人生100年時代を楽しむ、大人の生き方 Magazine

自立と孤立、依存と共存 中村うさぎ連載コラム 〜第36回〜

 

 

〜連載第36回〜

自立を目指して生きてきたら、いつの間にか孤立していた。

依存症に苦しんでたら、共存という新たな道が見えてきた。

これは、そんな私の半生の話です。

 

 

生きている限り、他者と交わっている限り、我々は傷つき続ける。

他者は必ずしも、あなたの望むとおりの評価をしてくれないからだ。

愛されたいのに、愛してくれない。

認めて欲しいのに、認めてくれない。

あなたが脳内で思い描く自己像は、ことごとく他者によって破壊される。

そのたびに、あなたは自分が破壊されたかのような衝撃と痛みを受ける。

 

だが、よく考えてほしい。

破壊されたのは、あなた自身ではない。

あなたの脳内の自己像なのだ。

あなたが「こうありたい」と願い、あるいは「こうであるはず」と思い込んでいる理想化されたあなた。

それは、あなた自身ではなく、あなたの偶像なのだ。

他者にはそれが見えないから、悪気もなく、あなたの偶像を破壊する。

そして、あなた自身も無自覚に他者の偶像を破壊している。

 

私が「我々は被害者であると同時に加害者である」と言うのは、そのことだ。

誰かに傷つけられたと嘆き、その傷がトラウマとなって自分を苦しめ続けていると主張する人を嘘つきだとは思わないが、彼ら彼女らは自分が同じことを他人にしているかもしれないという可能性に思い至らない。

愛しい自分が傷つけられたことに怒る気持ちはわかるけど、自分だって他者を傷つけてきたのだよ。

しかも、傷つけられたのはあなた自身ではなく、あなたが脳内に構築した「理想の私」だ。

現実のあなたは他者の目にそのように映ってはいないという事実を、あなたは受け容れなくてはならない。

 

我々はナルシシズムの塊なので、しばしば自分を大いに誤解している。

その間違いだらけの自己像を修正できるのは他者しかいない。

なのに他者から「おまえはそんな人間ではない」という事実を突きつけられると、「自分は誤解されている」「誰からも理解されてない」「正しい評価を受けられない」と考える。

誤解しているのは自分なのかもしれないのに。

 

もちろん、本当に誤解されているケースもあるだろう。

とんちんかんな評価を受けて戸惑うこともあるし、謂われない差別や偏見によっていじめを受けることもある。

他者もまた、あなたと同様、思い込みに支配されているからだ。

他者の評価がどこまで正当かを考えると同時に、自己評価が間違っている可能性も我々は常に肝に銘じておく……じつのところ、人間関係というものは、そうやって他者と自分との間にある認識のギャップを埋めていく訓練なのだと私は思う。

そこで学ばなければならないのは、「他者あるいは自己に対する自分の評価は絶対ではない」ということ。

そしてまた、自分と同じように他者も過ちを犯すのだという事実だ。

 

より客観的な自己像を手に入れるために、我々は他者と交わり、他者の目を取り入れる。

それは「人からどう思われているか」を気にしてビクビクすることではなく、冷静に他者の視点で自分を見直すことだ。

痛みを伴う作業ではあるが、自分を誤解し続けていると一生他者からの評価に傷つき続ける羽目になるので、自らの偶像破壊は必要な儀式だと私は思うのである。

それをしてこなかった人間は、自分の偶像を守るために、ひたすら他者を攻撃するようになる。

人生を「他者との闘い」に費やすのは、自分も相手もボロボロになるだけで誰ひとり得をしない不毛な選択ではないか。

 

我々の本当の敵は、常に自分を美化し正当化し、他者を憎むことで偽りの自己像を守ろうとする厄介なナルシシズムである。

自分を愛さなければ人は生きていけないが、「自分じゃない自分」をどんなに愛しても人生は充実しない。

他者の目を通して常に自己像を修正し、その醜さや愚かさも自分自身として受け止め、自分をできるだけ理解したうえで「理想の自分」とは何かを考える。

その作業を経ずに築き上げた自己像は、ただの誇大妄想的な自己に過ぎない。

 

「自信を持て」「プライドを持て」と人は言うが、根拠のない自信やプライドには何の意味もない。

まずは、自分のできることとできないこと、いい面と悪い面を知らなくてはならないのだ。

自分が万能ではないこと、自分の理想からは程遠い人物であることを知る必要がある。

己を知らない者が過剰な自信や見当違いのプライドを振りかざしても、誰も相手にしないだろう。

そしてあなたは、相手にしてくれない他者を逆恨みし、自分より弱い者や下位の者を蔑むことで、その脆弱なプライドを守ろうとする。

 

もちろん、あり得ない自分を妄想する快楽は手放せないので、そういうのはひとりで風呂に浸かりながらいくらでも妄想すればいい。

それが滑稽な妄想に過ぎないとしても誰にも迷惑をかけないからだ。

迷惑なのは誇大妄想的な自己像を他者に押し付ける行為だ。

自分の万能感を満たすために無防備な他者を攻撃することだ。

それだけはやってはいけない。

ネットの叩きなんて、その典型でしょ?

あなたが憎いのは相手ではなく、自分なのよ。

いつもいつもあなたの誇大妄想的な自己像を裏切り続ける自分自身なの。

そこに気づかないと、あなたは本当に不毛な人生を送る羽目になるよ。

(つづく)

 

イラスト:トシダナルホ

 

 

 

 

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編集・構成 MOC(モック)編集部
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PROFILE

中村 うさぎ

1958年生まれ。エッセイスト。福岡県出身。
同志社大学文学部英文学科卒業。
1991年ライトノベルでデビュー。
以降エッセイストとして、買い物依存症やホストクラブ通い、整形美容、デリヘル勤務などの体験を書く。

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