは幻想なんですよ。大切なのは、今この瞬間に感謝をしながら生きること。幸せは、中今に生きることにあるのでしょうね。

 

 

幸せになりたいなら、自分を変えることが第一歩。必要なのは、感謝の気持ちを抱いて瞬間瞬間を大切に生き切ることのようです。矢作先生から漂う柔らかな空気は、「中今」に生きているからこそ醸し出せるのでしょう。インタビュー最終回では、日本古来の文化や伝統を重要性を矢作先生から説いていただき、人生100年時代のグローバル社会における日本の在り方を探ります。

 

 

 

写真:田形千紘     文:鈴木舞

 

 

 

人間は生き通し。死というゴールテープの先を目指して生きましょう。矢作直樹 氏インタビュー【第1回】

日本の霊性と可能性。意識を上げて自らが変われば、世界が変わる!矢作直樹 氏インタビュー【第3回】

 

 

編集・構成 MOC(モック)編集部
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PROFILE

矢作 直樹

昭和31年横浜市に生まれる。
昭和56年金沢大学医学部卒業後、麻酔科を皮切りに救急・集中治療、内科、手術部などを経験する。
平成11年東京大学大学院新領域創成科学研究科教授、同工学部精密機械工学科教授兼担。
平成13年より東京大学大学院医学系研究科救急医学分野教授および同医学部附属病院救急部・集中治療部部長。
平成28年3月31日、任期満了退任。
平成28年4月(株)矢作直樹事務所を開業。

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